sadojam 小説
[星くずバレンタイン]
昔の夢を見た。 夢にしてはリアルだった。 これを書いてる最中、当時にタイムスリップしてたんじゃないか?と思うようになった。 それ位リアルな夢だった。 それは僕が中学校3年でバレンタインの日の出来事だった。 当時の僕を今の僕がずっと上から見ていたという夢。 中学校3年生の男子。思春期真っ最中で、どの男も…いや、たいがいのサエない男どもなら誰もが通ったイタい道を僕も爆走していた。俗に言う黒歴史。 その年のバレンタインは金曜日だった。当然早くから意識し、2月にもらった小遣いはバレンタインの翌日ひょっとしてひょっとしたらお礼に使うかもしれない。との考えで一切手をつけずにいた。 まぁちょっとイタイね。でもこれから起こる出来事に比べたらイタくも痒くも無い。 今までバレンタインチョコは女の子から貰った事は一度も無い。 お母さんは女の子じゃない。 それでも今年は…中学生活ラストの年だから。という全く根拠のない理由だけで期待は膨らんでいた。 そう、新しいシャツや靴下で学校に行ったんだ。 玄関のドアを開ける時から、淡い期待は始まっていた。 僕は自転車通学だった。だから最初の期待は僕の自転車のカゴにチョコがあるかも。という。 もちろん無かった。そんなの分かってた。でも期待はしてたんだ。 学校に着く頃には、やっぱり今年も貰えない予感はあったが、それでも期待は消えなかった。 貰えるかもしれない兆候や、出来事なんか今まで無かったし、もちろんモテるルックスも才能も僕には何も無かった。 校門をくぐると現実味が出て、期待は希望へ降格。 それでも一縷(いちる)の希望は捨て切れなかった。捨てられなかった。 あぁ、悲しき男のサガ。 上履きに履き替える際の下駄箱を開ける時、誰も居ないのを見計らってから開けた。 もし、チョコがあったら恥ずかしいからね。 分かってる。イタいよ。うん。イタい。 でも当時の僕は本気で考えてた。 もちろんチョコは無かった。 下駄箱は汚いから入れないよね。 そんな事を自分に言い聞かせながら上履きに履き替える。 授業中は、バレンタインなんて全く意識してないよ。な態度で授業を受けた。 普段よりも集中して先生の話を聞いていた。 休み時間たびに僕はトイレに立った。 クラスには入らず廊下で携帯をいじくる。 ほら、周りに誰も居ないから渡せるチャンスだよ。 と思っての事。 あいたたた。ものすごくイタい。むしろキモい。 当時の僕は気付かなかったのだが、近藤や田中もそれぞれ一人で廊下で携帯を見ていた。 あいつらも同じ事を考えていたんだ。 あぁ、ホント、バカ、丸出し。 結局、何もないまま授業も休み時間も終わる。いつも通り。 分かってる。そんなの分かってた。 それでも、結局恥ずかしくて今日は渡せなかったんだ。明日、渡すかもしれない。 とワラよりも細い希望にすがっていた当時の僕。 泣けてくる今の僕。 でもさぁ、オニギリの具で人気のツナや明太子よりも、昆布や梅干しの方が好きな女の子もいるはず! 全員が全員、好みが同じじゃないじゃん! 下校時間。靴を履き替える下駄箱。 本当の本当のラストチャンスと、僕は願いを込めて下駄箱をゆっくりと開ける。 ざんねーん。 当たり前ながら、今朝入れたままの靴。 一応を考え、丁寧に揃えて入れた靴が、1ミリたりともそのまま。哀しい。 はい、オニギリと男は違うよね。 ところが…。 自転車乗り場で後ろから声をかけられた。 男友達からじゃない。女の子からだ。 振り返ると、そこには秋野さんが立っていた。 秋野さんは中学生なのに高校生の男の子達と遊んでる女の子。 同じクラスだったけど、ハッキリ言って僕とは別の世界に住む女の子。 緩やかなパーマに大人びた感じで、クラスの人気者で。 僕みたいなそこら辺の男の子だったら、チラ見しか出来ないような存在の女の子だった。 [あー、これ…失敗したチョコ…お前にやるよ。棄てるのもったいない…からな] ここで僕はホントの大バカをしでかした。 秋野さんの言葉を[額面通りに素直にそそのまま]受け取ったのだ。 だって秋野さんが、アノ秋野さんが嘘なんてつくわけないからね。 しかも本命チョコとは、立派な梱包で大きいモノだ。と当時の僕は思い込んでいた。 失敗したチョコかぁ。だからくれるんだね。 そう思ってた。 バカ。バカ。バカ! そばで見ていた僕は、当時の僕に悪態をついた。 でも言葉は届かない。夢だからね。 僕は[ど、どうも] の一言だけ。たった一言だけを残して自転車に乗って帰ってしまった。 100回死ね! まさか、アノ秋野さんが僕なんかを好きになるはずが無いし。絶対にあり得ないし。 万が一好きなら失敗したチョコなんか渡さないし。と。 それでも女の子からチョコをもらった。 失敗作だろうがなんだろうが、もらえたのだ! 女の子からバレンタインチョコをもらえた。 当時の僕はそれだけで満足しちゃったのだ。 悲しきバカ。 これが失敗作?美味しい。少なくとも買ったチョコよりかは100倍は美味しい。と思いながら食べた。 いや、それ失敗作じゃないよ。 溶かして固めただけだろうが、手作りだよ。 て、づ、く、り!のチョコレート! 僕の涙声の言葉は、当時の僕には聞こえない。 自転車で帰る僕の後ろ姿を秋野さんはどんな想いで見てたんだろう。 そう思った僕の胸がギュウッと痛くなる。秋野さんホントにごめんなさい。 ホワイトデーに何も返さなかった僕。 失敗作をもらったたから返さなかった訳ではない。 恥ずかしくて返せなかったのだ。 何を返していいか分からなかったからだ。 もうダメね。このバカは死んでも治らないね。 そんな夢を見た。 今の僕は大学一年。 大学生にもなって夢で泣くなんて。 秋野さんとは中学校以一度も会ってない。 自分がなんと愚かだったかに気付いたのは、この夢を見てだ。 つまり今朝だ。 今から会って謝っても[お前何様?]状態だろうし。 でも謝りたい。 タイムスリップだったのかなぁ。 なんでこんな夢を見たのか全く分からない。 明日がバレンタインだからか? 高校は男子校だった。 バレンタイン?なにそれ美味しいの?な状況だった。 もう一度見れるかも、そんな期待を抱いて僕は布団に潜り込んだ。 中学校から僕はなにも変わっちゃいなかった。 終わり。
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コメント

さどじゃむ 5年前
妄想の話かもしれないんすよ。
過去改変(笑)
ミルキークイーン 5年前
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中学生で貰えたことがあるだけでも万死に値する!