WINGS&アイロミームproject(仮)
つぐみ② 『ショッピング 編』
   祝日という事もあってか、聖歌学園駅の前の広場は多くの人で賑わっていた。 その広場の中央にそびえる、少し寂れた噴水。 そこが、今日の待ち合わせ場所として指定された場所だった。 駅の入り口にある時計は、午前9時40分を指している。 予定の時刻まであと20分ほどだ。          「━━━お~い!  お待たせ~!」      そんな事を考えている内に、待ち合わせの相手がやって来た。 ショートの赤い髪を揺らし、弾けんばかりの笑顔で手を振りながら駆け寄ってくる彼女に、思わずドキッとしてしまう。      「ごめんね~、遅くなっちゃって! 今日は私が先に来てビックリさせようと思ってたんだけど、〇〇のが早かったんだね。 次からはもっと早めに準備しないと……!」      彼女の名前は、和田辺 つぐみ。 聖歌学園高校に通う二年生で、ソフト部と兼部しながら、『WINGS』という名前のアイドルグループの一員として活動しているのだ。  彼女は、白いシャツの上から、肩にフリルが付いた淡いピンクのキャミソールワンピースを着て、赤のフェイクジュエリーがあしらわれたプラットフォームサンダルをはき、光沢のあるショルダーバッグをかけていた。 なんとも彼女らしくて、可愛らしいスタイルだと思う。      「一応、おでかけって事だからそれなりにオシャレしてみたんだけど……どう? 変じゃない?」      とんでもない。 すごく似合ってるし、可愛いよ。 そう率直な感想を述べると、彼女は少しビックリしたような顔をして頬を赤く染めると、      「えへへ……そんなストレートに褒められると流石に照れちゃうな。 ……でも、ありがと! 頑張ってオシャレして来た甲斐があったよ!」      つぐみが嬉しそうに笑うと、こっちまで嬉しくなる。 彼女の笑顔には、そんな魔力が秘められていたりするのかもしれない。  と、突然つぐみに腕を掴まれ、ぐいと引っ張られた。      「よし、じゃあ早速出発しよう! 善は急げーっ!」      そう言って、走りにくいサンダルである事もお構いなしで駆けるつぐみ。 その言葉、使い方間違ってるような……。 指摘する間もなく、つぐみに腕を引かれるがままに駅前の広場を後にした。            「おぉー、結構色々あるんだねー!」      それから数分後。 やって来たのは、駅からすぐ近くにあるショッピングモールの中の、靴屋さん。 子連れの客なんかもちらほらと訪れる中、つぐみは、運動靴のコーナーとヒール等が並ぶコーナーとを行ったり来たりしていた。      「うーん……普段は、ソフト部の練習とかで使うランニングシューズばっかり履いてるから、アイドル活動する時にどんな靴履けば良いのか分かんなくて」      このサンダルも、実はお母さんから借りたヤツなんだー、と言って笑うつぐみ。 こういった靴屋に来ることは少ないのかと尋ねてみると、      「そうだなぁ……いつもは靴屋さんというより、スポーツ用品店とかで選んだりする事が多いかも。 クラスの友達と一緒にショッピングしたりするに、チラッと見たりする事は多いんだけどねー」      クラスの内外を問わず多くの友達がいる彼女は、こういったショッピングモールに訪れる時は大抵、友達と一緒である事の方が多いのだという。 故に、一人で買い物に出掛けたりする事は少ないらしい。      「……あ、ねぇねぇ! コレなんてどうかな? そこまで動きにくそうな感じじゃないし、この花の飾りとかカワイイし!」      そう言って彼女が指差したのは、ピンク色の花の装飾がついた、低めのウェッジヒール。 確かに、これならそこまで高さが無いから、動きが制限されることも少ないだろう。 それに、彼女のトレードマークである明るさ、元気さが感じられる、良いデザインだとも思った。  良いと思うよ、とグーサインを出しながら言うと、彼女はパアァっと顔を輝かせて、      「本当っ!? 私もコレすっごく良いと思ったんだ! 〇〇のお墨付きとなれば、これはもう間違いないねっ!」      新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにはしゃぎながら、彼女は嬉しそうにその靴をレジへと持っていった。 そして、しばらくしてから、満面の笑みを浮かべながら、靴の入った箱を抱えて戻ってきた。      「ありがと! 〇〇のおかげで、ステキなのが見つかったよ!」      ニコニコと笑う彼女に釣られてか、自然と笑顔がこぼれる。 今日のショッピングの目的は、アイドル活動で使う靴を選ぶ事だったから、そのミッションが達成できて良かった……。  って事は、今日のショッピングはこれで終了? と思っていたその時、つぐみが空いた手をこちらに差し出してきた。      「ほらほら、早く行こうよ! せっかく来たんだし、もっと色んな所見ていかなきゃ損でしょ?」      どうやら、まだショッピングは終わりでは無いらしい。 やれやれ、と息をつきながらも、内心ちょっとワクワクしている自分がいた。 彼女の笑顔は、相手の心すら動かしてしまうのだろうか。 そんな事を考えながら、彼女の手をとり、広いショッピングモールへと繰り出した。          それから、つぐみと二人で色んな場所をまわった。  最近流行りの雑貨屋さんに立ち寄ると、彼女は目を輝かせながらキーホルダーやアクセサリーを手にとっていたし、1階にあるペットショップでは、ショーケースに顔をくっつけて、「わぁ~、こっち見てる~~! かわい~~~!!」と、普段聞いた事の無いような猫なで声ではしゃいでいた。 なんだか、いつもと違う彼女の一面を見ているようで、新鮮だ。      さらに、上の階にあるゲームコーナーでは、彼女が得意だというクレーンゲームの腕前を披露してくれた。      「ふむふむ……このハムちゃんのぬいぐるみなら、なんだか取れそうな予感っ!」      そう言って、意気揚々と100円玉を投入するつぐみ。 その言葉どおり、彼女は寸分違わぬボタン操作で、ぬいぐるみの中心部を捉えると、そのままガッチリとぬいぐるみを掴み、上へと引き上げた。 これはいけるんじゃないか?       「よしっ! このまま……!」      しかし、アームが上まであがりきった時、その衝撃でぬいぐるみがポロッとあっけなく零れ落ちてしまった。 コロコロと転がりながら元の位置に戻っていくぬいぐるみを横目に、二人で「あぁ~!!」と落胆の声をあげる。        「はい、次〇〇の番っ! 私の仇とって……!」      そう言って、100円玉をこちらに押し付けてくるつぐみ。 ちょっとヤケクソじみている気がする彼女の腕をそっと下ろし、自分の財布から出した100円玉で勝負を挑むことにした。 昂る闘争心を、指先一点に集中させる。  キュインキュインと音を立て、じりじりとアームがぬいぐるみに迫っていく。 アームは、ぬいぐるみの中心部をガッチリと捉え、じりじりとゆっくり持ち上げる。  しばらくして、アームが上まであがりきり、ぬいぐるみがピタリと静止した。    ガタンッと一瞬だけ大きく揺れたぬいぐるみは、その衝撃で下へと落ち……ない!      「よしっ……!」      思わず二人で声を漏らす。 後は、何事もなく出口へと運び込んでくれるのを祈るだけ。 そうっと、そうっと……!      そして……        「やったあ! 取れた~~っ!!」      ポスンッ、とぬいぐるみが取り出し口に落ちるのと同時に、つぐみと手を取り合って歓喜した。 クレーンゲームにここまで全力を尽くしたのなんていつ以来だろうか。 なんだか童心にかえったような気分だ。  ひとしきり喜び合った後、つぐみはぬいぐるみを取り出し口から出して、こちらへ差し出してきた。      「はいっ! 〇〇が取ってくれたんだんだから、このハムちゃんは〇〇のもの。 でしょ?」      なるほど、彼女らしい理屈だ。 ここで受けとるのを許否したところで、きっと彼女は納得しないだろう。  そこで、彼女の言う通りにぬいぐるみを受けとると、それをもう一度彼女の方へ手渡した。 頭にハテナマークを浮かべて困惑する彼女に、言った。    これは、今日誘ってくれたお礼だよ、と。    しばらくして、その言葉の意味を理解した彼女は、嬉しそうに微笑み、ぬいぐるみを受けとって抱き抱えた。      「ふふ、そっか。 お礼って事なら、ありがたく貰っとかないとだねー。 ……ありがとっ!」      嬉しそうにぎゅ~っ、とぬいぐるみを抱きしめるつぐみ。 その仕草があまりにも可愛くて、思わずドキッとしてしまう。 普段は明るくてしっかりしたイメージが強い彼女だが、こういう女の子っぽいところもあるんだな……。 またしても、彼女の新たな一面が見れた気がして、なんだか嬉しかった。          「はぁ~満喫したぁ~! 今日はありがとね~」      一通りショッピングモール内を見て回った後、最後のシメにという事で、フードコートへとやって来た。 夕食の時間にはまだ早いが、席はもう既に家族連れの客などで埋まりはじめていた。      「クラスの友達皆と来るのも良いけど……〇〇とこうしてのんびり見て回るのも、悪くないね!」      えへへ~、と楽しげに笑うつぐみ。 楽しかった、というのには全く異論は無い。 しかし、それとは別に少し気にかかっている事があった。      「ん? なぁに?」      その様子に気づいて、どうしたのと彼女が尋ねてくる。 どうしよう……言うべきかどうかしばらく迷っていたが、意を決して言ってみることにした。      なんかこうしてると、ショッピングというより、デートしてるカップルみたいだよね? と。      しばしの沈黙。 まるで時間が止まったかのように、つぐみの動きが固まった。  自分が気にかかっていた"何か"を悟った様子の彼女は、な……な……と口の端から声を漏らしながら、みるみるうちに顔を赤く染めていく。      「なっ、き、急に何言い出すの!? 違っ、いやいやいやいや違うから! こ、これはただのショッピングだから! 何ら問題なく否応なく間違いなく何の変哲もないショッピングだからっ……!」      身ぶり手振りを添えて必死に否定するつぐみ。 しかし、その顔は終始真っ赤で、焦っているというのが一目で分かる程に落ち着きを失っていた。  ……というか、あまりの彼女の慌てっぷりに、なんだかこちらまで照れ臭くなってきてしまった。 最終的には、フードコートの端で頭から湯気を出しながら、お互いに下を向いて沈黙する二人組、という謎の構図が出来上がってしまう。      しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した彼女は、さっき取ったぬいぐるみに顔を埋めて、まだ赤く染まっている頬を隠すようにしながら、      「うぅ、駄目だぁ……"カップル"って言葉だけで、あんなにテンパッちゃうなんて……。  でも、アイドルにスキャンダルなんてご法度だし……というかそもそも、急にそういうこと言い出す〇〇が悪いんだもん……」      どうやら、色恋沙汰にはあまり慣れていないらしい。 なんて考えていると、ぬいぐるみを抱いたままムスッとした顔でつぐみに睨まれ、平謝りする。  でも、ちょっと夢見てしまうことはある。 もしも、皆のアイドルであるつぐみが、自分と結ばれてカップルになったりしたら……。      って、何を考えてるんだ!! 頭を冷やさんとばかりに、さっき汲んできた飲料水をぐいっと飲み干す。 しかし、勢いが強すぎたせいか、気管の変なところにつっかえて、むせてしまった。  と、それを見ていたつぐみが、堪えきれない様子でプフッ、と吹き出した。      「あははっ! どうしたの、〇〇まで慌てちゃって~。 ……でも、おかげでちょっと落ち着いたかも」      顔をあげると、そこにはいつもの明るい表情で微笑むつぐみの姿があった。 その笑顔を見たせいか、何となく焦っていた気持ちが落ち着いたような気がした。      「まぁ、ともあれさ。 ショッピングだろうがデートだろうが、私たちが楽しめたのならそれでよし、だよねっ? 私はすっごく楽しかった!!」      いひひっ、と笑うつぐみ。 なんだか、カップルとか友達とか、そういう細かい事はどうでもいいような気さえしてきた。 氷だけになってしまったドリンクのカップを置いて呟く。  自分もすごく楽しめたよ、と。      「ふふっ、それは良かった。   ……じゃあ、また次も一緒に来ようね? 約束っ!」      そう言って、二人で指切りを交わす。 この行動もなんだか……って思ったけれど、それは口にしないでおく。 今は、こうしてつぐみの嬉しそうな笑顔を見ていよう。 そう思った。      なんでもないただのショッピング。 しかしそれは、かけがえのない自分の思い出の1ページへと、確かに刻まれたのだった。        ショッピング編  END