ザーーーー
けたたましく音を立てる外の天気は、一向に止む様子はなく、司も帰ろうにも帰る状況になかった……
「う~ん。どうしよう……」
そんな中、色々と失った立花は、いよいよ怖いものがなくなてきつつあった……
一つを残しては……
ピカッ!
イヤァァァァ!
そのけたたましい声に司が驚くと、しゃがみプルプル震える立花の姿があった……
「だ、大丈夫?」
「えっ! あ、だ、大丈夫よ……」
ピカッ!
うっ!
そう。立花。雷が大の苦手である。
そもそもは、子供の頃の教育の一環で、へそを取られるぞーや雷様が怒ってるんだといったたぐいの、伝承だった。
しかし、立花は純粋に信じてしまい、雷におびえる性格になってしまった。
「もしかして、雷。怖いんですか?」
「うううう。」
「ふふっ。」
「あっ! なんで、笑うのよ!」
「ご、ごめんなさい。つい……」
「ついって……もう……」
ついつい、怖さのあまりに司にしがみつきそうになる立花。
ピカッ!
はっ!
司は雷は怖くないが、全く違う危険が身に迫っていた。それは……
『抱き着かれてるんですけど……』
薄い布地ごしに伝わる立花の暖かな感触は、司の理性を刺激し続ける……
遥香よりは小さいとはいえ、しっかりと乙女のふくらみがある……
その柔らかなふくらみが、司の理性を刺激していた。
「あっ!」
慌てて離れる立花は、先ほどまでのおなかがバレる物とは異なったドキドキ感を味わっていた……
『あれ? おなかが……反応しない?』
それまで、あれほど止まって欲しいと願っていた立花のおなか。しかし、今抱き着いた時に限って全く反応しなかった……
立花としては、このままこの症状が治ってくれれば、助かる。しかし、それはそれで、これまでのつながりが微妙になってしまうことを考えてしまっていた。
「あ、あの……」
「あっ。ごめん……」
慌てて離れた立花だったが、気になることはさらに続くことになった……
それからは、雷は鳴ることは無く、立花は事なきを得ていた。
しかし、反対に気になる問題が発生していた……
『どうしよう……』
立花の部屋に戻ってきた二人は、微妙な空気になっていた。それまで『勉強会』というイベントがあったから、同じ部屋にいても不思議じゃなかった。
しかし、帰宅することができなくなった司を、一泊させなければいけないという状態にどうしようか迷ってしまっていた……
『あたしのベッド……いや、さすがにそれは……』
『といって、寝るにも早い……』
時間こそ、ようやく夕方になったところ。となると……
『料理か……確か、作り置きがあったような……』
司を部屋に残し、食事をすることにした二人……
「司くん、待ってて。夕飯持ってくるから……」
「えっ、いいんでしょうか?」
「いいの。で。」
「で?」
「いい! また、やったら、怒るからね!」
「は、はい! やりませんから。」
「ほ、ほんと?」
「うん、うん。」
その言葉を聞いた後に、立花は部屋を後にする。
「いい? 覗いちゃだめよ! いい?」
「はい。」
人というのは『ダメ!』と言われると、やりたくなってしまう。しかも、女の子の部屋となれば、なおさらである……
『……お、女の子の匂いがする……』
くしくも、だめと言われたのはタンスを開けたりすることを止められていると、体のいい解釈を追加してしまう。
後ろには、立花が愛用しているベッド。向かい側にはいろいろとあった衣装ダンス。そして中央には、女の子らしいデコレーションされたテーブルがある。
司にとって、女の子の象徴のようなものが身の回りにある。それだけでも興味がそそられる……
『ど、どんな匂い、するんだろう……』
正直なところ、ベッドに顔をうずめて……というのも考えた司。しかし、あの怒りようでは、出入り禁止になるのが目に見えていた……
そんな精神的な格闘を繰り広げていた司。一方の立花はというと、キッチンで悶々としていた。
『司くんに料理とか……』
おならの一件以来、どうなるかと思っていた立花。自分の恥ずかしい一面を見られてしまったこともあり、作り置きではあるもののなんとかポイントを取り返そうとしていた。でも……
『カップルかな? 夫婦? 一緒に料理食べるとか……』
必然と、料理を準備する手が早くなる。
それと同時に、ニヤニヤした緩んだ顔になってしまう……
そうして、こういう時は決まって……
「あっ! 張り切り過ぎた……」
ふたりで食事をするのに、大物おかず3品と豪華なものになってしまった。
「これ、部屋で食べるのもあれだし、リビングに呼ぼう」
そして、気が付いてしまう。エプロンをして、司のために料理を作っているこの光景……
『新婚夫婦かっ!!!!』
そう考えた途端、おなかが歓喜の雄叫びともいえるくらいに反応を始めた。
「はうっ! もう! こんな時に……トイレ、トイレ……」
そして、司の待つ部屋へと向かう立花。気分も妙なテンションになっていた立花は、部屋の扉を開けると……
「司くん……おまた……せ?」
そこには、ベッドに乗りかかりすやすやと眠りに落ちた司の姿があった。
あの後、司は、あれやこれやと考え込んでいる内に眠くなりそのまま眠りに落ちていた。それも、座ったまま。
「すぅ~はぁ~」
心地よい寝息を立てる司。そんな姿を見た、立花の中では悪魔のささやきが始まる……
『キスしちゃえよ~。どうせ、眠ってるんだから……』
ダメとは思いつつも、そんな考えがよぎる……それに、近くに座っても、全く起きる様子がない……
『あ、あたしの下着を見たんだし……これくらいの仕返しはいいよね……』
なんていう、考えすら浮かんでくる……
幸いなことに、おなかも活発にはなっていない。つまり……
『これ、しちゃう?』
そんな結果へと必然的にたどり着く……
少しずつ、一歩づつ、寝息を立てる司の顔へと使づいていく……
「んんん~」
あと数センチで司とキスをしてしまうその瞬間……
「いる? りっ……か……」
「お、おかぁさん? ど、どうして?」
「どうしても、何も。何しようとしてたの?」
「こ、これはね?」
「そこにいるのは……司くん?! あなた、まさか!」
「おかぁさん。それ以上言っちゃダメ!」
そんな会話をしていると、すやすや寝ていた司も起きて……
「あれ? 立花さん? か、顔が近い……」
「あっ、ご、ごめん。」
突然の母親の帰宅に驚く立花と、どういう状況なのかいまいちつかめない司。娘が司に対してキスをしようとしていたところを目撃してしまった母の、微妙に気まずい空気が流れる……
それは、リビングに移動し家族会議の様相を呈したところにポツンと司が取り残された状況を作り出した。
「あ、あの……」
「司くんは、悪くないのよ。うちの子が……」
「あれは、その。不可抗力というか、何というか……」
「えっ? なに。タイミングよく、こけちゃってキスしそうになったとでもいうの?」
「そ、そうよ。」
「そんな、都合がいいことがありますか! もう。」
彩花とて、怒りたくて怒ってる訳じゃなかった。言い訳してることそのものに怒っていた。
『どうして、言い訳するのよ、立花。好きなんでしょ? もう……』
『そういう所は、血は争えないってことなのかもね……』
彩花もまことを出会った時は、ドギマギした。どうしようかと悪戦苦闘したものの、結果的に強引にまことを口説き落としたのだった。
『女の子にはね、押しが重要な時もあるのよ! 特に、こういう司くんみたいな草食系男子は!』
『これは、もう。あの手を使うしかないのかしら……』
指をかじりながら考える姿の彩花。その姿を見た司は、自分が怒られているかのような錯覚に襲われていた……
『ごめんなさい。立花さんの下着を見てしまいました……なんて、言ったら出入り禁止だろうなぁ~』
そう思うと、一言も口に出せない司だった。
そんな司をよそに、彩花の中では、一つの答えが出た。そして……
「司くん……」
「は、はい……」
しばらくの沈黙の後……
「今日は、泊まっていきなさいな。弥生さんにも言っておくから、ゆっくりしていくといいわ」
「えっ。は、はい」
てっきり『今日は帰って』と言われることを想像していた司にとって、この彩花の言葉は意外だった……
「それで、立花。ちょっと来なさい!」
「ちょっと、なに。もう……」
廊下に呼び出された立花は、何やら話し込んで時々『えっ!』と声をあげていた。それもそのはず……
『立花。キスぐらいしちゃいな。それくらいできるでしょ?』
『えっ! あ、ちょっ! 言ってることわかってる? そんなの、無理!』
『いい? 司くんぐらいの子は、こっちからぐいぐいいかないと、遥香ちゃんとかになし崩し的にとられちゃうわよ!』
『そ、それは。そうかもだけど……』
『いい? 今晩、やっちゃいなさい! いい?』
『それを、親が言う?』
あきれつつも、仕方なく納得するしかなかった。
そして、嵐のように来た彩花は、仕事があるとのことで会社に戻り、自宅では食事を済ませた司が立花の部屋で待っていた。
「も、もしかして、ここで寝ろと? まさかなぁ~」
そんなことを想像している司の元に、風呂上りのパジャマ姿の立花が部屋に来る……
その姿に、司は絶句する……
「な、何か、いうんじゃないの? こういうときって……」
「えっ? あ、その。かわいいパジャマだよね……」
「あ、ありがと……」
そういって、立花は自分のベッドに入りひとこと……
「つ、司くんも入ってきたら? お風呂……」
「えっ? い、いいの?」
「い、いいんじゃない?」
『えぇぇぇぇっ!』
こうして、彩花に後押しされた立花の、一夜が始まります……