その日。美知留は、ギリギリ起き上がることはできていたが、足腰が立たない状態になりかけていた。
前日、咲夜の発案で、近郊の観光をして帰ってきた美知留は、そのまま熟睡するほどに疲れていた。
普段からそこまで運動することはなく、こっちの時代に来る前の移動方法といえば、もっぱら電車移動ということも相まって、完全な運動不足だった。
こっちの時代では、歩きが基本なこともあり、そこまで長距離を歩くことは、皆無。当然のように、太ももなどの足周辺が悲鳴を上げていたのだった……
『んあっ!! のぉっ!! 痛い!!』
起き上がったり、動こうとするたびに、激痛が美知留を襲っていた。そのたびに悶えていた。
使用人として、たかやと一緒に手伝いをしていた美知留だったが、今日はどうも手伝うことができそうにもなかった。しかし、そのことを伝えようにも、全く身動きを取れないに近い美知留は、困惑していた……
『スマホで連絡……はないなぁ~。現につながらないし……』
バイトを休む場合はスマホでの連絡が多かった美知留。この時代でそんなことができるはずもなく、悶えるしかなかった……
そんなことが美知留に起こっていることなど、全く知らないたかやは、厨房で美知留の到着を待っていたのだが……
「あいつは何をしてんだ? 全く……」
たかやからすれば、待望の人員な上に、美緒とのクッションにもなってくれることから、たかやからすれば、美知留が右腕のような存在だった。そんな、右腕の美知留がいないのだから、ひとりですべてをやらなければいけなくなる……
屋敷の掃除から、トイレの掃除。美知留が来る前は当たり前のことだったが、美知留の物覚えの良さと手際の良さで、たかやが一気に楽になったのも事実だった。そのため、いきなり来なくなると困ってしまう……
「仕方ない。起こしに行くしか……」
渋々、たかやは美知留の部屋へと向かい、扉の前に立つと中からは美知留が悶えている声が聞こえた。その声は、痛みに悶えているようにも聞こえたたかやは、部屋へと入っていく……
「美知留? だいじょう……ぶっ?!」
「あ、たかやさん。助けて……」
うつ伏せになった美知留は、悶え続けていた。それも、メイド姿で……
疲れすぎたことで、着替えるのも忘れそのまま眠ってしまったのだった。
「ちょっ、美知留。な、なにをしてんだよ……」
「い、いや。これは……んっ!! イッ!!」
「まさかとは思うが……筋肉痛か?」
「そ、それ……」
「はぁ~」
動けば動くほど、痛みが体を抜ける美知留は、その度に変な声が出ていた。それと同時に、短いスカートがめくれ上がり、あられもない姿になっていた。
「美知留……あんまり動くな。白いのが見えるから……」
「いや、だって……あ、そうだ。揉んで。って、見えたの?!」
「いや、ちがっ。」
「たかやさんのえっち。」
「いや、不可抗力だろ、今のは……」
美知留の時代では、揉むのは普通のことで、揉んで血流をよくすることで、疲労物を排出するのが基本的。しかし、美知留の今いる時代では、揉むなんてもってのほか、安静が一番といわれていた。ただ……
『も、揉むってどこをだよ……』
この当時の男性にとって、女性の体に触れることなんて、皆無に近い。まして、女性からななんて、恋人同士ですらなかなかあるものではなかった。
それは、たかやとて、同様。美知留から揉んでと言われたことで、いやおうなしにいろいろと、想像してしまうたかやだった……
「太ももをもんで……」
「太ももって……お前……」
たかやの前には、美緒と同年代の美知留の太ももがある。やさしく触れば、手に吸いついてきそうなスベスベの肌。そして、スカートがギリギリ大事なテリトリーを隠していた……
「早く……」
「わ、わかった……」
そして、ゆっくりと美知留の太ももに触ると、確かに筋がピン! と張ってしまい、筋肉痛であることが、医学知識のないたかやでもわかるほどだった……
「んあっ!」
「ちょっ! 美知留……変な声出すなよ。」
「だ、だって……んっ!!」
単純な筋肉をほぐすためのマッサージだったが、たかやが手を動かすたびに、美知留は変な声を出してしまっていた。その声は、意外と通るもので、部屋中に響いていた。
「んんっ!! たかや、さん……」
「だから、変な声をだすなよ、美知留……」
「そ、そんなこと言っても……。で、でちゃうからぁ。んっ!!」
声だけを聴くと、あからさまに昼からいやらしいことをしているようにも聞こえる。それは、美緒が乗り込むという結果を導いていた……
「た、たかや。あなたは、なにをしてるのかしら……」
「み、美緒様?! こ、これには深いわけが……」
たかやの言い訳もむなしく……
「たかやのへんたい!!」
バチーン!!
美緒の見事な左手ビンタが、たかやにヒットしたのだった。それから、事の次第を説明すると、ようやく美緒は納得してくれたのだった……
「そんなことがあったのね。」
「わかってくれましたか……」
頬に見事な美緒の手形が付いたたかや。そして、美知留の方から揉んでほしいとお願いしたことも、理解したようで……
「美知留、あんたね……。紛らわしいことしないの。それに、あなたは自分の魅力を自覚しなさいよ。はぁ。」
たかや無実は何とか晴れたのだった。一方の美知留はというと、いまだに筋肉痛のままだった……
【おまけ】
その後、美知留はたかやのマッサージのおかげか、起き上がれるまでに回復し、あれほどムキになっていた美緒は、冷静さを取り戻していたのだが……
「美知留にしたんだから……あたしにも……」
「へっ?」
無実が晴れ、胸をなでおろしたたかやだったが、今度は美緒がベッドにうつ伏せになり、自分にもやってほしいと言い出した……
「いやいや。それはさすがにどうかと……」
「美知留にできたんだから、いいでしょ?」
「いや、それでも、ムリですよ。」
美知留のベッドにうつ伏せになった美緒は、ばたばたと足をばたつかせて子供のように駄々をこねる。幸いだったのが、スカートではなかったことだった……
仕方なく、たかやが折れる形で、美緒の横へと移動する。美緒の細い腰と手足は、あまり強く揉めば壊れてしまいそうだった……
「本当にいいんですよね? 美緒様……」
「う、うん……」
そして……
「んっあっ!! んっ。」
「美緒様……。こ、声。」
美緒のつやっぽい声が部屋中に響き。やっぱり……
「たかや、あんた。何してるの?」
「はっ!! 咲夜様?! これにはいろいろあって……」
どこかで見たような一連の流れを、またしても繰り返したたかやだった……