美しい。
遥か高みより落ちる滝は、大地へ届くことなく霧となり、広大な湿原を潤す。あぁ、眩しい。世界が虹色に輝くせいかな。水滴を纏 った草花も、宝石のように煌 びやかだ。
良かった、美しいという感情がまだ残っていて。もう名前すら朧 げで、自分はただ土を踏み行くだけの抜け殻でしかないから。
足元に来た妖精が首をかしげて顔をのぞいてくる。「あなたはだぁれ?」って? さぁ⋯⋯、「サトシ」と呼ばれていたような。「ヤマモト」だったかな。それでも、使命だけは忘れない。
目の前には、頭以外を地に埋めた大岩。少し離れたところに、モフモフした猫。多分、長く連れ添ってきたんだろう。あんな心配そうな顔されるなんて。うん、早く終わらせよう。
「安心して、もうこれで最後だから。後は頼んだよ」
左手に嵌 めた腕輪へ優しく、そっと語りかけるようにして魔力を通すと光が溢れ出す。
「原初 の証は何人 も触れること能わず」
「原初の証もて次なるものを明らかにせよ」
「次なるものはさらに次なるものを明し連環となせ」
「魔の循環から外れし連環は地に眠る」
「今こそは神秘が織りなす始まりの刻」
「顕現せよ! 其は、エクスカリバー!!!!」
大岩に剣を突き立て、あらん限りの魔力を流し込む。
瞬く間に大岩の奥底から地脈に一筋の光が走り、何匹もの龍が空を翔けるごとく世界へ散って行く。どこからか微かに、刻を告げる鐘が鳴った。
コメント投げ銭ありがとうございます!
雰囲気出てますかね?いやー、かなり練ったので嬉しいです!
ゆっくりでいいので読んでみてくださいませ。