sadojam 小説
南極ユーリ保護地区.45
すぐに脱出できる準備だけは万全にしてあった。 掛け時計は夜の8時を指していた。 星明かりと白い雪で真っ暗ではないにしろ、ソリを慎重に進める。 星座から進路、脱出ルートも分かる。 ソリのスピードは思ってた以上に早かった。 ドミトリーは練習をしなかった事、発信機に気付けなかった事に何度も悔やみながら、転ばないように運転に集中した。 風の音でドミトリーには聞こえなかったが、ドクターは聞こえたらしい。 ドクターの止まれのジェスチャーでソリを止める。 聴覚に集中する…風の音より低い音が、かすかだが遠くから聞こえる。 ドミトリー達が進む方向から飛行機のジェットエンジン音。 飛行機の明かりが全く見えないのに音が聞こえてくるのは、一機だけではないという事。 ソリを止めた場所は、隠れる場所も、隠せる場所もない平坦な場所。 なるべく平坦な場所を脱出ルートにしたのだから当然でもある。 人間も、ボストーク基地から脱出ルートを割り出してやってきてるのだろう。 懐中電灯で地図を開く…何枚か風で飛ばされたが、かまってられなかった。 夜で雪が凍り、風が強いおかげでソリはスピードを出せる。ソリの走った跡は雪で消えていく。 だが飛行機にはかなわない。人間の科学技術にはかなわない。 ドクターが風の音に負けないように怒鳴る。 [どうするんじゃ?] ドミトリーは答える事はできなかった。
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