里音書房
第1話 乙女の悲しい現実
 自然豊かで周囲を田畑に囲まれ、のどかな田舎町の三多根町(みたねちょう)。ゆっくりと時間の流れるこの地域では、子供たちの学生活動に主体を置いた教育となっていて、高校・大学とエスカレート式でカリキュラムが組まれていた。  彩萌学園(あやめがくえん)もその一つで、高・大の一貫校のほかに、幼稚園・小学・中学を一貫とした彩萌学園付属中学も存在していて、幼稚園から付属に入るとそのまま、大学への進学ルートが解放されることになっていた。  そんな学園の高等部の2年の葛葉立花(くずのはりっか)と親友の紅葉遥香(もみじはるか)も、付属から進級してきた生徒で、幼馴染で腐れ縁だった。 「おはよう。りっか~。」 「はるか。おはよう。」 「今日は、始業式だけど……大丈夫?生徒代表でしょ?」 「いわないでよ~、気にしないようにしてるんだから……」  学園でも成績優秀な立花は、始業式などでは生徒代表を頼まれることが多かった。普段でも講師の手伝いをよく頼まれることが多く、断ることなくつつがなくこなしていた。 「『学園のアイドル』さんは、つらいねぇ~」 「はるか~。それを言わないでよ~、好きでアイドルになったわけじゃないんだから……」  学園の美少女コンテストでは、毎年のようにグランプリを取ることから、殿堂入りしてしまい審査員として選ぶ側になっていた。  ほかの男子生徒からの告白されることも多く、その都度断っていた。それには深い理由があって……それは、両親と病院を訪れたときの事だった……担当した医師からは…… ……過敏性腸症候群……  腸内でシャボン玉状態のガスは、食べ物が発酵することによってよく発生するもので、立花の場合は活発すぎることで、ガスが量産体制になってしまっていた。  それが、ストレスを受けたり何かの拍子で気が緩んだりすると、お尻から出てしまうとのこと。それに、思春期の到来でより対人関係などのストレスが多くかかる時期に突入したことで、より腸内が活発化し、それに比例して大量にガスが量産されてしまっていた。  そんなことが分かったことで、立花は色々と手を尽くしてきていたが、どれも功をそうさず現在もそのまま、その症状を引きずっていた。  立花家族以外で、この症状を知っているのは、親友の遥香しか知らない内容だった。 「代表発表は、大丈夫なの?」 「大丈夫よ、しっかりと、出すものはだしてきたから、」 「それで、今日の代表発表は大丈夫なの?」 「それを言わないでよ~。壇上でおならとか、想像しただけでゾッとするわ……」 「それこそ、学園の歴史上に残るわね。『代表発表でおならをした生徒』ってことで……」 「やめてよ~。学園生活でそんな汚点とか、勘弁して~」  そんな話を死ながら、遥香と一緒にいつものように登校する立花。昇降口で門番のように出迎える講師とのあいさつを済ませ、高等科の教室へと向かう。  始業式ということもあり、学園へ初等科から上がってきた新入生たちが、真新しい高等科の制服に身を包みあれやこれやと話しをする姿は、1年前の自分たちを見ているようで、ほほえましい気持ちになる立花たち。 「なつかしいわね~。1年前は私たちがあそこにいたのよね…」 「そうだねぇ。あっという間の1年だったわね~」  彩萌学園の付属中学に入ってしまえば、基本的には大学までずっと彩萌学園に就学できることで、競争率もそれなりに高い数値になっている学園でもある。  その点、学費がとんでもなく高いかというと、そうでもなく一定レベルの学業成績があれば、学費が割引されたり免除されたりなど、「学ぶ」ことに関しては苦労しない学園生活が保証されていた。  そのことから、入学段階でかなりの狭き門となる事が多かった。学園に入学することができれば、全寮制となり学園内で必要なものは、すべて学園内でそろってしまうことから、小さな学園都市のような形状になっていた。 「今年の新入生も、多いね~」 「そうね。人気あるからね。この学園……」 「付属からの繰り上がりが、100人近くと入試からが200人前後かぁ。多いなぁ~」  学園の二階部分から校庭を見るとその校庭には、相当数の下級生徒がいっぱいいることがよく分かった。その生徒の中から、立花の様子が見えたのか、歓声を上げる生徒がちらほら現れた。 「あ、あれは!!!!」 「立花先輩よ~」 「立花先輩~」  生徒たち、主に女子生徒が廊下を歩く立花に気が付いたのか、廊下にめがけて手を振っていた。そんな姿を見た立花は、廊下の窓を開けて新入生にひとこと言葉を言ってあげることにする。 「あなたたち、しっかりと自分のクラスを確認するのよ~」 「は~い」 「始業式の体育館でね~入学おめでとう~」 「きゃ~ありがとうございます~」  校庭にいる下級生たちに、軽く手を振ると窓を閉めて一緒に歩く遥香と職員室へと、始業式での工程などを打ち合わせに行くことになっていた。 「立花、今日は頼むよ。生徒代表として……」 「はい。でも、2年の私でいいんでしょうか。3年の先輩もいるのに……」 「いいのさ、生徒代表は、学園の成績優秀者から選ばれるし、それに…」 「それに?」 「立花なら、下級生からの人望も厚いからなぁ。」 「えぇぇっ。わ、わかりましたよ~。」  先生から必要な書類を受け取った立花は、自分たちの教室へと戻っていく。 「立花。大丈夫?」 「大丈夫よ。この工程の通りに進行していくだけなんだし…」 「それはそれで、いいんだけど。最後のほう見て」 「えっ?あっ!」  そこには、しっかりと「生徒代表のひとこと」と書かれていた。こうして配られる書類に、しっかりと立花がやることになるひとことのところが乗っているのを見ると、いよいよといった具合に緊張度が増していく…… 「もう、遥香。見ないようにしてたのに……。余計緊張しちゃうじゃない!」 「もう数十分だからね。始業式まで……」 「大丈夫、大丈夫よ……」 『本当に、大丈夫かなぁ~』 この遥香が心配の通り、幼馴染でもある遥香にとって、立花がとてつもない勢いで、緊張しているのが、手に取るようにわかるはるかだった…… 『ただでさえ、この子あがり症なのに、請け負っちゃうから……』  講師や親友の手伝いを率先してやってしまうのは、これが大きかった。中東部からの仲良し親友の遥香はもちろんのこと、成績上位者をはなに鼻にかけることなく、一般生徒にも気さくなことから、学園のアイドル的な存在になっていた。 「立花。生徒からも人気あるからね。付属上がりの子、入試の子の両方に人気があるからね。」 「だから。プレッシャーかけて、楽しいの?遥香ぁ~」 「いやぁ。立花なら、これくらいは、平気でしょう?」 「ま、まぁ。ね。」  新入生も含めた始業式は、そんな立花を他所に準備が着々と進み、物の数分後には体育館にて始業式が始まった。 「彩萌学園へのご入学おめでとう。」 「当校は、生徒が主体となり、イベントごとを企画・立案など率先して活動しやすい校風となっています。」 「各々、主体性と自主性をもって、学生生活を活き活きと送ってください。」  校長であり学園長でもある講師の一通りの言葉の後、祝辞などが読み上げられ、あっという間に立花の登壇の時間となった。 「それでは、生徒代表の葛葉立花さん。」 「はい。」  高等科2年になる立花の制服は、ほかの一般生徒や付属からの進級してきた生徒とは少しだけ異なり、少しだけオシャレにできていた。  彩萌学園では、成績の点数によって若干のアレンジが加えられている。立花は腰のところに水色の大きなリボンがデザインされ、ほかの生徒との制服とは異なっていた。立花の親友の遥香も同じで、立花ほど大きくはないものの右手の二の腕と腰にアクセントのリボンがデザインされていた。 『やっぱり、立花先輩。かわいい~』 『きれいだよね~立花先輩。』  体育館のステージへ向かう道中、新入生徒の脇を歩く立花は生徒たちからそんなことを思われながらも、生徒の見本となるべく緊張を隠しつつ、壇上へと上がっていく…… トントントン  小気味よい音を立てて階段を上がっていくと、主賓副賓に向けてお辞儀をすると、中央にあるマイクへと行き生徒代表としての祝辞を述べる。 「新入生の皆さん、ご入学。そして、編入の方は編入。おめでとうございます。」  壇上で用意された祝辞を淡々と述べていく立花。そして、祝辞は終盤となり、次第に始業式の終了が感じ取れるようになってくる。それと同時に立花のおなかもカウントダウンを始める…… 『……お願いだから、壇上から降りるまでは堪えて!私のおなか……』  その意思が通じたのか、一時はおなかのガスの量産体制の波が終息し、事なきを経て祝辞の後半へと進んでいく……そして…… 「これで、生徒代表の祝辞を終わります。」  無事に祝辞の終え一安心した立花は、それまで張り詰めた気持ちが一気にゆっくりした。しかし、“それ”がまずかった……。  張り詰めて抑制していたおなかの量産体制が、再度活発になる事と、固く閉じられた門が少しづつ緩み始めていたことで、あと一押しで、その門が開門しそうな勢いだった……  それまで強固に閉じられていた門は、一斉一大の始業式の祝辞を終えたことで、警戒がおろそかになってしまっていたことで、”お辞儀”という行動を取ったことで、その波はいっきに警戒のおろそかになった下半身の門へと一斉に訪れる……  お辞儀をしたことで、程よく腸が絞られる形になった立花の腸は、必然的に下半身の門が音を上げて崩壊する…… ぶぉぉぉぉぉっ!  お辞儀と同じタイミングで、静寂に包まれた壇上に響いたその音は、堪えてきたこともあり、威力・量ともに一般の出る量の比ではなかった……  そのことが、かえってこの後事なきを得ることになるが、この時の立花は、それどころではなかった…… 『ちょっと!なんで!いま!?』 『顔上げれない!絶対!バレた!?ばれたよね?これ!』 『始業式祝辞で、おならの祝砲とか、洒落にならないんですけど?!』  立花はおそるおそる頭を上げると、そこにはシーンとした生徒たちが、場の悪そうな表情や何とも言えない表情をして、壇上を見ていた…… 『……あ、やっぱり。バレるよね……』 『ごめんね。こんな「変な」先輩で……』  始業式の祝辞で「おなら」という祝砲を上げてしまった立花は、それまで築き上げた「理想の先輩像」が見事に崩壊すると同時に、波乱万丈な学園生活が始まります……
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