里音書房
第9話 アリナとアルコールは混ぜるな危険?
 男装したアリスの姿にだいぶ慣れたのか、アリナのよそよそしい仕草は次第になくなっていた……  アリスも交えた掃除は、佳境を迎え。厨房にあたる場所の棚の整理に入っていた。  前の住人の持ち物や、調理用具などがそのまま残され、少し手入れすれば十分使えそうな代物がいっぱいあった。 「うわぁ。これ、本当に使っていいんですかね? ラフィア……」 「いいらしいわよ。前の住人が置いていったらしいから……」 「へ、へぇ。」  食器棚のあちらこちらには、アリスの知らないものがいろいろと入っていたが、ドクロマークのようないかにもキケンな代物は入ってなさそうだった……  とりあえず、棚のものを確認するのと棚そのものを掃除するために、すべてをカウンターに並べていく…… 「アリナ。これ持って行って。」 「ん~。わかった~」  キッチンスペースの棚にあった小瓶を出し、近くのカウンターにならべ、それをアリナが店側のカウンターへと持っていき整理する。  整理といっても、種類に分けるだけなので、アリナでも簡単だった。  元バーということもあり、当然。そういうものはある。ただ、ラビティア人向けのモノが多く、クラリティア人のアリスには、ピンとこないものが多かった。 「アルコールみたいな瓶が多いけど……バーか何かだったの?」 「アリス様は、気が付かれませんでした? ここ、元バーらしいですよ?」 「へぇ~そうなんだ……じゃぁ。こういうのも……」 クンクン。 「んんん????」  アリスは試しに近くにあった瓶のふたを開け、クンクンしてみた。しかし、アルコールのような独特のツーンとした匂いはしなかった。 「あれ? 本当にアルコールなの?」 「アリナ?」  たまたまそばにいたアリナは、どうしたんだろうとアリスの方へと寄ってきた。  そこで、アリスはアリナに嗅いでもらうことにした。 「どう? アリナ。アルコール?」 「ん? クンクン……」 「どうかしたんですか……あっ! それ……」  店側に来なかったアリナを不思議に思ったラフィアが、キッチン側に顔を出しアリナが嗅いでいる瓶を見た瞬間。驚いた様子だった…… 「あ、ラフィア……どうしたの?」 「アリス様……それ……アルコールですよ。」 「えっ? そうなの?」 「それも……かな~り、きついやつ……」 「そんなに?!」  そんなことも知らなかったアリスは、よりにもよってアルコールに耐性のないアリナに嗅がせてしまっていた……  当然……アリナはクラクラした表情をしてして倒れてしまう。うまく、ラフィアが受け止めるが、焦点のあっていないアリナだった…… 「……様……様……」  ふわふわとした温かさに包まれたアリナは、焦点が合っていない状態で誰に抱き留められているようには見えていた。  しかし、それが誰なのかが理解できていなかった…… 「あ、アリス????」  騎士の甲冑は脱いでいたものの、体のラインが女性らしいふくらみが多いというわけではなかったラフィア。  そして、直前に男装したアリスを目撃していたアリナは、自分を抱きとめている人がアリスだと勘違いしてしまった…… 「あ、アリナ?! んっ!?」 「んちゅ~~~」 「あらら……」  ふわふわとした意識の中、アリナは受け止めていたラフィアのことをアリスと勘違いしたまま、濃厚なキスをしてしまった…… 『んんっ!!!!』 「んあっ!」  ぽん!という音が聞こえそうなほどの口づけに、ラフィアまでふらふらになってしまっていた…… ドサッ!!  ドサッと倒れこむ音とともに、ラビティナとラティアがキッチン側にやってきた。その様子を見たラティアはラビティナを護衛する体制に入る。 「アリナ様? ど、どうしたんですか? ダメだわ。正気を失ってる……」  ふらふらしながら、ラビティナの方へと歩いていくアリナの姿は、完全に暴走状態だった……  ラティアは、姫のラビティナを守るために、止む追えずアリナに対峙する。しかし…… 「アリナ様。お許しを……えいっ!!」 シュッ!!  手刀で昏倒させるつもりだったラティアの攻撃は、空を切ってしまった。そして次の瞬間…… 「あれ? しまっ……」 「んちゅ~~~~」 「んんっ!!!!」 『んんんんっ?!』  ラティアの唇を覆うような濃厚なキスをしていたアリナだった……  体を絡ませながらキスをするアリナの姿は、まさに手練れの様相を呈していた。そして…… 「んあっ!!」  アリナが口を離すと、あれほど威勢がよかったラティアは卒倒してしまっていた……  そしてアリナが次のターゲットに選んだのがラビティナだった…… 「あ、アリナ様? お、落ち着いて……」  じりじりと距離を詰めていくアリナ。周りにはプルプルと体を震わせたラフィアとラティアの姿がその壮絶さを物語っていた…… 「はぁ、はぁ。」 「あ、アリナ様? アリナさ……」  じりじりと距離が縮まり、もう少しでやられると思ったその瞬間! 「こら、アリナ。」  唇が触れる寸前。襟元を持たれたアリナは、ぷらーんとしてようやく落ち着いた様子だった…… 「まったく、アリナったら……酔ったとはいえ、この現状。どうするの……」 「あ、アリス様……」 「アリナのキス魔は、クラリティアでもあったからね……」  クラリティアで、アリナはウサギの姿だったこともあり、肩に乗ったアリナはアリスに対してキスのあらしだった。  そういう時は、首の根本をつかみぷらーんとすると、落ち着くことを思い出したのだった…… 「ラビティナ様。大丈夫ですか?」 「は、はい。何とか……でも……」  アリナの通った後では、ラフィアとラビティナが気絶してしまっうという惨状になってしまっていた……  それ以降…… 「これは、ダメだな。アリナの触れないところにしまっておかないと……」  酔いが冷めたアリナは、アリスから事の次第を聞き、ラフィア・ラビティナに謝って回ったのだった……
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