この話は、司がプールで気絶したところにさかのぼる……
その瞬間、立花は足を滑らしおしりを打ち付けるものだと思っていたが、ちっとも痛さが感じなかった。それどころか、お尻から妙な感触が伝わってきていた……
『あれ? 痛くない? それに……なに? あの感触……』
「つ、司くん?!」
慌てて立ち上がった立花の後ろで、気絶した司が水面にぷかぷか浮いていた……
それから、スタッフの人に手伝ってもらい、司をプールサイドに上げるとスタッフが立花たちに運搬先を伝えた。
「こちらには、専用の医務室はないので、その代わりといっては何ですが、個室休憩室があるので、そちらに運びます」
「は、はい。お願いします」
それから立花と遥香は、自分たちも着替えて休憩室に直行しようとするが……
「なに。これ? 大規模清掃? 今?」
「私たちの着替え……」
二人がそんな会話をしていると、先ほどのスタッフが二人を見つけて、事の次第を伝えた。
「えっと、お二人の着替えは、部屋の方に運んであるので、こちらを使ってください」
「えっ? バスタオル……」
スタッフから渡されたものは、大きめのバスタオルだった。
それで、体に巻いて休憩室までの数十メートルを、立花たちは走って移動する羽目になった。
ばたん!
「はぁ、はぁ。」
「だ、誰にも見られてないよね?」
「大丈夫だとおもう……」
二人は更衣室から休憩室に至る廊下に、ひょっこりと顔を出し誰もないことを確認すると、ダッシュで司が運ばれた個室休憩室にたどり着いたのだった……
「ど、どうする?」
「えっ? どうするもなにも、着替えるでしょ。」
「ええっ1 だって、司くんが寝てるんだよ。目の前で……」
これから着替えようとしている立花と遥香の前のベッドには、司が気絶した状態で横になっている。
もし、着替え中に司が目覚めようものなら、見られてしまうことが間違いなかった。
「大丈夫よ、気絶してるんだから……」
「ほ、ほんと?」
相談した挙句立花と遥香は、司が起きてしまう前に一気に着替えてしまうことにした……
『つ、司くんが目の前にいるのに……』
『いま、起きたら……』
そんなことを考えている立花。司と同じ空間で一糸まとわぬ姿になっているというだけで、起きないで! とソワソワしてしまう。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか、遥香はもう着替えを済ませていた。立花も慌てて着替えを済ませたのだった。
二人が着替え終わって数分後、部屋の扉をたたく音がした。
トントン。
「はい。」
「スタッフのものですが……着替えをお持ちしました」
「は、はい」
部屋に入ってきたスタッフは、司の着替えを置くと、質問を始めた……
「えっと、どちらかがこの方の“彼女”さんですよね?」
「へっ?!」
「監視員から聞いたのですが、特にあなたと親しいように見えたとのことだったので、彼女さんですよね?」
「えっ、いやぁ……」
返答に困っている立花を見た遥香は、ニヤッと楽しいことを閃いてしまった。
「そうですよ、この子が彼女です」
「あぁ、やっぱり、そうなんですね」
「えっ、いや。その……」
戸惑う立花をよそに、スタッフは話を続けていく……
「えっと、今。スタッフの方が手が離せない事情があるので、この方の着替えをお願いしたいのですが……」
「えっ! 司くんの……着替え……」
「はい。そうです。お二方で協力してもらえれば、できると思うのでお願いしますね」
「えっと……」
立花が返答に困っていると、廊下の方からスタッフを呼ぶ声が聞こえてきた。その声に呼ばれるように、あっという間に去ってしまった……
部屋には、気絶した司と司の着替え。そして、遥香と立花だけになってしまったのだった。
「ど、どうすんのよ。遥香!」
「だ、大丈夫よ。気絶してるんだし……」
「それ、前にも聞いた……」
簡易的なベッドに横にされている司には、バスタオルがかけられ、呼吸だけが続いていた……
どうしようか迷っている立花に、きっかけを作るために、大胆な行動をとった。
「えいっ!」
「ちょっ。遥香?!」
ばさっ。
遥香がバスタオルをはだけると、そこには無防備な司の体が横たわっている。男の子ならではの、しっかりとした骨格。そして、うっすらと割れた腹筋は、いやおうなしに立花の興味をそそる。
「うわぁ~こうしてみると、結構。司くんって、いい体してるのね~」
「こ、こら。遥香。そんな近くで見ないの。」
「いいじゃない、気絶してるんだし……ほら、立花も触ってみなよ」
「そ、そんなの……」
触れなければ着替えさせることなど、無理なことで結果的には触れるしかないが、立花にとってはどうしても“触れる”という行為に踏ん切りがつかなかった。
一方の遥香はというと、自分の欲求にいい意味で忠実ということもあり、つんつんと司の腹筋周辺をつついていた。
『さ、触りたい……』
「何してんのよ、もう。触らないと、着替えさせれないでしょ。立花」
「わ、分かった。わかったから……」
意を決して司の体に触れると、しっかりとした骨格に男の子らしい筋肉質の体。何よりも、ずっと触っていたくなるほどの身体だった……
「司くんの体……」
「立花?」
「ん?」
「いやぁ~、触っていたいのはわかるけど……」
「あっ。そうね。着替えさせないと……」
遥香と立花が協力して、何とか上半身は着替えさせることに成功した。問題はこれからだった。女子の服とは多少似ている部分もあるものの、履かせることすら難易度が高かった。
まずは、濡れた水着を脱がせることから始めなくてはならない。司の下半身に密着した水着は、時間の経過とともに多少の水分が蒸発し、脱がせやすくはなっていた。
しかし、依然として肌と密着しているということもあり、脱がすのには一苦労しそうなのが目に見えていた……
「いい? 立花。脱がすよ」
「う、うん。」
遥香と立花が司を挟む形で、司の水着の腰の部分に手を入れる。
『こ、これは、決してやましいことではないのよ……』
そう言い聞かせつつ、少しずつ遥香と息を合わせて下ろしていく……
「ちょっと待って……」
「なによ、遥香。」
「さすがにこのまま下ろすの、まずくない?」
「まずい? ……あっ……」
このまま水着を下ろそうものなら、いろいろと見えてしまうことに気が付いた二人は、バスタオルで覆うことで手探りで脱がすことにした。
「こ、これなら大丈夫ね」
「う、うん」
個室休憩室の中では、気を失った司にバスタオルをかけ、そのバスタオルの中に遥香と立花が両手を突っ込んでいるという、珍妙な光景が広がっていた……
「も、もう少しで……脱げそう……」
「よいしょっ。あっ、脱げた……」
ようやく脱がすことに成功した司の水着。脱がすだけでも苦労した二人だった。そして、水着を持った立花は司を見て、思わず考えてしまった……
『ようやく脱げた……ん? つまり……』
『この下……』
先ほどとは反対に、司が一糸まとわぬ姿になっていることを想像してしまう。その様子を、にやにやと遥香が見ていた……
「いや、なにを想像してるの? 立花って、意外とエッチだよね?」
「えっ! べ、べつに……さ、さぁ。着替えさせ……」
「ん?」
「着替えさせるってことはさ……これ……」
立花が司の着替えから取り出したのは、司のトランクス。つまり、下着だった……
「こ、これは、着替えさせるためよね。決して、やましい意味じゃ……」
「なに、立花。やましい意味で持ってたの?」
「いや、ちがっ!」
「あっ。そういえば、前に自分のも……」
「は、はるかぁ~」
そんなことをやりつつ、向きを確認して、司の両足に通していく。ゆっくりと確実に上に上げていくと、最後にいざ腰にといったところで、何かに引っかかった。
『あれっ? 何かに引っかかって……』
二人同時にそう思ったものの、遥香は何が引っかかっているかすぐわかったらしく……
「立花、ちょっと引っかかてるのをどうにかして……」
「えっ? う、うん……」
立花は何気なく了承したが、たどっていくと明らかに引っかかっているのは、司の足の間だった。
『ここって、その……あれよね?』
そんなことを考えてしまい、戸惑っている立花だったが、遥香に催促されゆっくりと布伝いに手を入れていく……
むにゅ。
「はっ!」
手の甲で触れた瞬間、思わず手を放してしまった立花。
「どうしたの? 立花」
「い、いや。な、なんでもないよ……」
「なら、いいけど……」
心配する遥香は、内心にやにやしてしまい、顔に出ないか心配になるほどだった。
『あれに触ったのね……これでおあいこじゃん。立花。』
そんなことを思っている遥香とは裏腹に、立花はというと意を決して布伝いに手探りでたどり、何とか障害を乗り越えたのだった。
「はぁ。疲れた……」
「お、お疲れ。ふふっ」
「何笑って……あっ! 遥香、さては。知っててやらせたでしょ!」
「う、うん。真っ赤になりながらやってるのが、面白くて……ははは」
「もう! 遥香ったら……」
「さ、あとは、ズボン。仕上げちゃいましょ」
「う、うん。」
それから、二人は悪戦苦闘しつつも、司のズボンを上げてようやく着替えを終えることができた……
「はぁ、はぁ。疲れた……」
「お疲れさま、立花」
「ん。そっちもね~」
「じゃぁ、あたし。帰るわ」
「えっ! どうするのよ、司くんは……」
「そんなの、立花がいるじゃん。何せ、『彼女』なんでしょ? ふふっ」
「そ、それは! あの場の流れで……」
立花が言い訳しようとすると、自分のバックを持った遥香が隣に来て……
『ほんとに、嘘なの? 好きっていう感情は無いの?』
「そ、それは!」
「それじゃぁ、いいじゃない。それに、この場に誰か残ってないといけないだろうし……」
「だったら、遥香が……」
「いや、それは。やっぱり、『彼女』の立花でしょ」
いかにも楽しそうに話す遥香は、とっさに了承した立花の『彼女宣言』がよほど楽しいようだった……
「まったく、遥香ったら……」
「あっ、やばっ、どっと疲れが……」
そうして、疲れた立花は司が目覚めるまで、熟睡するのだった……