里音書房
第24話 追試と立花の戸惑い?
 立花たちが通う学園は、ほかの学園とは少しだけ違っていて、中間試験の結果を休み明けに発表するということになっていた。  そのため、中間試験で補習になった場合、数日後に行われる追試で規定の点数を取れれば、教科を落とすことはない。  そして、その補習の対象者にまさかの人がなってしまっていた…… 「うそでしょ……」  それなりの成績を維持していた遥香が、まさかの補習。  解答用紙を一個ずつずれて記入したというならまだしも、なにを血迷ったのか、数学が致命的な点数になっていた……  がっくりと肩を落とした遥香は、ぶつぶつと独り言を言っていた…… 「いや。た、確かにさ。ここ最近、立花と司の関係がいい感じだから、そっちが気になっていたのはあるよ?」 「でもさ、赤点取る?! あたし……」 「いろいろと、あれやこれやと考えすぎた?」 「だからだと思うよ。遥香……」 「立花! どうしよう。補習、初めてなんだけど……」  遥香は、成績だけは優秀で、入学してからというもの“補習”や“追試”というものをしたことがなかった。 「それにしても、いつも上位なのにどうして今回は、最下位なのよ。」 「それは……」 『二人の進展具合が楽しくて……とは言えない!』 「ま、まぁ。私も、こんな点数を取るときもあるってことね。」 「ほんと、プラス思考ね。遥香って……」  学園での午前の授業の終了後、呼び出された遥香は、どうやら追試のみで補習の授業には出る必要はなさそうだった。 「ちょっと、司くん。いい?」 「何ですか? 遥香さん……」  移動教室の合間、司を呼び止めた遥香は、耳打ちをした。 「週末、いい? あたしのうちに来てほしいんだけど……」 「えっ! 遥香さんの家に?!」 「声が大きい。立花に聞かれたらどうするの。」 「いや、聞かれてもいいんじゃ?」 「そ、それは……何か、負けた気がするからダメ」 「えぇっ……」  その日の夕方、遥香に連れられて自宅へ行った司。そこには、いかにもお嬢様といった感じの豪邸に案内された。 『デカっ!』  西洋風の門扉は、とても重厚でしかも自動。どこぞのお城と見まごうばかりのかなりの豪華さだった…… 「どうしたの? 司くん」 「いや、豪華だなぁ~って」 「そう? 普通じゃない? それに……」 「ん?」  あっけに取られている司の後ろの電柱に、ひょっこりと顔をのぞかせている人が一人いた…… 「立花。何してんの?」 ギクッ!  二人で帰っている姿を目撃したのか、遥香と司の後を付かず離れずであとを尾行していた立花。 「き、奇遇ね。二人とも……」 「何を、わざとらしい。学校からついてきてたじゃないの。もう。」 「つ、司くんに教えてもらうってことは、追試は数学なのね。」 「うぐっ。そ、そうよ。」 「なんでまた、数学なのよ。数学なら、私でもいいじゃない。それなりにできるんだし……」 「それなら……」 ぐいっ! 「ちょっ!」  遥香は、横に並んでいた司の腕を取り、グイっと自分の方に手繰り寄せた。それは、立花もしたことがなかったことだった。胸もある遥香は、強引に胸を押し付けていた。 「いや、当たってるから。」 「当ててるのよ。」 「むぅ~」  遥香は、立花ができないことをわかっていて積極的に行動していたが、この時の立花は一味違った。 「じ、じゃぁ……」 「立花さん?!」 「こっちの腕が空いてるから……」 『どんな状況だ? これ……』  両側を遥香と立花に挟まれた司は、そのまま遥香の家へと連行される形になった。 「今週は両親いないから。のんびりしちゃって。」 「こんな広い家に一人……」 「えっ? そうかなぁ。慣れだよ、慣れ。」  10部屋以上ある豪邸に、一人ぽつんといる遥香。さみしくなったりしないのかと、不安になってしまう司。 「遥香の家はね。あちらこちらを転々としていることが多くて、基本的に遥香は一人でいることが多いのよ。」 「そうなんですね」  遥香の両親は、海外を転々とすることが多く、自宅にいることが少ない。そのため、自宅では自動ロボなどが掃除などをしてくれている。 「なにしてるの? 二人とも、早く来て~」 「わかった。」 「おじゃまします。」  二階にある遥香の部屋へと足を踏み入れると、壁紙から何から淡いピンクで彩られていて、いかにも“女の子の部屋”といったコーディネートになっていた。  司がピンク色の部屋になれていないことや、立花の部屋とは違ったいかにもな部屋にたじろいでしまっていた。 「司くん。なにたじろいで……あぁ。立花の部屋は女の子の部屋って感じじゃないもんね。」 「ちょっ。遥香。私だって、女の子なんだから……」 「女の子っぽいものってあった? 立花の部屋に……」 「それは……ないかもだけど……」  立花は勉強熱心なこともあり、そこまで女の子を象徴するようなぬいぐるみや飾りなどがなく、女の子の部屋というよりもボーイッシュな感じのインテリアになっていた。  それが、だめというわけではなかったが、自分が女の子っぽくないといわれているようで、モヤモヤする立花。 「私だって、女の子なんだから。こういうかわいいのだって、好きだし……」 「ほら、司くん。座って……」 「は、はい。」  遥香にさとされて座ると、遥香はなぜか司に密着する形で横に座る。当然、その姿を見た立花は…… 「ちょっと、なんで真横に座るのよ」 「えぇっ、いいじゃん。どこに座っても……」 「そ、それは……。じゃ、じゃぁ。私も……」 「ちょっ。立花さん?!」  遥香の挑発にいとも簡単に乗せられた立花は、司を挟む形で密着して座る。広い部屋の中、なぜか司を間に遥香と立花が板挟みにする状況になっていた…… 「いや、これじゃぁ、教えようにも動きにくいんだけど……」 「あっ。そ、そうよね……」  そういって、離れる立花をよそに…… 「いいのよ。立花は離れても、教えてもらうのは私だし……」 「むっ。」  立花が司に遠慮して離れると、遥香が挑発してまた近づくという、奇妙な流れになっていた。 『遥香さん。あんまり、立花さんを挑発しないで……』 『いいのよ。立花には、これぐらいしないと気が付けないんだから……』  遥香がどうしてここまで立花を挑発するのか、司にはわからなかった。広い部屋の中で、司の周りの密集度だけが異常に高い状態で、遥香の追試のための勉強会が始まったのだった…… 「ねぇねぇ。司くん。ここなんだけど……」 「あぁ。遥香さん、ここは……」 「司くん、ここ……」 「ここは、立花さん間違ってますよ……」  左右から質問攻めにあっている司は、右に左にと首を動かしていることで、むち打ちに似たような感じになりそうだった。 「司くん。ここ……」 「はい? 遥香さん?!」 むにゅ。  あまりに密着しながら質問していることで、遥香の胸があたり思わず声が上ずってしまった司。  それを見ていた立花も、負けじと…… 「つ、司くん!」 「は、はい? 立花さ、ん?!」  じりじりと司にアピールしてくる二人に、司は女の子らしい香りに包まれて酔ってしまいそうになっていた。  そして、あまりに接近してしまったのか、立花が倒れこんでしまった。 「あっ!」 「立花さん?!」  ちょうど、立花が着地したのは司のひざの上に横になる形で倒れこんでいた。それは、カップルがよくする膝枕の男女逆転版のような状態になっていた。 「ちょっと! 立花だいじょう……ぶそうね。その顔は……」  司の膝枕をしてもらったような状態になっていた立花は、思わずにやけてしまっていた。 「立花さん? 疲れているのなら、このまま……」 「はっ! だ、大丈夫よ。」  慌てて起き上がった立花は、司と少しだけ間をあけて座りなおしたのだった。それからというもの、遥香と立花の挑発しあいっこのような光景は終わりを告げ、淡々と追試の勉強会が進んでいったのだった。 「んん~~~。ひとまず、これで大丈夫かなぁ~」 「ほんと、大丈夫そうでなのより。」 「終わったのね。遥香。ちょっといい?」 「ん? どうしたの立花。」 「あ、司くんはここにいていいから……」 「う、うん。」  遥香を呼び出した立花は、司に対する思いを打ち明け始めた。 「なんで、こんなにモヤモヤするの? 遥香がそばにいるだけなのに……」  これまでの立花は、司の母から好きだからおなかがおかしくなるといわれてはいた。確かに、司を思うとおなかが反応したりもしていた。  しかし、今回の遥香とのやり取りの時は、全くと言っていいほどに反応がなかった。司と密着したからなのか、それとも、ほかの要因があるのか立花自身もわからなくなっていた…… 「どうしたのかな? あたし……」 「遥香が司くんにくっつくのはいいんだけど、なんか……モヤモヤする……」 「立花。それはね。というか、それが“恋”なんだよ。」 「恋? こんなにモヤモヤするのに? 苦しいだけ……」 「そう。恋って苦しいもの。」 「遥香は経験したことがあるの?」 「えぇ。まぁね。」  遥香は、学園に上がる前に初恋を経験していて、片思いだった。しかし、それを幼馴染でもある立花に悟られまいと、表に全く出していなかった。  しかし、表に出さないことで、かえって自分を苦しめる形になってしまっていた。締め付けられるような恋心に、自分がどうにかなってしまいそうな感覚に陥ることが多かった遥香は、違うことを考えることで気持ちをごまかしていた。  そのことで、立花の気持ちが痛いほどにわかっていた。しかし、気づかせるためにあえて荒療治をしたのだった……  そして…… 「あの、これ。どういうこと?」 「えっ? どういうことって?」 「いや、どうして……」 「三人で寝てるんですかぁぁぁ?!」  司を間に挟み、遥香と立花が両脇を固めるという状況で、なぜか3人で寝るという状況になっていた。  果たして、司は理性を抑えれるのか?
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