里音書房
第8話 明治転生録 -筋肉痛とマッサージ-
 その日。美知留は、ギリギリ起き上がることはできていたが、足腰が立たない状態になりかけていた。  前日、咲夜の発案で、近郊の観光をして帰ってきた美知留は、そのまま熟睡するほどに疲れていた。  普段からそこまで運動することはなく、こっちの時代に来る前の移動方法といえば、もっぱら電車移動ということも相まって、完全な運動不足だった。  こっちの時代では、歩きが基本なこともあり、そこまで長距離を歩くことは、皆無。当然のように、太ももなどの足周辺が悲鳴を上げていたのだった…… 『んあっ!! のぉっ!! 痛い!!』  起き上がったり、動こうとするたびに、激痛が美知留を襲っていた。そのたびに悶えていた。  使用人として、たかやと一緒に手伝いをしていた美知留だったが、今日はどうも手伝うことができそうにもなかった。しかし、そのことを伝えようにも、全く身動きを取れないに近い美知留は、困惑していた…… 『スマホで連絡……はないなぁ~。現につながらないし……』  バイトを休む場合はスマホでの連絡が多かった美知留。この時代でそんなことができるはずもなく、悶えるしかなかった……  そんなことが美知留に起こっていることなど、全く知らないたかやは、厨房で美知留の到着を待っていたのだが…… 「あいつは何をしてんだ? 全く……」  たかやからすれば、待望の人員な上に、美緒とのクッションにもなってくれることから、たかやからすれば、美知留が右腕のような存在だった。そんな、右腕の美知留がいないのだから、ひとりですべてをやらなければいけなくなる……  屋敷の掃除から、トイレの掃除。美知留が来る前は当たり前のことだったが、美知留の物覚えの良さと手際の良さで、たかやが一気に楽になったのも事実だった。そのため、いきなり来なくなると困ってしまう…… 「仕方ない。起こしに行くしか……」  渋々、たかやは美知留の部屋へと向かい、扉の前に立つと中からは美知留が悶えている声が聞こえた。その声は、痛みに悶えているようにも聞こえたたかやは、部屋へと入っていく…… 「美知留? だいじょう……ぶっ?!」 「あ、たかやさん。助けて……」  うつ伏せになった美知留は、悶え続けていた。それも、メイド姿で……  疲れすぎたことで、着替えるのも忘れそのまま眠ってしまったのだった。 「ちょっ、美知留。な、なにをしてんだよ……」 「い、いや。これは……んっ!! イッ!!」 「まさかとは思うが……筋肉痛か?」 「そ、それ……」 「はぁ~」  動けば動くほど、痛みが体を抜ける美知留は、その度に変な声が出ていた。それと同時に、短いスカートがめくれ上がり、あられもない姿になっていた。 「美知留……あんまり動くな。白いのが見えるから……」 「いや、だって……あ、そうだ。揉んで。って、見えたの?!」 「いや、ちがっ。」 「たかやさんのえっち。」 「いや、不可抗力だろ、今のは……」  美知留の時代では、揉むのは普通のことで、揉んで血流をよくすることで、疲労物を排出するのが基本的。しかし、美知留の今いる時代では、揉むなんてもってのほか、安静が一番といわれていた。ただ…… 『も、揉むってどこをだよ……』  この当時の男性にとって、女性の体に触れることなんて、皆無に近い。まして、女性からななんて、恋人同士ですらなかなかあるものではなかった。  それは、たかやとて、同様。美知留から揉んでと言われたことで、いやおうなしにいろいろと、想像してしまうたかやだった…… 「太ももをもんで……」 「太ももって……お前……」  たかやの前には、美緒と同年代の美知留の太ももがある。やさしく触れば、手に吸いついてきそうなスベスベの肌。そして、スカートがギリギリ大事なテリトリーを隠していた…… 「早く……」 「わ、わかった……」  そして、ゆっくりと美知留の太ももに触ると、確かに筋がピン! と張ってしまい、筋肉痛であることが、医学知識のないたかやでもわかるほどだった…… 「んあっ!」 「ちょっ! 美知留……変な声出すなよ。」 「だ、だって……んっ!!」  単純な筋肉をほぐすためのマッサージだったが、たかやが手を動かすたびに、美知留は変な声を出してしまっていた。その声は、意外と通るもので、部屋中に響いていた。 「んんっ!! たかや、さん……」 「だから、変な声をだすなよ、美知留……」 「そ、そんなこと言っても……。で、でちゃうからぁ。んっ!!」  声だけを聴くと、あからさまに昼からいやらしいことをしているようにも聞こえる。それは、美緒が乗り込むという結果を導いていた…… 「た、たかや。あなたは、なにをしてるのかしら……」 「み、美緒様?! こ、これには深いわけが……」  たかやの言い訳もむなしく…… 「たかやのへんたい!!」 バチーン!!  美緒の見事な左手ビンタが、たかやにヒットしたのだった。それから、事の次第を説明すると、ようやく美緒は納得してくれたのだった…… 「そんなことがあったのね。」 「わかってくれましたか……」  頬に見事な美緒の手形が付いたたかや。そして、美知留の方から揉んでほしいとお願いしたことも、理解したようで…… 「美知留、あんたね……。紛らわしいことしないの。それに、あなたは自分の魅力を自覚しなさいよ。はぁ。」  たかや無実は何とか晴れたのだった。一方の美知留はというと、いまだに筋肉痛のままだった…… 【おまけ】  その後、美知留はたかやのマッサージのおかげか、起き上がれるまでに回復し、あれほどムキになっていた美緒は、冷静さを取り戻していたのだが…… 「美知留にしたんだから……あたしにも……」 「へっ?」  無実が晴れ、胸をなでおろしたたかやだったが、今度は美緒がベッドにうつ伏せになり、自分にもやってほしいと言い出した…… 「いやいや。それはさすがにどうかと……」 「美知留にできたんだから、いいでしょ?」 「いや、それでも、ムリですよ。」  美知留のベッドにうつ伏せになった美緒は、ばたばたと足をばたつかせて子供のように駄々をこねる。幸いだったのが、スカートではなかったことだった……  仕方なく、たかやが折れる形で、美緒の横へと移動する。美緒の細い腰と手足は、あまり強く揉めば壊れてしまいそうだった…… 「本当にいいんですよね? 美緒様……」 「う、うん……」  そして…… 「んっあっ!! んっ。」 「美緒様……。こ、声。」  美緒のつやっぽい声が部屋中に響き。やっぱり…… 「たかや、あんた。何してるの?」 「はっ!! 咲夜様?! これにはいろいろあって……」  どこかで見たような一連の流れを、またしても繰り返したたかやだった……
ギフト
0