次から次へ出された料理を全てたいらげた後、彼は煙草に火を付け言った。
[知らない方が良かった事か…]
煙草の煙を吐きながら、ため息をついた。
[金があれば幸せになれる…か…ありゃ嘘だ]
紫煙がカウンターに漂う。
ナマものを扱う店は禁煙じゃなかったかしら?
でも灰皿がある…重厚な灰皿。
不景気には勝てないのかしら?
確かにバブルがはじけ不景気になり、店が客を選べない時代になって長い。
店側も金があれば煙草吸う客は丁重に、断る事もできる。
彼はそんな事は気付きもせず話を続ける。
[金があると騙しあい、探り合いになるんだ。俺が金をバラまきだした途端に、人が集まってきた。ない時は俺に見向きもしなかったヤツらもな]
灰皿に煙草を乱暴にもみ消す。
彼にも悩みがある…金持ちにも、金がない人にも。