通り過ぎると思っていたヘリコプター5機が下降してきた。
[なんでだ?]
ドミトリーは叫んだ。
隠れた事が分かるはずがない。
脳みそをフル回転させる。
懐中電灯を外し乾電池を取り出す。中をまさぐる。
何もおかしな所はない。
[なんで分かったんだ?]
ドミトリーはもう一度叫んだ。
ヘリコプターの騒音が頭上から降ってくる。
雪と風の静寂な白い世界が一変した。
雪がヘリコプターのローターで不自然に舞う。
地響きのような騒音。
目が開けられない位まぶしいライト。
天地がひっくり返ったような気分になった。
ドクターとドミトリーはライオンに囲まれた小動物のようだった。
ヘリコプターと多くの人間に囲まれる。
逃げ場所はもうどこにもなかった。
いや、一ヶ所だけある…死の世界。
荷物からナイフを取り出す。だがそこへの脱出は出来なかった。
[命は助かるだろう…]
ドクターは観念してドミトリーを優しく抱いた。
ドミトリーは泣いた。涙は流れた瞬間、頬に凍りつく。
2人は這い出ると両手をあげて地面にうつ伏せになった。
雪はこんな状況でもいつもと変わらない冷たさだった。