『なに、この状況……』
先日、互いが両想いであることが分かった、美緒とたかや。しかし、いざ恋愛といっても男女のそういう交際をしたことがないたかやと、女性同士での付き合いもあんまりなく男女の恋愛すら疎い美緒にとっては、どうしたらいいのか全く分からない状態だった。
「み、美緒様……」
「は、はい。」
「こ、これを……」
「あ、ありがと……」
通常の付き人としての仕事にすら、支障をきたすほどだった。それは、咲夜もわかるほどにあからさまだった……
「ねぇ。美知留。あの二人。どうにかならない?」
「え、えぇ。こっちがじれったくなりますね。」
「美知留もそう思うでしょ? もう。いい加減付き合っちゃえばいいのにね」
その後も、美知留と咲夜の差し金もあり、ふたりっきりになるタイミグはあったものの……
『いや、キスくらいしなさいよ!!』
『そうです、たかやさんの意気地なし!!』
美緒の個室に手伝いに行ったたかや、不意に互いの距離が近づいたり、頬が触れる近さに密着する。それでも、キスをすることはなく、すき間から目撃した美知留も、モヤモヤするほどだった……
そんな関係が続き、療養も最終日を迎えた日。美知留は意を決してたかやをけしかける。
「い、いつになったら、告白するんですか?! たかやさん!」
「な、なんだよ。いきなり……」
「美緒ちゃんのこと、好きなんでしょ?」
「お、おう。」
「なら、どうして……」
もじもじと、珍しくたかやが戸惑った後、美知留にその気持ちを打ち明けた。
「恥ずかしいんだが、この年まで、告白というものをしたことがないんだ。」
「えぇっ。そんなことで……」
「そんなことって、お前……。一世一代のことなんだから。それに、お仕えする相手に告白とか……」
確かに、付き人が仕える相手に恋心を抱くのは、付き人冥利に尽きるだろうが、それでいざ恋愛になるのか?と言われれば、それまでである。そのため、たかやは踏ん切りがつかない様子だった……
『まぁ。確かにわかるけども……』
「今日。最終日よ? ここまで接近できるのって、今日が最後かもよ?」
「うぐっ。それは……」
「うまく都合つけて、美緒ちゃんを海岸に呼ぶから、告白して!! いい?」
「お、おい。ちょっ……」
たかやの返事を聞く前に、美知留は部屋を飛び出し、美緒の元へと向かう。当然美緒も同じように驚いた表情で……
「む、無理よ……」
「どうして? たかやさんが使用人だから?」
「いや、そういうことじゃなくてね……」
「じゃぁ、なんで……」
渋々といった具合に美緒は、話し始めた。それは、乙女として、近ノ衛家の長女として、迷っているということだった……
「だって、近ノ衛家の使用人とよ? は、初めてだし。こんな気持ち……」
もじもじとしながらも、精いっぱい考えながら話す美緒の表情は、同姓の美知留ですら、かわいく思ってしまうほどだった……
『あぁ。もう。かわいいなぁ。美緒ちゃん。』
耳まで赤くなった美緒を見た美知留は、今しかない!と思い立ち、美緒をけしかける。それは、ごく自然なことだった。
「今晩、海岸に行って。いいことがあるから。必ず行って。ね。」
「わ、わかったわよ。」
美知留に言われるがまま了承した美緒は、海岸に行くとたかやと遭遇して困惑するも、意を決したたかやの告白によって無事に付き合い始めることになったのだった。
【おまけ】
美知留は自分が言った手前、成就してもらわないと困るので、美緒に気が付かれないように、ゆっくりと後を追いかけていく。
「もう。美知留ったら。強引よね。」
「一応。来たけど……」
ぶつぶつと独り言を離しながらも、海岸へと来た美緒の背中に、聞き覚えのある声が美緒を呼び止めた。
「み、美緒様」
「えっ? あ。た、たかやさん?!」
たかやがいるとは思っていなかった美緒は、どんな反応をしていいのか、戸惑ってしまっていた……
耳まで真っ赤になった美緒の顔は、遠くからのぞき見している美知留まで、恥ずかしくなるほどだった。その美知留の姿を見つけたのか……
「ようやくね。美緒……」
「あっ、咲夜さん。えぇ。何とか、待ち合わせするように、仕向けました」
「よくやったわ。美知留。」
そんなやり取りが遠くで繰り広げられているとは、全く知らない美緒とたかや。月明かりに照らされた二人の間には、告白するのにはもってこいの空気が流れていた。
「えっと、その……」
「きょ、きょうは。思いを伝えようと思って……」
「えっ……あっ。うん。」
たかやの真剣な表情に、美緒も察したようで、うつむき加減になり気持ちを整理していた。そして……
「み、美緒様……いえ、美緒さん。」
「は、はい。」
「俺と、付き合ってください!!」
その瞬間。美緒とたかやの周りが、月明かりに照らされて、一枚絵のようなきれいな告白の光景になっていた……
その様子を遠くから眺めていた、咲夜も美知留もほほえましいく感じていた。そして、部屋に戻った美緒を、ふたりで大歓迎したのだった。
「おめでとう!! 美緒~~」
「ちょっ。何?」
「なにって、たかやさんの彼女だね。」
「なっ?! 見てたの?」
「うん。咲夜さんと一緒に。」
「うん。見届け人もいることだし、確定だな。」
「もう!! ふたりとも~~」
美緒と美知留。そして咲夜との関係は、もうしばらく続きそうである。
明治転生録 -美緒の恋愛編 fin-