sadojam 小説
南極ユーリ保護地区.38
赤色の工具箱が備えつけてあった。 レンチを取り出しタンクの通風口からタンク内に落とす。 乾いた金属音がした。 燃料は空っぽって事だ。 ドミトリーは舌打ちをした。舌打ちはすぐに風に呑まれかき消された。 立ち上がり周りを見渡す。 荒涼とした雪に囲まれた世界。 自然の圧倒的な巨大さと、生き物の小ささと脆さに、しばし呆然とする。 下から呼ぶ声。 ドクターは1人だった。 感傷に浸ってる場合ではなかった。 降りる前にもう一度周りを見渡した。 もう感傷的な気分は少しも残っていなかった。 まだ脱出したわけではない。 何を安堵してるんだ。 ドミトリーはハシゴを降りながら自分を戒めた。 降りると落としたノーマンは裸になっていた。 [まだ柔らかいから脱がすの楽だったぞ] ドクターはドミトリーに言った。 [小屋に予備の服があるはずだ。しかも思いきり暖かい防寒具がな] ドミトリーは答えた。 ドクターの顔が笑顔になった。 ドミトリーは初めてドクターの笑顔を見た。 そして自分が笑ったのはいつだろうか?…と思った。
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