視界一面に、テレビでよく見る砂嵐が広がる。耳には不快なノイズや耳鳴りが渦巻き、創伍は今の自分の状況が分からない。
ここは何処だ。誰かいないのか――
心の声に反応するように、砂嵐は波打って乱れ始めると、少しずつ何かが見えてくる。ノイズも小さくなっていくと、誰かの声が聞こえてきた。
『……打て、打て打て! ひたすら連打だ!』
『ロケラン発射だッ!』
朧げに見えるのは、肩を寄せ合う四人の子供の背中。彼らの前方にはブラウン管のテレビが置いてあり、現代ではあまり見ないポリゴングラフィックで精一杯の恐怖を与えるように描かれたゾンビや怪物が映る。
視界は、子供達がテレビゲームで遊ぶ後ろ姿を眺めるという光景だった。
「ボス戦入るぞ! リロードしとけ!」
「出た、カマキリの怪物!!」
いよいよボス戦。カマキリをモチーフとしたグロテスクなボスが現れると、彼らのゲームは大詰めとなり、次第に盛り上がる。
一方、創伍の視界はただそれを眺めているだけではなかった。時たま下を向いて何 か をしているのだが、その何 か とは、映像の乱れのせいで把握しきれない。
「マシンガンで対応するしかないよ!」
「ダメダメ、そんなの全く効かないから!」
「あー、攻撃が止まらないよぉ!!」
鎌状の足を振り回すボスの攻撃は止まらず、ゲームのプレイヤー達は次々とダメージを負い、遂にはゲームオーバー。
「あーあ、死んじゃった……」
「やっぱり途中でロケランの弾をもっと集めた方がいいって」
「そうだね。それならだいぶ体力に余裕が持てると思うし……」
反省点を振り返り、次のリベンジへ意気込む子供達の会話が止まると、彼らの視線はこちらに集まり、声を掛けてきた。
「どうする創伍、交替する?」
子供が創伍の名を呼んでゲームへ誘うと、視界は左右に揺れ、誘いを断った。
「何だよノリ悪いな~」
「創伍ってさぁ、部屋に来てから絵しか描いてないじゃん」
「もういいよ、放っておいて。続きやろうぜ」
「本当に創伍って、絵を描くのが好きだよなー」
彼らはそう言って、不快そうな顔でまたゲームに没頭する。
そして視界もまた下を向く。ここで初めて映像の乱れが止み、何 をしていたのかが鮮明に映し出される。
絵を描いていた。
スケッチブックに、クレヨンや色鉛筆が擦り切れるまで絵を描いている。そしてその絵に描かれていたのは――
『ヒュー・マンティス』
創伍は思い出した。
彼は、何をするにおいても絵を描くことが一番好きだった。この記憶は、ヒュー・マンティスという存在が絵に描かれた瞬間の出来事。
少年達がプレイするゲームを参考に、人間の「ヒューマン」とカマキリの「マンティス」を文字って出来上がった存在。
断片的に欠けていた記憶がはっきり蘇ると、創伍の意識と視界は再び砂嵐とノイズに包まれて遠退いていった……。
* * *