アリスの頬には、心地よい草原の風が流れてきていた。
クラリティアでも同じような風は流れてはいるが、海風ということもあり、肌ざわりがピりビリとする。
しかし、ここの風は全くなかった。
「クラリティアにこんなところがあったのね……」
アリスのその言葉に、アリナは『?』という表情をしていた……
「はぁ? 何言ってるの? ここ。ラビティアよ?」
「へっ? ラビティア? ラビティアってあの?」
「そうよ『あの』ラビティアよ」
「いや、だって。ラビティアって、もう行けないんじゃ?」
「それは、まぁ。いろいろとあるのよ」
アリナの話を聞く間、アリスは全く別の事を考えていた。それは……
『あぁ。なんてモフモフなの。ふさふさの垂れたケモミミにロングヘア。それに、銀髪ロリ』
『なんて、最強コラボなの?!』
アリスの考えていたことは、自然と仕草に出ていたようで……
「な、なによ。その手は……」
「あ、アリナよね?」
「そ、そうよ……」
「だっこ、抱っこしていい?」
「はぁ? どうしてよ……」
「えぇっ……」
しゅんとするアリスを見たアリナは……
「そ、そんな顔することないじゃない! もう! いいわよ!」
「えっ! やった~」
がしっ!
「きゃっ!」
「んんんん~。もっふもふ~」
「はぁ~」
それまで歴史上の世界と思っていたラビティアに、アリスは来てしまっていたこともあり、少し不安だった。
でも、アリナをモフモフしたことで、不安が和らいだアリスだった。
「んん~アリナ~」
「はぁ。あっちだったら、頭の上で落ち着いてたんだけどなぁ~」
「やっぱり、あそこがすきだったの?」
「そうよ。あそこなら、眺めが良いからね。それに……」
「それに?」
「見下ろしてる感じでよかったわ。ふふふ」
「アリナ……」
意外に黒い一面を持っていたことを始めて知ったアリスだった……
アリナを膝の上に座らせてモフモフしてたアリス達の前に、もうひとりのうさ耳獣人が現れた。
「到着されたのですね。アリス様……」
「!!!!」
そこには、立派な衣服を着ているものの、長いポニーテールにふさふさの白い垂れた耳という、アリナとは全く違う魅力があった。
おもむろに立ち上がったアリスは、ひとまず挨拶をする。
「あ、アリスです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。アリス様。えっと。その手は……」
「挨拶ですが……」
アリスは、両手を大きく広げ抱擁の構えを取った。
確かに、クラリティアのある地方では抱き合っての挨拶も確かにある。
しかし、この時のアリスの挨拶は、別の意味があった……
『あの、もっふもふを撫でてみたい……』
などと思っていたが、それとは全く別の意味で相手は考えを巡らせていた……
『あ、挨拶。あちらにはそういう挨拶があるとはいきいていたが……』
『これは、女性に対してしてもいいのだろうか……』
出迎えたそのラビティア人は、アリナより多少大きかった。かといって、アリスよりは頭一つ小さかった。
つまり、アリスの挨拶に応じれば、必然的にアリスの胸に顔をうずめる形になる。
アリスも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるモデルスタイル。出迎えたうさ耳獣人は、いや応なしに考えてしまう……
「ん?」
『い、いいんだろうか……』
下心が全くないといえばウソになるが、自然と顔が緩むそのうさ耳獣人は、一歩ずつ近づく。
かといって、アリスはこの手の下心には全く疎い。まさかの相手が下心を抱いているとは全く思っていなかった。
一歩、また一歩と近づくうちにどんどん顔が緩む獣人を、後ろから来たもうひとりのうさ耳獣人が、手を鳴らしてこちらに来た。
「あなた! 何してるのかな?!」
「うっ! アリティナ。こ、これはな。そういう挨拶だと……」
「そんな、下心満載の顔で、挨拶も何もないでしょうがっ!」
ガンッ!
後から来たアリティナという人は、先に来た人にゲンコツを落とすと、改めて挨拶を始めた。
「すみません。主人のアリティスが阻喪をしたようで……」
「い、いえ」
つつしみのあるその人は、大人の女性といった形で、モテるのが見てわかるほどだった。ただ、アリスは美人だなぁ。と思うと同時に、やっぱり……
『もっふもふだぁ。美人な上にモフモフとか、反則でしょ!』
そして、さっきは抱きしめることができなかったということもあり、今度はアリスの方から抱き着いた。
きゃっ!
「んん~。もふもふ~。かわいい~」
「ちょっ。あ、アリスさん?!」
美人でスタイルがいいアリティナ。それでも、アリスよりは全然小さい。それに、襟元で束ねたポニーテールということもあり、アップでのポニーテールよりは大人しめにみえる。
それでも、アリスにとっては、かわいいのには変わりなかった……
「アリスさま。娘のいるおばさんを捕まえて、かわいいとか。お上手ですわ」
「いえ、全然。かわいいですよ。」
「あら、そうですか?」
「でも、このスタイルで、娘さんって、その人も美人さんでしょうね。」
「それなら、あそこに……」
「えっ? まさか……」
アリティナが指した方向にはアリナ。つまり……
「あんたは、あたしの親に何してんのよ。もう……」
「アリナの親だったの?」
「そうよ。あんたは、かわいいのとモフモフに目がないから……」
「てへっ。」
その後、しっかりとアリナの父。アリティスもしっかり抱擁した後、アリスは一つの疑問に気が付く……
「あの。ひとつ聞きたいのですが……」
「なんでしょう?」
店の事もあったアリスは一度、クラリティアに戻りたかったアリスだったが、アリティナからは反対の答えが返ってきていた。
「一度、クラリティアのカフェに帰って……」
「えっ? 無理ですよ?」
「えっ?」
「えっと、こちらに来るだけの一方通行なので、一度だけなのです……」
「それに、正式な国交復活という訳ではないので、新たにゲートをつなげるには、国王の指示がないと……」
「じ、じゃぁ……」
「はい。帰れませんよ。」
ガクッ!
どっと肩を落とすと、その場に座り込んでしまった。アリス。
『うそでしょ。帰れると思ってた……』
「まぁ。戸締りはしてきた……けど……」
あまりに落胆しているアリスの姿を見て心配したアリティナがフォローをしてくれた。
「あ、あの。まったく帰る手段がないという訳ではないので、そんなに肩を落とされなくても……」
「あ、ありがとう……」
見知らぬラビティアの土地に、来てしまったアリス。モフモフのうさ耳獣人に囲まれたラビティアの日常が始まります……