里音書房
第6話 更衣室と密着は蜜の味?
ぎゅるるるぅ~  そろってほしくない条件というのは、言いえて妙な時にそろってしまうものである。それを立花は体現していた…… 『ちょっと!なんで今!なんでなの!?』  立花は、男子更衣室の中で司のロッカーの中に隠れていた。それも、司の体で隠されていることで、ロッカーの中で身動きが取れない状態になってしまっていた。そしてこんな時に限って、おなかが活発に活動を始める。一方その頃、司はというと、更衣室を訪れていた先輩の相手をしていた。 「せ、先輩のこの後水泳ですか?」 「あぁ。せっかくの夏で、水泳の授業ときたら、早く来るに限るだろう。」 「確かに、夏ですからね~」  司は一生懸命に先輩をどうにかして、着替えを終わらせて海水浴場へと行かせたく画策していたが、ロッカーの中にいる立花はそれどころではなくなっていた…… 『ちょっと!どうしてこんなタイミングで、おなかがおかしくなるのよ!このままじゃ、ここで……』  もぞもぞとロッカーの中で動きながらなんとか堪える立花。それを知ってか知らでか、体を密着させるように立花の方へと半歩進んでくる…… 『ちょっと、どうしてこっちに来るの?司くんの体が……密着して……』 「立花さん。ごめん。先輩が近くに……」 「えっ!」  この状況を司はもちろんのこと立花も見られてしまっては、学園でやっていけなくなってしまう……まして、司も立花も学園主席の成績を誇っていることで、学園の代表的な存在になっている。  そんなふたりのこんな、不摂生極まりない行為をほかの生徒に知られてしまっては、学戦生活どころの騒ぎではなくなってしまうのが、目に見えていた。そんな立花は、おなかの調子のほかにも別の現象が発生してしまっていた。それは…… 『男の子の匂い……はぁ。はぁ。』  学園主席で成績優秀者でも、年頃の乙女である。自分と同じような年ごろで自分と肩を並べるくらいに魅力のある男の子が現れたのなら、必然的に体も反応してしまうというもの……  そして、おなかの調子の悪さが、絶妙な緊迫感を与えて理性を容赦なく刺激してくる。それに合わせ、司の制服や肌着に囲まれたロッカーに囲まれ、司の体で蓋をされる形になってしまって、司に包み込まれているような状況がより立花の理性を刺激する。 『我慢しなきゃいけないのに、司くんの匂いが気になっちゃう……』  鼻で呼吸をするだけで、司の匂いが立花の鼻の奥を刺激して容赦なく理性を刺激する。それに合わせ密着した段階で司の足が立花の足の間に密着する形になってしまっていた。  立花にとって、気を抜いたら即恥ずかしい未来が待っている最悪な状況にもかかわらず、おなかは『出してしまえ』と、本能は『このまま包まれていたい』と、容赦なく立花の理性をついてくる……  おなかと本能の板挟み状態の立花は、早くこの状況が過ぎて欲しいことを祈るだけだった。そして…… 「立花さん。大丈夫?」 「ふぇっ?」 「もう、先輩が行ったので、今のうちに……」 「あ、ありがと……」  ようやく、解放される形になった立花は、事なきを経たことでそっと胸をなでおろした。それと同時に司の表情に気が付く…… 「あ、あの……立花さん。その……格好が……」 「ふぇっ?」  立花は、ビキニ姿でロッカーに隠れていたことをすっかりと失念していた。ロッカーの中でもぞもぞしたことで、今にも水着が脱げそうになってしまっていた。 「あっ!?」  司が後ろを向いてくれたことで、何とか事なきを得て水着を直すことができたが、更衣室の中に出たふたりは何とも言えない表情になる。 「あ、あの……」 「あの……」 「ごめんなさい!」  ふたり同時に謝る形になった立花と司。海水浴場側には先輩がいるため、反対側の入り口から女子側へと戻ることになる立花。前もって司がほかの先輩が来ていないか確認をしたのち、司の合図で更衣室からでる。 「あ、あの。いろいろとありがとう。司くん。」 「い、いえ。」 「そ、それじゃぁ。」  立花が女子更衣室側へと振り返ったその直後、それまで堪えてきていたおなかの緊張が一気に解放される…… ぷっ。  実にかわいらしい小気味よいその音は、シーンとした更衣室の入り口に響き渡る…… 『なんで、このタイミングで出るのよ!』  誰しもが、一度は経験するであろうシーンとした会場での『おなら』。さほど大きな音でなくても、シーンとしているからこそ響き渡ってしまうその音は、立花にとって、一番出て欲しくないタイミングだった…… 『振り返れない!というか、どんな顔したらいいの?』 『助けてもらった上に、それも水着で、この状況でおならをしちゃうなんて……』  顔から火が出てしまいそうな状況に、穴があったら入りたいこの状況に、立花は一目散に女子更衣室側に走り出そうとした。しかし…… 「立花さん!」 「!?」  立花の右手を取った司は、立ち去ろうとした立花を止めて言い始めた。 「あの、あとで屋上に来てもらえますか?」 「わ、わかったから。そ、その。離して……」 「あっ、すみません。」  慌てて話した司を確認するかのように、司と立花は互いの更衣室へと戻っていく。そして、自分のロッカーを確認した立花は、海水浴場側のプレートを確認すると、先輩が直したのか女子更衣室のプレートがあっていた。  胸をなでおろした、立花は自分のロッカーへと戻るとそこには、小さく折りたたまれた手紙が添えられていて、そこには…… 『どう?楽しめた?司くんとの密着。by.遥香』 「遥香ぁ!」  どうやら、プレートを差し替えて司と立花がこんな状況になったのは、すべて遥香の策略だった。その後、教室に戻った後に遥香にゲンコツをしたのは、言うまでもなかった。 「で、どうだったの?司くんとは。」 「なにがよ。」 「バレてなかったんでしょ?先輩に。」 「そ、そうだけど……」 「ということは、更衣室ってそこまで隠れるところはないから……あっ!もしかして!司くんのロッ……」 「それ以上は、やめっ!」 「ふふ~ん。どうだったのよ~司くんはぁ~」  ニヨニヨとした遥香の顔は、少し腹立たしく感じたが確かに、遥香のおかげか司とは、これ以上ないというほどに密着することができていた。それも露出の高い『水着』で。  そして、こういう時に限って思いださなくてもいいことまで、思い出すのがお約束で、水泳の授業の遥香の言葉を思い出してしまう…… 『見ようによっては、『下着で』水泳やってるようなもんだなぁ~って……』 『あたし、司くんと、下着で密着してたようなもんだ!これ。しかも脱げそうにまで……』  そのことを思いだした立花は、耳まで一気に真っ赤になってしまう。その表情を見てか、遥香のニヨニヨした表情に拍車がかかったのは、言うまでもなかった。 「で、司くんとはどうするの?」 「どうするって言われても……。あ、屋上に……」 「えっ!ほんとに!?」 「来なくていいからね、あんたは。」 「えぇっ。そんなぁ~」  その後、立花は約束した屋上へと行くと、司が待ってくれていた。そして、言い放った言葉は…… 「立花さん。僕と付き合ってくれますか?」 「えっ。」  予想外の告白にあっけにとられた立花。その後に司が何かを話していたが、あまりに告白が衝撃過ぎて、まったく聞こえていなかった。 『えっ!どういうこと?司くんが。んんっ?ドウシテ?』 『更衣室で密着したから?いやいや、そんなはずは。まぁ。わたしも、司くんには、興味はあるけどさぁ……でも、彼氏や彼女のそういうのじゃ……』  そんなことを考えていると、ひととおり話し終えた司が、立花の表情に気が付き立花を呼び止めた。 「立花さん?いいですか?」 「し、仕方ないわね。つ、付き合ってあげる……」 「よかった。」  この時のズレが立花の理性を容赦なく刺激していくことになるのを、この時の立花はまだ知らなかった……
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