「それで、このラビティアですが……」
草原を下った谷間の位置にあるレンガ造りのアリナの家に来たアリスは、ラビティアの案内をアリナの父。アリティスから受けていた。
ただ、アリスのひざの上にはアリナが座っていた。そのことを、さすがのアリティスも気にしていた……
「アリナ。いい加減に、アリス様から下りて自分の席に着きなさい」
「えぇっ。ここがいい……」
「そんな、アリス様が困ってしまうだろ?」
「いえ。大丈夫ですよ。それに、『様』はつけなくてもいいので……
「ですが……」
アリティスの心配をよそに、アリスはまったく気にしていなかった。それどころか、全く違うことが気になっていた。
『この、耳は本物かしら……』
アリスのひざの上に座ったアリナは、アリスに背中を預けアリスの顔の下にちょうど頭が来ていた。
アリスの目の前でひょこひょこと動く、ふさふさの耳。そのふさふさに顔をうずめてみたくなるが、さすがに両親の前でそんなことをするわけにはいかないため、確かめようがなかった。
顔をうずめることはだめそうでも、撫でるくらいはいいだろうとアリスは、そっとアリナの頭に手をのせる。
そして、その気になるふさふさの耳を探ってみる……
『本物?』
さわっ。
「あひゃん!」
ふさふさの両耳を触られたアリナは、突拍子もない声を張り上げた。当然。その声は部屋中に響いた……
「あっ。ごめん……」
いろいろと準備をしていたアリナの親たちは、アリナの突拍子もない声に驚き、作業の手を止めてしまっていた……
一斉に手を止めさせてしまった形になったアリスは、微妙な空気に申し訳なさそうな気分になった。
「あ、あの。すみません……」
「い、いえ。別にいいのですが。我々、ラビティア人にとって、耳や尻尾などは何と言いますか、性感帯に近い位置づけなので……」
「えっ1 そ、そうだったんですか?! す、すみません……」
アリスの純粋な興味で触ってしまった耳。その耳がまさかの性感帯扱いだったとは思ってみなかった……
しかし、触られて変な声を出してしまったアリナだったが、アリスのひざの上から動くということではなく、むしろそのままアリスの上から移動しようとしなかった……
「アリナ。アリス様のひざの上から、どいたら? アリスに失礼じゃないの?」
「えっ? いいのよ。これで……」
「そんな。いいんですか? アリス?」
「えぇ。いいですよ。そんなに重いっていうわけじゃないですからね……」
「そうですか……。それでは、ここラビティアについて説明します。アリスさんは、ラビティアについて、どこまで知っていますか?」
アリスにとってのラビティアとは、歴史上の土地でかつてクラリティアと国交があり異世界同士で交流があったというくらいしか知識がなかった。
「まぁ、確かにその知識で会っているのですが……」
「ほかに何かあったんですか?」
「はい、クラリティアでは、環境破壊という関係でのゲート封鎖ということでしたが、実際は違うのです……」
「ほかにもあるんですか?」
「実は……」
アリティスがラビティアの歴史を説明しようとしたとき、入り口の扉を開けてズカズカと開けて入って来た人がいた……
そこには、手入れの行き届いたきれいな耳と髪。そして、きれいにしつらえられた甲冑を着たラビティア人が訪れた……
その女の子は、入ってくるなりズバズバと説明を始める
「王女様?!」
「あぁ。もう。アリティス。もう話ししてもいいわよ……」
「はっ。」
後から入ってきた少女の前に膝を追って敬礼をする。その様子に、アリスは当然……
「えっ?! どういうこと?」
「実は、さっきも言ったように、この方は王女ラティア様で……」
「えっ? 王女?」
「そうよ、第二だけどね……」
アリスのイメージする王女というのは、ヒラヒラのドレスとティアラ。そして、護衛の兵士をいっぱい連れているものだと思っていた……
しかし、目の前の第二王女と名乗るラティアは、その護衛を連れているどころか、王女としての象徴でもあるティアラ。ドレスすら着ていなかった。
それどころか、フリルのふんだんに使われたドレスとは正反対の、銀色で、ところどころにアクセントとしてリボンが付けられた甲冑をつけていた。要するに、騎士の格好だった……
『この子が騎士?』
クラリティアであれば、アリスは身長の低い方だったが、ラビティアでは頭一つ出るある意味、高身長の部類に入っている。
そのため、騎士の格好をしていても、身長が一回り小さいということもあり、アリスからしたら『かっこいい』というよりも『かわいい』という部類に入った。
「あなたが、アリス様ね。お待ちしてました。」
「えっ? 待って?」
「はい、我々。ラビティアにはどうしてもアリス様が必要なのです……」
「えっ? どうして、私なの?」
「それは、私の。王女の私の格好に関係しているのです……」
「えっ?」
アリスがここに連れてこられた理由が、第二王女のラティアから語られるのは次の話……
「ねぇねぇ。王女さま……」
「な、なに? アリス様……」
「も、もふっていい?」
「も、もふ?!」
「い、いいでしょ? ちょ、ちょっとだけだから……」
「いや、やめっ。そ、その手はなんだ!」
「ちょっ。アリティス! 助け……」
あぁぁぁぁぁ~
ああっ……んっ!。
アリスが連れてこられた理由は、実に簡単なことだった? アリスのモフモフ好きにとって、最高な環境はしばらく続きそうだった……