里音書房
第九話 発情期と風紀委員
 彩人は保健室に呼び出されていた。  それは、彩人がけがをしたから、または、親友がけがをしたからというわけではなく、純粋に、瑠香の呼び出しだった。数分前…… 『満場一致で決まったから、保健室に来てね♡』 「ええっ。」  瑠香が滅多に使わないハートマークを使ってメールしてきたのには理由があって……彩人が保健室に行くと、気を失っている綾乃がいた。 「大変よ、彩人くん。綾乃ちゃんに鎮静剤を打たないと!!」 「ええっ。いいんですか? 僕で……」 「あなたしかいないの、さ。これして。」 「えっ? め、目隠し? 目隠ししたら、できないでしょ。」 「いいから、して♡」  首を絶妙に傾けながらお願いするさまは、断れる状況じゃなかった。  仕方なく目隠しをすると、彩人をベッドの隣の椅子に座らせた瑠香は、ニヤッとしながら、鎮静剤。もとい、発情終了剤を持たせる。 発情終了材  この時期の乙女たちに最初に訪れる、生理的現象。それが発情期。  異性を本能的に求め、見境がなく小作りを始める時期。まして、本能で動くため、後回しになればなるほど厄介な現象でもある。  そのため、相手がいない乙女たちは、発情期が近いこの時期になると、始まる前にこの発情終了剤を注入する。  このことで、暴走する本能を抑え込むのだが、今回は、彩人がいることで事態は少し複雑。 『彩人くんが発情させちゃうからねぇ~』 『まぁ、本人にはそっとしておこっと……ふふっ。』  この終了材は、乙女にとって重要な部分に注入する必要がある。そのため、例年は同性の獣人が行っていた。しかし今年、初めての署名活動が行われ、まさかの満場一致で、彩人に注入してほしいという意見が総意となってしまった。  こうなっては、学園も動かずにはいられない。彩人に目隠しをすることを条件に、彩人が注入することになった。これは、学園初の珍事で男子が参加するなど、前代未聞だった。そんな右も左もわからない彩人が、するのだから、当然練習が必要。ということで白羽の矢が立ったのは…… 『綾乃ちゃん。ごめん。練習台になって……』 『大丈夫。腰が抜けるほど気持ちいから……』  気絶した状態の綾乃の顔に向かって囁く瑠香。そして、隙を見て強制興奮からの気絶という強硬手段をとったうえ、目の前の綾乃という図が出来上がったのだった。 「彩人くん。見えてないよね。」 「見えてませんよ? 先生。」 「女の子たちに、見えてたってバレた場合……」 「バレた場合……」 「仕留められちゃうから♡」 「し、仕留めっ!!」  彩人は玲奈の一件で思い知っていた。  いくら乙女とはいえ、獣人。いっぱしの男子の彩人なぞ、仕留めにかかった乙女たちに歯が立つわけがない。 「わ、わかりました……」 「その意気よ。彩人くん。」  こうして、外堀を埋められながら、やる羽目になった彩人は、目の前で気絶する玲奈へと向かい合う。 「こ、ここですか?」 「もうちょっと下ね……あ、その辺。ゆっくりと奥に押し込んで……」 「こうですね。あ、入っていきますね。」 「んっ。」  ここでイレギュラーが起こる。  先ほどまで気絶していた綾乃が、よりにもよって目が覚める。それを知った瑠香は、慌てて綾乃の前に座ると…… 『そのままじっとしてて。今練習してるから……』 『れ、練習? 練習って何を……えっ?! あっ。うそっ!! んっ!!』 『じっとして。綾乃ちゃん……』 『んあっ。あ、彩人くん……』  気が遠くなるほどの快楽が、横になっていた綾乃の体を突き抜ける。それは、いろいろと目覚めてしまいそうなほどの快楽だったが、必死に声をこらえていた。 『んんんんっ!!!!』 「あ、奥にあたりましたよ?」  何も知らない彩人は、手に伝わる感触を、素直に瑠香へと伝える。そして、瑠香は手はず通りに、彩人に指示を出す。 「その注射器に入ってるものを、出して……くれぐれも……」 「は、はい。出すんですね。よいしょっ」 びゅっ! 『んんんっ!!!!』  ビクッ!と体が反応した綾乃。それを見た瑠香は、おおむね察した。 「あ、彩人くん。思いっきり出した?」 「えぇ。注射なら、こうするかと思って……」 「あちゃぁ、いいんだけどね。本番の時は、優しく、ゆっくりね。」 「は、はい。わかりました。」  ゆっくりと抜いた注射器を持ち、実に満足そうな彩人を後目に、目の前の綾乃はとてつもない快楽に見舞われていた。 『ねっ、腰が抜けるほど、気持ちよかったでしょ? ふふっ』 『ん』  プルプルと震えながら、うなずくことしかできなかった綾乃だった。  それから、しばらくすると準備が整い、綾乃も普通に立てるようになった。彩人の脳裏では、リハーサルが行われていた。 『ゆっくりと入れて、あたったら、ゆっくりと押し出すっと……』  目隠しのままリハーサルするさまは、隣で見守る綾乃も真っ赤になるほど恥ずかしかった。 『あの手つきでやられたのよね……ううっ。恥ずかしい!!』  真っ赤になりながらも、自分を奮い立たせる綾乃。  今回の綾乃は、瑠香のサポートに回る。受けに来る獣人たちの管理や彩人への指示など、いろいろとやることが多かった。 げっ!  綾乃がひょっこりと保健室から顔を出すと、そこには何十メートルにも及ぶ長い行列が出来上がっていた。  それも皆。彩人に注入してほしい獣人が巣窟となってたむろしていた…… 『こ、こんなにいるの?』 「さ、綾乃ちゃん。やるわよ!」 「は、はい。」  ここからは、まさに戦場だった。  どこから触れ回ったのか知らない彩人の噂は、尾ひれが引き学園中に広まり、その結果、この事態を生んでいた。生徒たちは各々…… 「彩人くんに入れてもらえるんでしょ? どんなご褒美なの。今回は……」 「ねぇ。ほんとは相手いるんだけどさ、今回は、彩人くんがやってくれるって聞いたから、来ちゃった。」 「ええっ。それ、ズルくない?」 「いいのよ、今回だけ。へへっ」  などなど。順番待ちをしながら、他愛のない会話を続けていた生徒。そして…… 「最初の人~入ってきて~」  瑠香の呼び声に、順番待ちをする生徒たちは、色めき立つ。  大勢で入られても困るため、一人づつの順番制となったが、そのことがかえって秘匿性を上げ、待っている生徒たちの想像力を掻き立てる。  そして、最初の一人が入ると、目隠しされた彩人の前で後ろ向きになる。肘置きのようなものに、肘をつきお尻を突き出す形になる。  女の子にとって、恥ずかしいことこの上ないこの姿だったが、目隠ししているということもあり、恥ずかしがりながらも、準備をする。 「ほら、力を抜いて。」 「は、はい。」  瑠香の誘導の元、生徒をリラックスさせる。そして、注入の作業へと入る。これは、あくまでも医療行為。単調な作業のはずが、瑠香はニヤニヤとよこしまな考えが浮かぶ…… 『この子たち。どんだけ、彩人に入れてほしいのかしら……ふふふっ。もう、思春期の乙女たちねぇ~♡』  そして彩人が持つ注射器に軽く滑りをよくする薬剤を塗ると、作業に入る…… 「では、始めますね。いいですか?」 「は、はい!!」  そして、注入が始まる……  ゆっくりと押し込まれた後、ゆっくりと薬液が送り込まれる。それは、普通の医療行為だが…… 「あっ♡」  注入された子は、思わず艶っぽい声が漏れ出る。  そして、注入を終えると、その生徒は…… 「あ、ありがとうございます!!」 「えっ、あ、いえ。」  目隠しをしたままの彩人に向かって、会釈をしながら保健室を後にする。  一連の流れをやり遂げた彩人は、ふぅと胸をなでおろした。一時はどうなるかと思っていた手前、事なきを得たことに安心していた。 「どう、これが一連の流れね。できそう?」 「はい。頑張ります!」 「ん。その調子。」  彩人の表情を見つつ、瑠香は思わずニヤついていた…… 『な、なにを頑張るのかしら。ふふっ』 『おっと、次の子ね……」  最初の子が出た廊下では、いろいろと話題が盛り上がっていた。何やら、優しく出された。とか、とても気持ちよかったとか、医療行為とは思えない発言が飛び交っていた。  それからは、まさに戦場だった。入ってくる生徒全員に注入して回るのだから、へとへとにもなる。そのたびに、注入された生徒からは…… 「あっ♡」 「あん♡」  などなど、艶っぽい声が漏れるのだから、彩人は一瞬疑問に陥るときもある。 『これ、医療行為だよね?』  首をかしげつつ、これでいいといわれていた彩人は、順調に続ける。そして、彩人も見知った声の生徒が入ってくる。 「彩人く~ん。着たよ~」 「あれ? その声。玲奈ちゃん?」 「あたり~。えへへ。覚えてくれてたんだね」 「当たり前だよ。あんな大胆な事されたんだし。ふふっ」 「ああっ。もう! 忘れてよぉ~恥ずかしいなぁ。」  そんなやり取りを見ていた綾乃は、ちょっぴりイラっとしたのか、準備を終えた玲奈を確認すると、目隠しをちょっぴりずらす。すると…… 『ん? あれ。ちょっとズレて……なっ!!』 『いい? 彩人くん。貴方がしてるのは、こういうことなの。声に出さないでね。』 『ん。わかった、出せるわけがないよ……こんなこと……』  彩人の前には、お尻を彩人に突き出し、そのスカートの中に自分が手を突っ込んでいるのだから、言ったら言ったでいろいろと抹消されそうだった。  そして、心なしか力が入ってしまった彩人は、勢いよく薬剤を注入してしまう。すると、やっぱり…… 「んあっ♡」 「も、もう……彩人くんったら……」  艶っぽい声を出しながら、いたずらに挑発する玲奈だった。  医療行為を終えると、艶っぽい表情をしながら、玲奈は帰っていったのだった。 『なんなの。あいつ……』  それからは、残り人数も少ないうえに、見知ったメンバーが続く。まずは彩芽。一瞬、渋るものの、あとからだともっとキツイと言われ、しぶしぶ彩人にやられていた。 「ほら、さっさとしなさいよ。彩人……」 「あ、あやめ。ほい。」 「…………」  しばらくの沈黙の後、やっぱり…… 「んっ♡」  珍しく艶っぽい声を彩芽が出したことで、笑ってしまう彩人。そして案の定…… 「彩芽もそんな声出るのな。あははは」 「うるさい!!」  見事に振り上げられた彩芽の手には、内履きが握られ、思いっきり振り下ろされる。 スパーン!! ふごっ!!  軽快な音を立て、颯爽と去っていく様は、実にイケメンだった。そして、次は千棘の番になる。警戒度マックスにしながら近寄ってくる千棘。そんな千棘に、瑠香はさりげない質問をする。 「そうそう、千棘ちゃん。」 「はい、なんですか?」 「千棘ちゃんもサインしたのよね? 署名。」 「えぇ。それが何か?」 「えっ。ちょっと気になってね。」 「何がです? 普通の署名だったので……」 「普通の署名ねぇ。千棘ちゃんも普段はそんなツンツンしてるのに、その実。彩人くんに注入してほしいんだなぁって……」 「なっ!? せ、先生!! 怒りますよ!」 「いや、もう。怒ってるし……」  耳まで真っ赤になった千棘は、準備を整えるが…… 「ほら、力抜いて……」 「嫌です。この体制だって屈辱だというのに……」 「はぁ。仕方ないわね。綾乃ちゃん。あれを教えてあげて、彩人くんに……」 「えっ! あれ。教えるんですか? は、はい。」  千棘は瑠香が綾乃に言ったことが気になり制止をしようとするが、時すでに遅かった。教えられたままの動きをする注射器に、硬く閉じた千棘のそこはガクッと力が抜け、そして…… ぬぷっ。 「あっ♡」 そして…… 「ああっ♡」  数十人とやってきた中で、一番艶っぽい声を出したのが千棘だった。そして、処置を終えると…… 「こ、このことは。忘れないからねっ!!!!」  猛烈な激高とともに、帰っていったのだった。そして、最後は…… 「やっぱり、穂乃花ちゃんが最後よね。」 「えっ? 穂乃花ちゃん?」 「や、やぁ。彩人くん……」  一番敏感体質の穂乃花。そのため、この処置も一番最後になる。敏感すぎて暴れることが予想されたため、準備を整えた穂乃花を瑠香と綾乃の二人がかりで抑え込む。 「えっ、ええっ。ふ、ふたりで?! あ、いやっ、ちょっと待ってね。心の準備が……」 「彩人くん。やっちゃって!!」 「そうよ、いま! 今のうち。」 「ちょっと待って、先生まで! あっ、ちょっ。彩人くん……あっ♡」  最後ということもあり、何度となく縛りなおした目隠しが緩み始めていたが、しっかりと目隠しの役割を果たしていた。しかし…… 「今済ませるからね……穂乃花ちゃん……」 「んっ。あっ♡」  無事、注入を終えたのだが、その終えたタイミングで目隠しが外れる。おりしも、手はスカートの中。まして注射器は入ったまま。という最悪な状況で目隠しが外れてしまう。 ぬぽっ。 「あっ。み、み……」 「見ないでぇぇぇぇ!!!!」 ぷすっ!!  それは、見事な目つぶしだった。 「のぉぉぉぉ!!!! めがぁぁぁぁぁぁ!!!!」  こうして彩人の、ちょっぴりエッチな医療行為が終わったのだった……  そして、穂乃花の脳裏には、彩人に見られたということが鮮明に焼き付いた 『うぅぅっ。お嫁にいけないよぉ~』  穂乃花の中に、複雑な思いが芽生え始めた、一日となったのだった……
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