sadojam 小説
南極ユーリ保護地区.48
通り過ぎると思っていたヘリコプター5機が下降してきた。 [なんでだ?] ドミトリーは叫んだ。 隠れた事が分かるはずがない。 脳みそをフル回転させる。 懐中電灯を外し乾電池を取り出す。中をまさぐる。 何もおかしな所はない。 [なんで分かったんだ?] ドミトリーはもう一度叫んだ。 ヘリコプターの騒音が頭上から降ってくる。 雪と風の静寂な白い世界が一変した。 雪がヘリコプターのローターで不自然に舞う。 地響きのような騒音。 目が開けられない位まぶしいライト。 天地がひっくり返ったような気分になった。 ドクターとドミトリーはライオンに囲まれた小動物のようだった。 ヘリコプターと多くの人間に囲まれる。 逃げ場所はもうどこにもなかった。 いや、一ヶ所だけある…死の世界。 荷物からナイフを取り出す。だがそこへの脱出は出来なかった。 [命は助かるだろう…] ドクターは観念してドミトリーを優しく抱いた。 ドミトリーは泣いた。涙は流れた瞬間、頬に凍りつく。 2人は這い出ると両手をあげて地面にうつ伏せになった。 雪はこんな状況でもいつもと変わらない冷たさだった。
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