立花と司は、遥香のあの一言が引っかかっていた……
『あんたたち、いつになったら付き合うの?』
よく考えると、至極当然の疑問のこの問いに、二人は答えが出せずにいた……
確かに、おなかの痛みが理性を刺激し、エッチな気分になってしまった立花は、司の上に覆いかぶさったりもしていた。
そして、立花のパジャマ姿に対して、司は興味がないと言えばうそになる。
『立花さんのこと……好き?』
そんなことを考えながら、立花を見ていた司。それと同じように、目で追いかけ始める立花。そんなやり取りを見た周囲からは、いよいよかという雰囲気が上がっていた……
「ねぇねぇ。立花?」
「ん? なに? 遥香……」
「司くんから見つめられてるらしいけど……いよいよ?」
「はっ?! い、いや……ま、まぁ……」
「えっ? なに、その反応……」
司からの視線には気が付いていた立花だったが、どんな顔をしていいのかわからなかった……
「でも……」
「その顔を司くんに見せたいわ。ふふっ。」
「えっ?!」
この時に遥香が見ていたのは、司のことを考え口角が上がり瞳孔が開き、うっとりと頬を染める立花の姿だった。
『立花。それが“恋”だって……』
『まったく、世話が焼けるわ……』
そんな遥香は、司のことも少しだけ気になっていた……
というのも、司本人も悩んでいる様子だった。
『あんたが、ハッキリしないから!!』
とは思っていたものの、ここで遥香が直接やってしまっては、かえって立花が意識してしまう……
「あっ。そうだ……」
その頃の司はというと、学校に来ていた母親の弥生にいじられていた……
「ちょっと、いつ立花ちゃんを連れてくるのよ……」
「つ、連れてくる?」
「えっ? 付き合ってるんでしょ?」
「ぶっ!! ど、どうして……」
司の母、弥生は学園の保育のヘルプ要員として呼ばれていたこともあり、息子の司に準備を手伝わせていた。
「い、いや。立花さんは、立花さんだし……」
「はぁ? あんた、まだそんなこと言ってんの? はぁ~」
「なんだよ、そのため息は……」
弥生は司からの話を聞き、親として息子の背中をチョンと押し、サポートするつもりだった。だったのだが……
『うちの子が、こんなに優柔不断だったとは……はぁ……』
『まったく……誰に。あっ、そういえば。もう一人いたなぁ~。優柔不断な奴……』
弥生はあきれつつも、旦那。まことのことを思い出していた。まことは、いざ告白となっても、ちっとも告白してこようとはしなかった。それに……
『あいつも……ハッキリ言わなかったなぁ……』
『あぁっ! 思い出したら、イラついてきた……』
本来なら、司にけじめをつけさせるためだったが、まことのことを思い出してしまったことで、我を忘れかけていた……
『おっと、今は……』
弥生が司の様子を見ていると、いまだもじもじとした表情をしていた。こういう場合の方法としては、ある程度放置して助け舟を出すか、思い切った荒療治をするかの二通りになる。
弥生が選んだのは、前者の方だった……
「はぁ。司、ちょっといい?」
「な、なんだよ。母さん……」
「立花さんのこと、どう思ってるの?」
「ど、どうって……かわいいと思ってるけど……」
「それだけ?」
「それだけって、それ以外なにが……」
自分の息子でありながらこの鈍さというのは、家系というかさすが親子という形に、弥生はあきれていた……
『あぁ、もうなんだろうなぁ。この感じは……。血は争えないかぁ……』
『仕方ない!』
弥生は、今までに思っていたことをすべて司に伝えることにした。それは、“賭け”に近かったが、返答を聞いている分には成功する確率の方が高いように感じた。そして……
「今度、家に連れてきな!」
「連れてくるって、誰を……まさか!」
「そのまさかよ! 立花ちゃんを連れてきな。そして、気持ちを打ち明けるのよ!」
「えぇぇぇぇっ!!!!」
結果的に、荒療治になってしまった弥生の想いは、無事に司に踏ん切りをつけさせるのには良い方に働いた。
その効果は、早くも現れたようで、教室でのこと……
「立花さん……これ……」
「えっ?」
口頭で言うのが恥ずかしかった司は、女の子同士がよくやる手紙のやり取りで、想いを伝えていた……
『な、なんだろう……司くんは、こういうのやらないと思って……』
「なぁっ?!」
授業中にもかかわらず、司から渡された手紙に、驚いて声をあげてしまった立花。当然、周囲の生徒が驚き、一斉に立花の方を注目する。
それは、遥香とて同じでいくら驚いたとしても、そこまで突飛な声を出さない立花が出したものだから、必然的に“司”のことだと悟ったのだった……
『い、家に来て。ってどういうことよ!!』
思いのたけをなぶり書きした立花は、司に返す。すると、すぐにその返事が返ってきた。ただ、誤算だったのが、渡し方だった……
ただ渡せば良いものの、司は何を思ったのか気づかせるために、立花の背筋をなでたのだった。
ただでさえ、敏感な体質の立花の背筋をなでようものなら、当然の反応をする……
「んんぁっ!!!!」
「はっ!!」
慌てて口を押えた立花だったが、時すでに遅し。艶っぽい立花の声は、授業中のシーンとした教室内に響き渡ったのだった。そして、先生が一言……
「そこの二人。いちゃつくのは勝手ですが、できれば休み時間にね」
「ははは!!!!」
先生のその一言で、場が一気に和んだのだった……
そして、授業の終了後……
スパーン!!
「つ、司くん!!」
「い、いや、ごめんって。そういうつもりじゃなくて……」
どこからか取り出したスリッパで、司の頭をフルスイングしていた立花だった。必死に謝る姿は、見方を変えれば、夫婦にしか見えなかった……
「なに、痴話げんか?」
「ち、ちわ……」
「いや、実は……」
興味津々の表情を隠しながらも、寄ってきた遥香に事情を説明した司。説明を受けた遥香は、少し考えた後……
「行けばいいじゃん。立花。」
「はぁ? な、なんで……」
「なんでって、勉強会?」
「なんでそこ、疑問符なのよ……もう。」
立花に説明した後、遥香は立花の横に移動すると、口添えをしていた。
『立花だって、司くんとこのままでいいの?』
『そ、それは……』
『でしょ? それに、あたしも一緒に行ってあげるから……』
『遥香……』
『(ウソだけど……)』
『ん? 何か言った?』
『いや、何でもないよ。』
ごにょごにょと、二人が話している姿を不安そうに眺めている司に、遥香はうれしい報告をする。
「司くん。その答え。おっけーだから。」
「そ、そう。よかった……」
半ば荒療治な形になった立花が司の家に来る状況。これで、二人の間柄が進展するのか……