PM18:54 都内 高速道路上
「……クソっ!!」
車を飛ばして警察署へ戻る道中、苛立つ真坂部の貧乏揺すりは止まることを知らなかった。
「先輩落ち着いてください……」
「落ち着けだ? じゃあお前は説明出来るのか。エレベーターに乗った少年達が煙の様に消えたんだぞ。どうしたらあんな事が起きる!?」
車を運転する舘上も、真坂部の気持ちは重々理解している。彼も同じ現場に居合わせていたのだから。
「きっと悪い夢ですよ。僕らここ最近捜査詰めでしたし、疲れてたんじゃないですかね」
「そんなんで片付けられるか! 寝呆けてなんかない。きっとアイツは、今回の事件に関わっているんだ!」
「……その根拠は?」
「刑事の勘だっ!」
それでも真坂部は諦めなかった。あの少年は何か知っている――そうでなければ、あんな意味深な台詞は言わなかったはずだ。
『俺は人間を誰も殺してない――それだけです』
人間でなければ殺すのか? という素朴な疑問が、彼の頭を離れないのだ。
「とにかくあの少年については、俺達だけで捜査する。上部 には報告不要だからな」
「えぇぇ……まぁいいですよ。どうせ言っても信じてもらえそうにないですし」
「まずは署に戻って、あの少年のことをもっと調べ上げるぞ」
真相への執念を駈り立てるように、車はスピードを上げて警察署へと急ぐのであった。
しかし――
「ちょっと待て」
真坂部が違和感を感じ取った。
「……どうしました? 先輩」
「…………」
徐に車内のバックミラーを動かす真坂部。自分達の車から約二十メートル後方に、妙 な も の が鏡に映っていたのだ。
「何だ……アレは……」
現れたのは一台の四輪バギー。黒と炎柄のカラーデザインと、フロントに「夜露死苦 」と描かれた派手な車体。このご時世にはあまり見ない――悪く言うなら時代遅れな車が、騒がしくエンジンを唸らせて真坂部達の後に続いていた。
それよりも妙な違和感を覚えるのは、塔乗者――先端が鳥の嘴 の如く尖ったヘルメット。銀の装飾を飾ったコートやブーツまで全て漆黒に染まっており、至る所に黒羽を纏う――まるでカラスを模したようなその人物は、ハンドルすら握ることなく悠々と脚を組んで座していた。
他に走行車が走ってないため、一層目立つその奇妙な光景は、真坂部にある種の恐怖と予感を沸き立たせたのだ。
「っ!!」
自分達を襲うのではないか――そう予感した時には、バッグミラー越しに映る搭乗者の懐から筒状の何かが取り出される。
――拳銃だ。
「伏せろっ!!」
真坂部が叫ぶと同時、車内の窓ガラスはバックミラー共々轟音により砕け散る。
けたたましい車のブレーキ音と拳銃の号砲が入り混じり、高架上は現実から隔離された地獄への一本道へと変貌した……。
* * *