深い闇の中、いきなりの不快な砂嵐とノイズ音から映像は始まった。
この時初めて創伍は織芽にこっぴどく叱られ、彼女が帰った後にズキズキと頭が痛み出して、そのまま寝落ちしたことを思い返す。気まぐれなタイミングで訪れる回想に少し苛立つが、今の創伍にはそれを視る以外に選択肢はなかった。
最初に見えるのは、スケッチブックに色鉛筆で塗られていくオボロ・カーズの絵。幼少の創伍は膝上を机代わりに、片手には色鉛筆、もう片手には妖怪の絵本と、かなり食い入るように絵描きに取り掛かっていた。
そう、これはオボロ・カーズの出自の瞬間。
妖怪の朧車を参考に、妖怪を現代風にアレンジしたらどうなるかという絵を描いていたのだ。
――だが、しっくり来ない。
オボロ・カーズの出自についてと、当時の自分が独創的なのは呆れるくらいに理解した。だが以前と違い、周囲の光景に違和感があった。まるでそれを思い出させないかの如く黒い靄が掛かったように見えないのだ。
「そ……ご……………………よ」
今、何か聞こえなかったか――
視界の右手から雑音がした。勿論、当時の創伍の視界は反応して右を向くのだが、視線の先にはやはり黒い靄が掛かり、誰かと話しているように思えるが、人の姿すら映らない。
「……く……く……」
すると創伍の視界は、靄の中へと入り込んで前進し始めた。絵を描いていた途中で立ち上がり、雑音に導かれるように走り出したのだ。創伍の視界と意識は再び暗い闇の中へと沈んでいく――
……誰か居たのか? あぁ、ダメだ。これだけでは何も分からない。
回想は、その先をもっと見せて欲しいと願う創伍の意思を無視して、眠りの中へと突き落とすのであった。
* * *