その日。春明は、体調不良に襲われていた。
特に、体調不良につながることをしたということはなかったが、理由がわからない体調不良に、春明は驚くほどポジティブだった……
「本当に、大丈夫か? 春明……」
「大丈夫だよ……これくらい。」
春明が大丈夫と思ったのには理由があり、前にも似たようなことがあった。ただ、その時は、すぐに回復してしまったため今回も大丈夫だろうと思っていた。
ただ、今回は違っていたようで……
『あれ……』
ドサッ!!
春明は美琴の後ろで、めまいのような感覚に襲われその場に倒れこんでしまったのだった……
「春明!? 春明!! しっかりしろ!!」
それから、遠のく意識の中。春明は耳元で叫ぶ美琴の声がいつもよりうるさく感じるのだった……
そして、春明が次に目が覚めたのはベッドの上だった。
入院着に着替えさせられ、ベッドサイドには点滴の山。これほど見事につながれているのもよっぽど、春明が体調不良だったことの証だった……
「は、春明……よかったぁ…。起きないかと思った……」
「美琴……僕……。」
両目に涙を一杯にためて、春明を見る美琴の姿は、まさに彼氏?のようだった。そして、春明は何の気なしに質問をした。
「美琴。はちやみけも来てるの?」
「は? 何言ってるんだ? そこにいるだろ?」
「えっ?」
美琴が指をさすところは、春明の足元。その足元のシーツは、うっすら引っ込んでいた。つまり、そこにはちとみけがいるはずなのだが……
「そこにいるんだよね?」
「春明。まさか……」
「うん。見えてない……」
本来なら、事務所の賑わいの種のひとつに、みけとはちがはしゃぎまわるのがあったが、それを全く見ることができなくなっていた。
「あ、そういえば……」
美琴は、春明が作ったアヤカシが見える眼鏡を持ってきたのだが、春明は察したようだった。
「ほら、これかけたら……」
「ごめん。美琴。それ、妖力を流さないと単なる伊達メガネなんだ……」
「じゃぁ、つまり……」
「あぁ、開発したとは言っていたけど、どうしても本人たちじゃないと伝えられないことってのがあるからね。」
「おまえ。まさか……。ずっと、妖力使って……」
「うん。ある程度、妖力を流し込めば、その妖力を使って見たり、聞いたりすることができるんだけどね……」
「そんな……」
それから、担当医師が来るものの、目には異常もなく、生活する分には平気だった。ただ、春明にはアヤカシが見えなくなってしまっていたのだった……
それから春明は、事務所に戻るが、そこはいつにもまして閑散として見えていた。美琴は札を使いアヤカシを見えるようにして、アヤカシが春明の心配をして集まっていることが分かったが、それを春明自身は見ることができていなかった……
「休んでなくて大丈夫か? 春明……」
「うん。今日も誰か来てるんでしょ?」
「あぁ、お前の周りは、お祭り騒ぎだ……」
「うそっ?! みんないるの?」
春明は、椅子に座り周囲をキョロキョロとするものの、春明の目にアヤカシ達が映ることはなかった……
一方のアヤカシ達はというと、見えないことにガッカリするものや、見えないだけで声も聞こえないのか? とあえて耳元でささやくものなど、いろいろ賑やかな状況になっていた。
「ごめんな。美琴……」
「えっ? 改まって……」
「いや、しばらく美琴まかせになっちゃうなぁ~って……」
「いいさ、これくらい……」
その話を美琴にしている間も、春明の周りや美琴の周りでは、終始、アヤカシがにぎやかにしている様子だった。その証拠に、美知留はキョロキョロと落ち着きのない様子で、真っ赤になったりおどけて見せたりなど、普段は見れない美琴の表情豊かな姿が見え、春明はかえって笑顔になったのだった……