もう9月とはいえ残暑が厚く、バイクに乗ってる間はいいが、降りると熱気がすぐに身体にまとわりつき、汗がにじんでくる。
[こんな暑いのにさらに熱いサウナ入るのかよ]
カズは文句を言い始める。きっとバイクに乗ってる間も文句を言ってたに違いない。
なら来るなよ。
とユウキは口まで出かかったが言わなかった。
それは友達には言ってはいけない。
[まぁ、カズは風呂に入ってればいいよ。それにもう夕方だし、ひょっとしたら若い女の子とか家族で来てるかもよ。風呂上がりの女の子ってなんかいいよな]
ユウキはカズに言った。
カズはその気になった。
[じゃあ俺、風呂すぐ出て休憩室にいるよ]
サウナ代は500円。それぞれ支払う。
ユウがまだ支払いしてない。
[お金足りなかった]
ユウの言葉。
[500円あるんじゃなかったのかよ]
ユウキは立ち止まり返事する。
いくら?
250円。
半分じゃん。
うん。
うんじゃねぇよ。どうするんだよ。
うん。
仕方ない。貸すよ。
ユウとユウキのやり取りに、カズが加わる。
[ユウキ貸すのか?]
[だって仕方ないじゃん]
[ジュース代も]
ユウはいけしゃあしゃあと言った。
財布を調べる。キップ販売機で千円入れたお釣りが百円玉で返ってきてたから、百円4枚渡す。
[これで2200円だからな。ちゃんと返せよ]
[うん]
こいつはありがとうも言えないのか?
ユウキは思ったが、ユウならまぁいいやとも思えた。お金は絶対返してもらうけど。
サウナは夕方のせいか、そこそこ人が居る。
[お前らまだ働いてないのか?]
暇な年寄りが三人に声をかけてくる。
三人の誰かしらの知り合いなのだ。
島の人間関係は狭い。
下手に悪さも出来ない。
適当に相づちと愛想笑いをし風呂に。
時間はたっぷりとある。
三人並んで軽く身体を洗いサウナへ。
珍しくカズもサウナに入ってきた。
いつもはユウキとユウだけなのだ。
幸せのため息をつくユウキ。
世の中金じゃねぇな。と思えるひととき。
数分も立たないうちにカズが立つ。
[なんだよ。入ったばっかだろう。相変わらずヘタレだな]
ユウキの軽口にカズが余計な事を言った。
[先に出てどちらが先に出るか見てやんよ]
先出しジャンケンをカズはした。カズは審判役を勝ち得た。
幸せのひとときが一転、不幸の時へ変わってしまった。
サウナ室の時計の針が一周する。
[なぁ、ユウ、無理すんなよ。もう出たいだろ?]
[うん。大丈夫]
こいつ…!
ユウキは額から大粒の汗をぬぐいながら心の中で思った。
幸せのため息とは違うため息を一つユウキはつく。
ユウは変なところで負けず嫌いなのだ。
[なぁ、一緒に出るってのはどうだい?]
ユウキは提案した。
[出口一人分の幅しかないよ]
ユウの返事。
こいつは…。
ユウキは黙り込む。
入れ替わりおじさんや爺さん達が入っては汗を残して出て行く。
知り合いのおじさんの話す言葉を聞く余裕がなくなる。
顔の汗を拭う。
手が赤い。鼻血が出た。
[あ、やべ。おい、俺、鼻血出た]
ユウキはユウを見る。
ユウはすでに鼻からドバドバと鼻血を出していた。
[早く出ろよ!]
ユウキは慌てた。
[うん。大丈夫]
[大丈夫じゃねぇよ!]
ユウキは舌打ちしてから言葉を続ける。
[分かったよ。俺が先に出るから。
血をこぼすなよ。俺が怒られるんだからな]
[うん]
ユウキも鼻にタオルをあてた。
鼻血よりも水風呂に入りたかった。
水風呂には爺さんとおじさんが既に居た。
入るスペースが無い。
洗い場で水シャワーを浴びる。
隣でユウも同じことをしてる。
それを見てカズが笑い転げてる。
洗い場の床が赤い。
こういうサウナは嫌いだ。
鼻からまだ止まらないポタポタと落ちる
血を見ながらユウキは思った。
……
終わり。