里音書房
第23話 好意と更衣はキケンな香り?
 この話は、司がプールで気絶したところにさかのぼる……  その瞬間、立花は足を滑らしおしりを打ち付けるものだと思っていたが、ちっとも痛さが感じなかった。それどころか、お尻から妙な感触が伝わってきていた…… 『あれ? 痛くない? それに……なに? あの感触……』 「つ、司くん?!」  慌てて立ち上がった立花の後ろで、気絶した司が水面にぷかぷか浮いていた……  それから、スタッフの人に手伝ってもらい、司をプールサイドに上げるとスタッフが立花たちに運搬先を伝えた。 「こちらには、専用の医務室はないので、その代わりといっては何ですが、個室休憩室があるので、そちらに運びます」 「は、はい。お願いします」  それから立花と遥香は、自分たちも着替えて休憩室に直行しようとするが…… 「なに。これ? 大規模清掃? 今?」 「私たちの着替え……」  二人がそんな会話をしていると、先ほどのスタッフが二人を見つけて、事の次第を伝えた。 「えっと、お二人の着替えは、部屋の方に運んであるので、こちらを使ってください」 「えっ? バスタオル……」  スタッフから渡されたものは、大きめのバスタオルだった。  それで、体に巻いて休憩室までの数十メートルを、立花たちは走って移動する羽目になった。 ばたん! 「はぁ、はぁ。」 「だ、誰にも見られてないよね?」 「大丈夫だとおもう……」  二人は更衣室から休憩室に至る廊下に、ひょっこりと顔を出し誰もないことを確認すると、ダッシュで司が運ばれた個室休憩室にたどり着いたのだった…… 「ど、どうする?」 「えっ? どうするもなにも、着替えるでしょ。」 「ええっ1 だって、司くんが寝てるんだよ。目の前で……」  これから着替えようとしている立花と遥香の前のベッドには、司が気絶した状態で横になっている。  もし、着替え中に司が目覚めようものなら、見られてしまうことが間違いなかった。 「大丈夫よ、気絶してるんだから……」 「ほ、ほんと?」  相談した挙句立花と遥香は、司が起きてしまう前に一気に着替えてしまうことにした…… 『つ、司くんが目の前にいるのに……』 『いま、起きたら……』  そんなことを考えている立花。司と同じ空間で一糸まとわぬ姿になっているというだけで、起きないで! とソワソワしてしまう。  そんなことを考えているうちに、いつの間にか、遥香はもう着替えを済ませていた。立花も慌てて着替えを済ませたのだった。  二人が着替え終わって数分後、部屋の扉をたたく音がした。 トントン。 「はい。」 「スタッフのものですが……着替えをお持ちしました」 「は、はい」  部屋に入ってきたスタッフは、司の着替えを置くと、質問を始めた…… 「えっと、どちらかがこの方の“彼女”さんですよね?」 「へっ?!」 「監視員から聞いたのですが、特にあなたと親しいように見えたとのことだったので、彼女さんですよね?」 「えっ、いやぁ……」  返答に困っている立花を見た遥香は、ニヤッと楽しいことを閃いてしまった。 「そうですよ、この子が彼女です」 「あぁ、やっぱり、そうなんですね」 「えっ、いや。その……」  戸惑う立花をよそに、スタッフは話を続けていく…… 「えっと、今。スタッフの方が手が離せない事情があるので、この方の着替えをお願いしたいのですが……」 「えっ! 司くんの……着替え……」 「はい。そうです。お二方で協力してもらえれば、できると思うのでお願いしますね」 「えっと……」  立花が返答に困っていると、廊下の方からスタッフを呼ぶ声が聞こえてきた。その声に呼ばれるように、あっという間に去ってしまった……  部屋には、気絶した司と司の着替え。そして、遥香と立花だけになってしまったのだった。 「ど、どうすんのよ。遥香!」 「だ、大丈夫よ。気絶してるんだし……」 「それ、前にも聞いた……」  簡易的なベッドに横にされている司には、バスタオルがかけられ、呼吸だけが続いていた……  どうしようか迷っている立花に、きっかけを作るために、大胆な行動をとった。 「えいっ!」 「ちょっ。遥香?!」 ばさっ。  遥香がバスタオルをはだけると、そこには無防備な司の体が横たわっている。男の子ならではの、しっかりとした骨格。そして、うっすらと割れた腹筋は、いやおうなしに立花の興味をそそる。 「うわぁ~こうしてみると、結構。司くんって、いい体してるのね~」 「こ、こら。遥香。そんな近くで見ないの。」 「いいじゃない、気絶してるんだし……ほら、立花も触ってみなよ」 「そ、そんなの……」  触れなければ着替えさせることなど、無理なことで結果的には触れるしかないが、立花にとってはどうしても“触れる”という行為に踏ん切りがつかなかった。  一方の遥香はというと、自分の欲求にいい意味で忠実ということもあり、つんつんと司の腹筋周辺をつついていた。 『さ、触りたい……』 「何してんのよ、もう。触らないと、着替えさせれないでしょ。立花」 「わ、分かった。わかったから……」  意を決して司の体に触れると、しっかりとした骨格に男の子らしい筋肉質の体。何よりも、ずっと触っていたくなるほどの身体だった…… 「司くんの体……」 「立花?」 「ん?」 「いやぁ~、触っていたいのはわかるけど……」 「あっ。そうね。着替えさせないと……」  遥香と立花が協力して、何とか上半身は着替えさせることに成功した。問題はこれからだった。女子の服とは多少似ている部分もあるものの、履かせることすら難易度が高かった。  まずは、濡れた水着を脱がせることから始めなくてはならない。司の下半身に密着した水着は、時間の経過とともに多少の水分が蒸発し、脱がせやすくはなっていた。  しかし、依然として肌と密着しているということもあり、脱がすのには一苦労しそうなのが目に見えていた…… 「いい? 立花。脱がすよ」 「う、うん。」  遥香と立花が司を挟む形で、司の水着の腰の部分に手を入れる。 『こ、これは、決してやましいことではないのよ……』  そう言い聞かせつつ、少しずつ遥香と息を合わせて下ろしていく…… 「ちょっと待って……」 「なによ、遥香。」 「さすがにこのまま下ろすの、まずくない?」 「まずい? ……あっ……」  このまま水着を下ろそうものなら、いろいろと見えてしまうことに気が付いた二人は、バスタオルで覆うことで手探りで脱がすことにした。 「こ、これなら大丈夫ね」 「う、うん」  個室休憩室の中では、気を失った司にバスタオルをかけ、そのバスタオルの中に遥香と立花が両手を突っ込んでいるという、珍妙な光景が広がっていた…… 「も、もう少しで……脱げそう……」 「よいしょっ。あっ、脱げた……」  ようやく脱がすことに成功した司の水着。脱がすだけでも苦労した二人だった。そして、水着を持った立花は司を見て、思わず考えてしまった…… 『ようやく脱げた……ん? つまり……』 『この下……』  先ほどとは反対に、司が一糸まとわぬ姿になっていることを想像してしまう。その様子を、にやにやと遥香が見ていた…… 「いや、なにを想像してるの? 立花って、意外とエッチだよね?」 「えっ! べ、べつに……さ、さぁ。着替えさせ……」 「ん?」 「着替えさせるってことはさ……これ……」  立花が司の着替えから取り出したのは、司のトランクス。つまり、下着だった…… 「こ、これは、着替えさせるためよね。決して、やましい意味じゃ……」 「なに、立花。やましい意味で持ってたの?」 「いや、ちがっ!」 「あっ。そういえば、前に自分のも……」 「は、はるかぁ~」  そんなことをやりつつ、向きを確認して、司の両足に通していく。ゆっくりと確実に上に上げていくと、最後にいざ腰にといったところで、何かに引っかかった。 『あれっ? 何かに引っかかって……』  二人同時にそう思ったものの、遥香は何が引っかかっているかすぐわかったらしく…… 「立花、ちょっと引っかかてるのをどうにかして……」 「えっ? う、うん……」  立花は何気なく了承したが、たどっていくと明らかに引っかかっているのは、司の足の間だった。 『ここって、その……あれよね?』  そんなことを考えてしまい、戸惑っている立花だったが、遥香に催促されゆっくりと布伝いに手を入れていく…… むにゅ。 「はっ!」  手の甲で触れた瞬間、思わず手を放してしまった立花。 「どうしたの? 立花」 「い、いや。な、なんでもないよ……」 「なら、いいけど……」  心配する遥香は、内心にやにやしてしまい、顔に出ないか心配になるほどだった。 『あれに触ったのね……これでおあいこじゃん。立花。』  そんなことを思っている遥香とは裏腹に、立花はというと意を決して布伝いに手探りでたどり、何とか障害を乗り越えたのだった。 「はぁ。疲れた……」 「お、お疲れ。ふふっ」 「何笑って……あっ! 遥香、さては。知っててやらせたでしょ!」 「う、うん。真っ赤になりながらやってるのが、面白くて……ははは」 「もう! 遥香ったら……」 「さ、あとは、ズボン。仕上げちゃいましょ」 「う、うん。」  それから、二人は悪戦苦闘しつつも、司のズボンを上げてようやく着替えを終えることができた…… 「はぁ、はぁ。疲れた……」 「お疲れさま、立花」 「ん。そっちもね~」 「じゃぁ、あたし。帰るわ」 「えっ! どうするのよ、司くんは……」 「そんなの、立花がいるじゃん。何せ、『彼女』なんでしょ? ふふっ」 「そ、それは! あの場の流れで……」  立花が言い訳しようとすると、自分のバックを持った遥香が隣に来て…… 『ほんとに、嘘なの? 好きっていう感情は無いの?』 「そ、それは!」 「それじゃぁ、いいじゃない。それに、この場に誰か残ってないといけないだろうし……」 「だったら、遥香が……」 「いや、それは。やっぱり、『彼女』の立花でしょ」  いかにも楽しそうに話す遥香は、とっさに了承した立花の『彼女宣言』がよほど楽しいようだった…… 「まったく、遥香ったら……」 「あっ、やばっ、どっと疲れが……」  そうして、疲れた立花は司が目覚めるまで、熟睡するのだった……
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