里音書房
第20話 プールと水着はラッキースケベフラグ?
『これ、どうすればいいの……』  その日、遥香を挟む形で立花と司が立っていた。  お泊りの一件以来、二人の間には微妙な空気が流れていた…… 『何なの、この二人の間合いは……』  遥香はあの時、何が起こったかは全く知らなかった。というより、立花が全く話そうとしなかったことや、本来なら彩花から聞くことのおおい遥香も彩花が話さなかったというのもあり、モヤモヤしていた…… 『どうなってるのよ。この二人は……』  中間テストを無事終え、息抜きをするために、近くにある屋内プールへと向かっていた……  その道中、カフェに立ち寄った時も立花と司は妙によそよそしく、目線が合えば、すぐにそらすという状況になっていた……  というのも……  立花はというと…… 『あそこでは、あいうことで、決着したけど……』 『司君に抱き着いたのよね……』  一方の司はというと…… 『あのシャンプーのにおいと、あの感触……』 『抱きしめられていたんだよなぁ~』  そして…… 『どんな顔すればいいの?』 『どんな顔すればいいんだ!』  二人とも、微妙なメンタルの状態になっていた……  しかも、そのことを全く知らない遥香は、半ば強引に二人を誘いだしたことで立花と司は、自然とお互いの距離を縮める形になっていた……  その状況は、屋内プールへと到着しても同じだった…… 「さ、ふたりとも」 「ん? なに、遥香」 「なに? も何もないでしょ。せっかくプールに来たんだし。羽を伸ばすわよ」 「わ、分かったわ……」  立花と遥香。そして司は、プールサイドでの集合を約束して、互いに更衣室へと入る。 「ねぇねぇ」 「なによ、遥香……」 「ひとつ、聞きたいんだけど……」 「ん? なによ……」 「あのね……」  遥香は着替えをしながら、もったいぶるように立花に対してこう問いただした…… 「お泊りの時。何かあった?」 「ギクッ!!!!」  遥香のその質問に、あからさまに反応してしまった立花。  そして、それを見逃すはずもない遥香は、目を輝かせる。 「あっ、えっ! 何かあったのね? その反応は……」 「いや、な、なにもないから……」 「なによ、教えてよ~」 「いやよ。その目を見ればわかるから……」  遥香の目は、おもちゃを目の前に出された子供のような目をしていた。相変わらずの楽しいこと優先の遥香だった。 「それに……」 「えっ?」 「あんた。また、育った?」 「そうかな?」  立花の隣で着替えている遥香。  もともと、モデル体型で出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。それが、最近になって、拍車がかかったような気がしていた。  立花が見る限りでは、明らかにひとサイズはアップしていた。それを見て…… 「ねぇ。遥香……」 「なに?」 「帰っていい?」 「えぇぇっ! どうしてよ」 『それを、あなたが言う? そのわがままボディ―しておいて……』  立花を引き留めるその手は、まるで胸が話しているかのような存在感だった…… 「ははは。遥香。あんたには、勝てないわ……いろんな意味で……」 「ん???」  柄こそ違うものの、同じビキニを着ていて、こうも違うものかと思うほどに辛くなる立花。  それを遥香は、まったく気にしていない。 『そ、そりゃぁ。遥香に比べたら……私も……』  そういって、自分の胸を確かめる立花。そして…… 『うん。あきらめよう!』  そう決める立花だった。  そして、着替えの終わった遥香と立花は、プールサイドの待ち合わせ場所に行くと、すでに司の姿があった。 「おまたせ~」 「あ、遥香さん。そして、立花さん……」 「この水着。どうかな?」 「えっ。そ、その。似合うんじゃないですか。」 「えぇっ。たんぱくだなぁ~。こう、かわいいよ。とかないの?」 「えっ。そ、そういうもんですか?」 「そうよ。ほら、立花のも見て、一言……」  そういわれた司は考え込む。 「司君。いいのよ。普通に答えても、どうせ男の子って、胸なんでしょ?」 「い、いや。そういうわけじゃないですよ。」  確かに、立花と遥香が横に並ぶと、明らかに遥香の方が目立つ。柄こそ違うものの、同じビキニでも立花より遥かの方が、着映えする。  それは、立花もわかりきっているのか、遥香より少し離れて立っている…… 「それで、どうなの? 司くん?」  前かがみで聞く遥香の姿は、自分がどう見えているかわかっているようなポーズだった。 「似合ってて、かわいいと思います。スタイルがいいし……」 「はいはい。遥香みたいにグラマーじゃないからね。私は……」 「いえ。そういうことじゃなく……」 「はいはい。わかったから……」  精一杯、言い訳をする司のしり目に、ほほを膨らました立花。ぷいっと司の反対側を見てほほを染めていたのを、遥香は目撃していた……  そんな姿を見た遥香は、半ば強引に司を連れ出す。 「ねぇねぇ。付き合ってよ。立花も……」 「えっ? あたしも?」 「こっちこっち。」  そして、司が連れていかれたのは、ウォータースライダーだった。  屋内ということもあり、そこまで落差は激しくはないが、距離が長かった。  20メートルの高さから、約500メートルの距離を滑り下りるウォータースライダーだった。  家族連れも多く訪れるこの屋内プールは、ウォータースライダも大型でゆっくりと流れている。  そのまま滑るものから、浮き輪に乗って滑るタイプを選ぶことができ、今回は3人乗り用の浮き輪を借りることになった。 「ほ、本当に乗るんですか?」 「あれぇ~司くん。苦手なの?」 「い、いえ。そんなこと……ないですけど……」 「で、どういう並びにするの……」 「えっとね……」  それから、司たちは、浮き輪に乗るが…… 「あ、あのさ……」 「えっと……」 「えっ? なにかな?」 「どうして、こういう順番になるのよ!!」  遥香が指示した乗り方は、司を間にして立花が前。そして、遥香が後ろという、司を二人で挟む形になった。  そして、スタート位置につくと、スタッフの人が密着するように諭す。服をまとった状態であれば、密着することはあった。しかし、ここまで肌と肌が触れ合うことはまずない。 「ほら。司くん。しっかりくっついて」 「えっ。でも……」 「いいから、ほら。立花の腰に手をまわして……」  司の後ろには遥香のふくよかな胸が、司の足を開いた前には立花が密着してくる…… 『なにこれ……いろいろと、理性がやばい……それに……』  そんな司の不安をよそに、いちゃいちゃしているカップルに見えたことで、そのスタッフはイラっとしたのか…… 「それでは、スタートしましょう。はい。いってらっしゃ~い」  半ば強引に司たちをスタートさせた。  強引にスタートさせたことで、司は思いっきり立花の体にしがみつく…… 「あひゃっ!」  司の体に包み込まれる形になった立花は、いろいろと考えてしまう。幸いにも先頭に座っていても傾斜が緩いということもあり、そこまで怖くなかった…… 『司くんのドキドキが背中から伝わってくるみたい……』  しっかりと司の腕が立花の体に巻き付くようになっていることで、自然と司の頭が立花の首元をとらえる。 『あっ! んっ! 司くんの息が、首に……』  そして、ウォータースライダーも中盤近くになって、遥香は一番後ろで両手を挙げて喜んでいる一方。司はというと…… 『やばいやばいやばい。ムリムリ……』  司は、幼少期に親にウォータースライダーに連れていかれ、怖い思いをしたトラウマがあり、ウォータースライダーが怖かった……  そして、それを立花にしがみつくことで、何とか耐えていたが…… 「あ、あの」 「えっ、なに?」 「こ、怖くないって言いましたが……」 「えっ?」 「全然、怖いですぅぅぅぅ!」 「えぇぇぇぇ~」  ギリギリしがみついていた司だったが、すべすべする立花の腰をつかんでいたということもあり、自然とその手は上へといき水着に指が引っかかるようになった。 「ちょっ。司くん。落ち着いて、ひもが……」 「そ、そんなこと言っても……」  立花の体に巻き付くようにしがみついている司。  右腕は、足の方に。反対に左腕は胸の方に巻き付いていたこともあり、立花はいろいろとまずいことになっていた。 『ちょっ! 待って! 腕が……』  そんな立花をよそに、ウォータースライダーは、最後のプールへとダイブすることになった。 バシャ~ン!!!! 「ぷはっ!」 「ははははは。たのしいねぇ~司くん……」 「えっ、は、はい……」 「で、その手に持ってるのって……」 「えっ? あっ! まさか……」  司の手に持っていた小さな布地は、明らかに見覚えのある布地だった…… 「こ、これって……」 「司くんったら、大胆……」 「ちがっ! 立花さん?!」 「ちょっ! こっち見ないで!」  そこには、水面からひょっこりと顔を出す立花の姿があった。 「えっ? 立花。立てないの? ほんとは怖かったの?」 「そんなわけないでしょ。今の状態で、立てるわけないでしょ1 何言ってんのよ! 遥香は、もう。」  それから、立花は司の手から水着を取り返すと、明らかに怒っていた…… 「ごめんなさい!」 「もう、分かったから。頭を上げて……」 「誤っても謝り切れません……」 「ならさ……」 「えっ?」  深々と頭を下げる司ともう怒ってない立花だったが、償いたい司に対して遥香が提案した。 「なら、立花に泳ぎ方。教えたら?」 「えっ?」 「ちょっ。遥香?!」 「だって、立花。あなた。泳げないじゃん」 「そ、それは……。そうだけど……」  屋内プールでの司の苦難はもう少し続きそうである……
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