『CROSS・HEART』Story.6 星宿の地図 6-9
「ではまず、
言うと、イズムは右手に蒼い光を灯した。流石と言うべきか、
リセはイズムの掌の内にある柔らかい光を放つ蒼を覗き込む。
「まず……そうですね、
リセは右手を胸の前へ上げ、掌に視線を落とした。
「そうしたら、身体の中の『魔力の流れ』
「魔力の……流れ?」
きょとんと首を傾げるリセ。イズムは少し考える素振りをしたが、
「少し難しかったでしょうか……
「大丈夫、やってみる」
リセは一度頷くと目を閉じ、身体の全神経を右手に集中した。
辺りは夜の静寂に包まれ、音らしい音もしない。
――……ふと、身体を巡る『何か』に気付いた。
それは一定の感覚で押し寄せてくる。まるで――……そう、
「…………ッ!」
瞬間、リセは見えない何かを掴みとるが如く、右手を捻った。
「……――」
ゆっくりと目を開けると――――……。
「わーっ! やった、できた! できたよイズム君!」
掌の上には、まるで舞い降りてきたひとひらの雪のような、
「あー、消えちゃった……」
リセは少し肩を落とすが、それでも魔力を顕現できた、
、それほど落胆しているようには見えなかった。
「……――」
「イズム君?」
「……!」
何も言わないイズムを訝しみ、彼の顔を覗くリセ。
「あ、すみません……まさか一回で出来るとは……
未だ驚きを隠せずにいる彼にリセは無邪気に喜ぶ。
「本当? なんかねなんかね、定期的に、力が溢れてくる瞬間って言うか、
「『魔力の波』ですか。……ああ、確かにそんな感じもしますね。
「ふふー」
誉めて、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべるリセに、
(これだけで最低でも一週間はかかるものを……たった一回で)
驚くべきは彼女が魔力を現出させた事に対してではなく、
「嬉しいなー、初めてでできると思ってなかった!」
(“初めて”……ですか)
勿論、その言葉は真実ではない。彼女は魔法を使っていた。
――その後は『自分の意思で魔力を制御し、一定の時間まで顕現を持続させる』という練習を行った。しかしさすがにすべてが一度で上手くいくはずもなく、リセの魔力はすぐに霧散してしまうのだった。そしてたった今、数十回目の挑戦がはかなく散ったところである。
「随分とお疲れのようですし、もうそのくらいにしておきませんか? あまり無理はしない方が……」
本音を言えば、魔法に関しては今夜限りで終わりに欲しかった。そうすれば、この板挟みの状況に悩む必要もなくなる。
「うー……まだ、あと少しだけ……あっ、でもイズム君もう疲れたよね……!」
「僕はいいですけど、明日に響きますよ。大丈夫ですか」
勿論そんな願いなど届くはずもなかった。リセは頷くと、再度右手に意識を集中させる。たった数秒とは言え、顕現できるほどの集中力がこれだけ続いているだけでも大したものだ。素直に喜ばしいとは言い難いが。
やがて掌に白い光が生まれた。しかしそれは瞬く間に闇に溶け消えてしまう。魔力の顕現時間は回数を経るごとに短くなっていた。彼女自身それに気付いていないはずはない。
「もう一回、だけ……」
再度魔力をその手に灯そうとするリセ。その瞳は、ほのかに赤らみ潤んでいた。
「…………何でそんなに頑張るんですか」
意図せず出てしまった言葉に、はっと口を噤む。当の彼女は、なお魔力を現そうと右手を見つめていた。
「……ハールのこと、守りたいから」
その名に、どくりと心臓が不穏に脈打つ。
彼女の手中に淡く光が集い、そして溶け消えた。
「私、見つけてくれたのがハールで本当によかったって思ってる……だからいつかは、私が助けるの。みんなのことも」
リセは一度手を下ろしイズムを見上げると、やや疲れた瞼に、しかしそれでも柔らかな笑みを乗せた。
「まずは自分の身からだけどね」
少し恥ずかしげに言うと、再び掌へと視線を戻す。
彼を守りたいという目的も同じ。魔法という、手段も同じ。ただ、それがもたらす結果だけは――――
イズムは視線を落とした。その瞳に映るものは、“迷い”。
この少女が彼を守るために求めたチカラは、いつか彼を傷つけるかもしれない。そして――――彼女の心も。
「リセさん」
今、すべてを話したら、彼女はどんな顔をするだろうか。
「ん、なぁに?」
もし、言ったら――――
「……――休憩がてら、もう一つ、地図の読み方知りたくないですか?」
「もう一つの地図?」
「ええ」
きょとんと首を傾げるリセにイズムは笑いかけ、言った。
「星の地図です」
「随分とお疲れのようですし、もうそのくらいにしておきませんか? あまり無理はしない方が……」
本音を言えば、魔法に関しては今夜限りで終わりに欲しかった。そうすれば、この板挟みの状況に悩む必要もなくなる。
「うー……まだ、あと少しだけ……あっ、でもイズム君もう疲れたよね……!」
「僕はいいですけど、明日に響きますよ。大丈夫ですか」
勿論そんな願いなど届くはずもなかった。リセは頷くと、再度右手に意識を集中させる。たった数秒とは言え、顕現できるほどの集中力がこれだけ続いているだけでも大したものだ。素直に喜ばしいとは言い難いが。
やがて掌に白い光が生まれた。しかしそれは瞬く間に闇に溶け消えてしまう。魔力の顕現時間は回数を経るごとに短くなっていた。彼女自身それに気付いていないはずはない。
「もう一回、だけ……」
再度魔力をその手に灯そうとするリセ。その瞳は、ほのかに赤らみ潤んでいた。
「…………何でそんなに頑張るんですか」
意図せず出てしまった言葉に、はっと口を噤む。当の彼女は、なお魔力を現そうと右手を見つめていた。
「……ハールのこと、守りたいから」
その名に、どくりと心臓が不穏に脈打つ。
彼女の手中に淡く光が集い、そして溶け消えた。
「私、見つけてくれたのがハールで本当によかったって思ってる……だからいつかは、私が助けるの。みんなのことも」
リセは一度手を下ろしイズムを見上げると、やや疲れた瞼に、しかしそれでも柔らかな笑みを乗せた。
「まずは自分の身からだけどね」
少し恥ずかしげに言うと、再び掌へと視線を戻す。
彼を守りたいという目的も同じ。魔法という、手段も同じ。ただ、それがもたらす結果だけは――――
イズムは視線を落とした。その瞳に映るものは、“迷い”。
この少女が彼を守るために求めたチカラは、いつか彼を傷つけるかもしれない。そして――――彼女の心も。
「リセさん」
今、すべてを話したら、彼女はどんな顔をするだろうか。
「ん、なぁに?」
もし、言ったら――――
「……――休憩がてら、もう一つ、地図の読み方知りたくないですか?」
「もう一つの地図?」
「ええ」
きょとんと首を傾げるリセにイズムは笑いかけ、言った。
「星の地図です」
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