神崎が気が付いたように話しだす。
[近藤って好きな人とかいる?]
[前に聞かなかったっけ?]
私は即答した。
神崎は苦笑い…質問しなおした。
[お前って好きとか愛とか分かる?]
以前は考えてた。
[気になったり、一緒にいたい。って思う事でしょ?]
神崎は黙ったまま。
[間違ってる?]
私は聞いた…私にはそう思える人がいない。今までにも。
だから何かの本で知った…受け売りの言葉。
[合ってるよ。俺は作詞や作曲もするんだよ。だから愛については考えてる方だからな]
[もてるでしょ?]
私は聞いた。
神崎護…ウルフというバンドのヴォーカル。
身長も高く、ルックスもそれなりによい。
もてないはずはない。
[もてるよ]
さらりと言う。
[でもそれはバンドやってる時の俺なんだ。バンド辞めた俺は、俺じゃないらしい]
[辞めたらいいじゃない]
イヤならやらない…やるならやる。
[…愚痴だな。ごめん…こんな事を話すつもりじゃなかったんだ]
手に持っていた飲みきった缶コーヒーを取られ、神崎はゴミ箱へ捨てに行った。
神崎も妙子もパパも皆生きている。
父親も生きている。
私も生きている。
何で皆こんなに違うんだろう。
それぞれが何かの為に、生きている。