里音書房
第5話 興味と好意?
 季節は真夏の暑い時期を過ぎ、秋の夜長を迎えようとしていた。  夏場には、ミスコンも開かれ、大盛り上がりとなり、グランプリはいつのでそれまで二位はやよいが飾っていたが、まさかのさゆりがやよいを出し抜き、二位となるなど、大波乱だった。  生徒向けの校内新聞の一面を飾ったいつのは、他の生徒からも大人気で、ファンクラブすら存在する。いつのの在籍する天文部には、いつの目当てに入部を希望する男子生徒が殺到していた。  しかし、同じ部のやよいたちが振るいにかけるため、いつの目当ての男子生徒の入部は、皆無に近かった。次第にその部への入部するための競争率は、入試よりも高くなっていったのだった。 「なぁ、いつき。天文部、手伝ってくれないか?」 「なんだよ、はるき。珍しいなぁ~」  いつきの同級生のはるきは、競争率の高い天文部への入部を潜り抜けて入部したひとりで、入部直後は英雄視されたほどだった。そんなはるきが、珍しくいつきを頼ってきたのだった…… 「で、何を手伝えばいいんだ?」 「簡単なことさ。天文部の望遠鏡とかを屋上に運べばいいのさ。」 「そんなの、はるきがやれば……」 「それがな、いつき……」 「な、なんだよ。」  精いっぱい含みを持たせた、はるきはいつきの肩に手を乗せて、ごく当たり前のことを言い放った。 「予定あるの忘れてた。てへっ」 「おい、なぜなんだよ。まったく……」 「でも、いつきになら、頼めるかな? って。なんとなく……」 「なんとなくかよ! まぁ、するけどさ。」 「ありがとなっ。持つべきものは親友だよ。」 『体のいい親友だなぁ~』  そう思いつつも、結局のところ、いつきは頼まれると断ることができない。いつきも、どうにかしようとはしたこともあったが、断ることができずにいたのだった…… 「で、これを持っていけと……」 「うん。」  明らかに、ひとりで持っていくにしては、結構な量が積みあがっていた。星空観賞用の大砲のような太い望遠鏡数基に、それを固定する三脚。それも、立派な代物が数個。 「あ、天文部の部長って、いつのさん?」 「そうだけど……」 「お嬢様だからなぁ~。こんなの揃えたら……」 「だろうなぁ~それこそ、天文学的数字になるんじゃ? なんてな。」 「何をうまいことを言えと……」 「てへっ。じゃ、頼むわ。いつき……」 「仕方ないなぁ。わかったよ。」  いつきとて、体育会系でも何でもない。絶賛の帰宅部。つまり、そこまで重いものを持つのに慣れてはいない。かといって、大砲のような見た目でも中身は空洞。重い理由がガラスとみる部分となれば、見た目ほど重くない。  望遠鏡部分には、取っ手が付いていることで、それなりに持ち運びがしやすい仕様になっていたこともあり、片手に望遠鏡部分を持つ。すると…… 「おっと、割と? 軽いけど……バランスが……」  物を運ぶうえで、いつきは要領よく運ぶのが得意だった。それでも、数台を運ぶのには骨が折れるほどの量だった……  下手にぶつけて破損してしまっては、元もこうもないため、それなりに慎重に運んでいた。かれこれ、数時間。ようやく…… 「ふぃ~疲れた……」  秋口に入ったとはいえ、夏の名残の暑さが残り、汗だらけになってしまったいつき。屋上の壁際に腰を下ろすと、山から吹き下ろす風が心地よく肌をなでる。 『少しだけ寝ても……』  そんな気すら起きてしまういつきだったが、門扉はあるこの学校は、閉門するということはなく、基本。鍵がかかることはない。  そのため、学校内で眠って暗くなったとしても、普通に自宅に帰ることができる。治安のよい田舎の特権みたいなものである。  そよ風を浴びながら、うとうとと壁にもたれかかると、壁のひんやりとした質感が、程よく睡魔を誘う。  それから、どのくらいたったのだろうか。いつきは夢の中にいた。そんないつきの元を訪れる人の姿があった…… 「眠ってる……」  いつきの頬をなでるその手は、とても小さくスベスベとしていて、ほのかな温かさがいつきへと伝わってきていた。  それと同時に、女の子らしい柔らかな匂いと、石鹸の清潔な匂いがいつきの鼻をくすぐっていた。 「う~ん。」  うとうとと、寝息を立てたいつきは、ほほをなでるやさしい手に身をまかせていた。そして、いつきをなでるその人は、クンクンといつきの匂いを嗅ぎ始める。  そう、寝息を立てるいつきを見つけたのは他でもない、いつのだった。純粋な興味から始まったいつきへの思いは、無防備ないつきにいつのは、思わず理性が揺らぐ…… 『このまま……。キスくらいしても、バレないんじゃ……』  寝息を立て、いつのの手に顔を預けるいつきの顔に、少しずつ顔を近づけていくいつのは、夕暮れから夜にかける時間も相まって、妖力が少しずつ表に出てきてしまっていた。  そのことで、オスを求めるメスのような感情すら沸き起こり、人への変化が次第に解けはじめて、耳と尻尾がうっすらと夜空に浮かび上がってきていた。いつのの瞳には、妖狐としての象徴の狐目になり、ほほは高揚し、いつきの息が届く位置に自分の顔があった。 「ん~」  次の瞬間。キスをする寸前だったいつのの目の前で、いつきが起き始めてしまった。それまで、本能が優先していたいつのの理性が一気に活動を始める。 『はっ?! わ、私は何をしようとして、いたの?』 『ま、まさか。私……いつきにき、キスを……』  数秒前まで、自分が本能のままにいつきの唇を奪おうとしていたことを理解すると、一気に自分がしでかしそうになっていたことに、悶え始めたいつの。 『あれほど、母が禁忌にしていたはずのことを、私は……』 『でも……』  いつのの鼻を刺激するその匂いは、ある種の媚薬の役割を果たし、いつのを禁忌の沼へと引き寄せる。  それまでのいつのは、群れから人種になりたがる狐の理由がわからなかった。それは、群れの食い扶持を稼ぐという意味合いもあったが、好んで人種になるものもいた。そのひとつが、人種に恋をしたというものだった…… トクン…… 『これが、人種に恋をするということなの?』  群れの中でも禁忌とはしていたものの、厳しく統率しては、組織の構造がゆがみかねない。そんな観点から、一部の狐にはいつのの元、了承するようにしていた。その結果として、群れの食糧を得ることもかなっていた。  いつのは、ゆっくりといつきの頬から手を離すと、手に残ったいつきのほのかな温かさと匂いが残っていた。自然といつのは、その残り香に鼻を鳴らす。 『いつきの匂い……』  そんなことを思っていると、いつのの元に、やよいが顔を出す。そして、その姿に、驚きの声を上げた。 「いつの様? いますか? って。耳!! しっぽ!!」 「あぁ、やよい?」 「『あぁ、やよい?』じゃないですよ、妖力が駄々洩れ……って、こいつは!!」 「うん、いつきよ。」 「いつの様……まさか!!」 「大丈夫よ。禁忌は犯してないわ。それに、お母さまが禁忌にした理由も、少しわかったわ……」  うとうととしたいつきの前で、人と妖狐の中間のような姿になったいつの。やよいにとっての幸いだったのは、いつきが夢見心地だということだった。 「いい? あんた、ここで見たのは夢よ! いいわね……」 「ゆ、夢? うん。」  いつきの瞳には、綺麗な狐耳と手入れの行き届いたふさふさのし尻尾が、容姿端麗のいつのに生えている様子が、夢見心地のいつきの脳裏の端に記憶されたのだった……
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