里音書房
第8話 夢と現実?
『あれ?これって……』  司と立花の帰宅を見守った遥香は、その日。おかしな夢を見ていた。背や格好はいつもより少し小さく、体の感覚がいつもとは違っていた。そして、近くにあった鏡を確認すると、そこにはいつも親し気に話している立花の姿になっていた。 「あれ?立花の姿になってる?」  遥香の特徴のひとつでもあるグラマーなで放漫なワガママボディーはなりをひそめ、つつましやかな胸となっていた。そして、立花の姿になった遥香はふと思った…… 『肩が凝らない……』  学園の一般の生徒からは、モテモテの遥香。その多くの男子が遥香の胸につられることが多かった。それでいて男子生徒との距離も近いことから、立花からは「もう少し用心しなさい!」と言われていたりする。  学園のかわいい男子などは遥香は放っておいたことはなく、よく遥香の方から抱き着いたり頬ずりしたりなど、過度なスキンシップが話題になったこともあった。そのことから、遥香に気に入られようと、男子がこびてくることが多かった。 「立花の体。動きやすい……」 ぴょんぴょん!  普段とは違う体で楽しくなった遥香は、普段ではしない動きをする遥香。ぴょんぴょんジャンプするのはもちろんのこと、体操みたいに屈伸や背伸びをしたりしていた。そして、この時の遥香はあのことをすっかり忘れていた。そして、その結果はあっさりと遥香を窮地に立たせることになる…… 「はうっ!」 ぎゅるるるるるるるるぅ~  普段の立花であればまずしないことを、遥香は立花の体を使ってやってしまっていたことで、立花の『アノ』症状が発生した。 「うぉぉぉぉぉぉ!」 『あの子、こんなのに耐えてたの!?』  猛烈に活動を始めた立花の体は、出してしまえと言わんばかりに下腹を刺激してくる。気を抜いたらおしまいのような状況に悶え始める遥香。 「あぁっ。あぁ。」 『ヤバイ!?気を抜けば……すべて……出る!と、トイレ……』  四つんばい状態の遥香は気合を入れて立花の体を起こそうとするが、起こそうとするたびに活発に活動する内臓が、いや応うなしに出してしまえと刺激してくる。つかまりながらも立花の体を起こし立ち上がることのできた遥香は、一歩。また一歩と、トイレへと足を進める。  幼少期に立花の家へ遊びに行ったことを思いだしつつトイレへと向かう遥香は、おなかを抑えつつ一歩ずつ、着実にトイレへと足を進める。幸いなことか、おなかをプッシュしているのは固形ではないようだった。  それでも、立花の体の遥香は廊下でおならは考えられなかった。そして、慎重に階段を一歩ずつ降りていく。そんな立花の姿を母親が見つけて声をかける。 「あら、トイレ?」 「か、母さん!?」 「どうしたの!そんなに青い顔して。大丈夫?」 「お、おならが……」 「えっ?」 「出そうなの。」 「なに、そんなこと?」  立花の母にとっては、おならは日常茶飯事。そのために、胃腸が元気なことはいいことと言わんばかりで、そこまで問題視してはいなかった。そして、意識が遥香なこともあってか、立花の体であっても多少の制御は効いていたこともあり、おならが漏れ出ることはなく済んでいた。 『そ、そんなこと!?えっ!なに。立花は、家だと普通にしてるの!?』 『しかし、立花の体でそれは……さすがに……』  理性が普段より強めに働いてる遥香は、次第におなかに来てる刺激と、性欲のソレと誤認してしまうような感覚に襲われ始める。そんな遥香は立花の母を振り切ってトイレへと駆け込み、おなかに抱えたものを解き放つ…… 「はぁぁぁぁ~。間に合った~」  そして、意識が遠のいた後。次の瞬間には、自分のベッドへと戻っていた。自分の体。そして、おなかも普通。遥香の奇妙な夢だった。  そんな遥香の不思議な夢と同じタイミングで、立花も不思議な夢を見ていた。それは…… 「ちょっと。遥香じゃない。これ。」  鏡の前に立つ立花。しかし、鏡に映るのは遥香。肩にかかるずっしりとした重み。腕を振るだけでも苦労するほどの豊満な胸。 『遥香。あんたは……』 「寝るときは、ノーブラなのか……」  肌に直接感じるパジャマの繊維の感覚。ツンと上を向いた遥香の胸は、しっかりとパジャマの感覚をとらえていた。昔からの親友で、仲のいい立花と遥香は胸の大きさこそ違えど、やっぱり気になるものである。 『付けないほうが、育つのか!?』  そして、違和感を感じたのは、上だけではなく…… 『この感じ……あの子。下も……』  パジャマの下を手繰り寄せると、普段ならそこまでスースーすることのないパジャマ越しの体は、いつにもましてスースーと風通しが良くなっていた。  遥香は、豊満な人に良くある裸の状態にパジャマを直接着るタイプだった。幼い頃から仲良しだった立花と遥香は、幼少期こそそこまで見た目は変わらなかったものの、小学・中学と経るごとにすくすくと育つ遥香をよそに、立花はそこまで育っていなかったこともあり、ショックを受けた時期もあった。 「あれ、おなかが……あっ!そっか。遥香の体だから……」  いつもなら、起きた直後に強烈なおなかの刺激に見舞われることが当たり前だった立花にとっては、この状況は不思議でしかなかった。軽く体を動かしても全くと言っていいほどにおなかを刺激してこなかった。そして、もう一つ気が付いたことがあった。 『はぁ。何てこと……重い!』  いつもならすんなりと軽快に歩ける体も、遥香の体になっていることからそうもいかなかった。普段ならつつましやかで主張が少ない立花の胸も、遥香の体なこともあり主張が激しかった。  普段の自分の体と違う感覚ということもあり、自然とだるさに襲われた立花は、もう一度だけ寝るためにベッドへと入る。そして、次に目覚めたときは自分の体へと戻っていた。  そして、次の日…… 『立花。あんなにつらいんだね……』 『遥香。あんなに重かったら……』  互いの姿になる夢を同時に見た立花と遥香は、相手になってみて初めて気が付く貴重な経験を夢でしていた。  その日は、いつもと変わらない日常の始まりだったが、夢の所為かちょっとだけ相手を思うきっかけとなった夢でもあった。
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