リノン書房
第11話 やきもちと仲裁
 アリナとラヴィリオの決闘は、今も続いていた……  裏庭を耕すんじゃないかというほどの激しい決闘に、周囲の住人すら集まってくる。 「何だなんだ?」 「あれ? あの戦ってるのって、ラヴィリオ様じゃ?」 「ほんとだ、ラヴィリオ様……相手は……えっ?!」 「だれ?! あの子。ちっちゃい……」 「でも、ラヴィリオ様と互角? いや、それ以上?!」  なんだなんだと、集まってきた住人は、祭りかのように賑やかになっていた。アリスは、慌ててその住人たちの相手を始める…… 「すみません。騒がしてしまって……」 「いいのよ。あら、あなた。美人さんね。どちらの方?」 「えっと……」  返答に困っているアリスを不思議に思った住人だったが、あとから来たラフィアに驚く。 「あぁ、この方は……東方の国におられた方で……」 「えっ! ラフィア様?!」 「ど、どうも。皆様……」  ラフィアの登場に驚いた住人は、各々、隣同士に居合わせた住人に人伝いに伝わっていった。そして、ラフィアの登場で沈静化するどころか、ラフィア見たさに、かえって住人が集まるという状況が出来上がってしまったのだった。 『ねぇねぇ。ラフィア。本当に、姫だったのね……』 『アリス様まで……もう……』  店の開店準備をかいがいしく手伝ってくれていたラフィアは、あまりに親しみやすい性格で、アリスもラフィアが王女だということを忘れがちになっていた。 「ねぇねぇ。あの方。ラフィア様とあんなに親しそうに……」 「きっと、王家の一族なのでしょう……」 「よく見ると、容姿も美しいですし……」  ラフィアと親し気に放していたアリスの姿に、自然とアリスが王家に近い人物のような位置づけになっていた…… 「ちょっと、あんたたち!! 何してんのよ!!」 「えっ?」 「あぁ、ラヴィリナじゃない。今来たの?」 「ラヴィリナ?」  アリスが集まっていた近所の住人の相手をしていると、裏庭で乱闘騒ぎになっていることに驚いたラヴィリナが、慌ててやってきた。 「あなたね。アリスって子は……」 「はい。えっと……」 「あたしは、ラヴィリナ。あいつの姉よ……」  ラヴィリナは裏庭でにらみ合っていたラヴィリオとアリナを指さしながら名乗った。 「あの人の?」 「そう、不躾な弟がごめんなさいね。」  ラヴィリナがアリスと会話をしている間も、にらみ合ったラヴィリオとアリナは、喧嘩を続けていた…… 「あんた、あやまんなさいよ!」 「なにがだよ。ちっとも分んないなぁ。それに、先に襲ってきたのはそっちだろ……」 「はぁ!? なにいってんだ! お前がアリスの胸触ったんだろうが!!」  完全に売り言葉に買い言葉の状態になっていたラヴィリオとアリナは、アリスの性別にまで及んでいた……  そこまで公にしているわけではないアリスの性別に、集まってきた住人はいろいろと噂を始める。 「えっ? この方、女性なの?」 「そんな、こんな美形なのに?」 「きっと、お家の事情か何かがきっとあるのよ」  そんな住人の会話が、聞き耳を立てていたわけではなかったアリスの耳にも聞こえてきた。 「あははは、なにか、ややこしい状況になってきてないですか?」 「まずいわね……」  さすがにのラフィアも、この段階でのアリスが女性であることがバレては確かにまずい。ただ、このままラフィアが否定しても、収集が付きそうにもなかった。 「あんたたち、いい加減に!!」  ラヴィリナがこの事態を収拾しようと、二人の間に入ろうとする。ラヴィリナからすれば、不肖の弟が喧嘩をしているのだから止めに入らないわけにはいかない。 「ラヴィリオ。あんたも止めな、あなたも……」 「はぁ? だれ? あんた。邪魔……」 「アリナも、抑えて……」 「アリスまで……、ちょっとあんた、じゃま!!」 「きゃっ!!」 ドン!!  アリナはさほど強く払ったつもりはなかったが、怒っていたこともあり、力加減をミスしてしまった……  アリナの小さい体の倍はあるラヴィリナの体が、いとも簡単に飛ばされた。 「あぶなっ!!」  飛ばされる形になったラヴィリナを、とっさに受け止めたのはアリスだった。 「アリナ!!」 「ご、ごめん……加減できなかった……」 「まったく……アリナは、怒ると見境なくなるから。ダメよ。それ。」 「うぅ。わ、分かった……」  ラヴィリナを飛ばしてしまったことで、理性を取り戻したのかアリナはようやく冷静になった。 「まったく、アリス様の言う通りですよ……」 「ああん?!」 「ひっ!!」 「それと、ラヴィリオさん? だったっけ?」  名前を呼んでもらったのがよほどうれしかったのか、ラヴィリオは満面の笑みでアリナの方向をむく。 「何でしょう、アリス様。」 「あなたもねぇ。非を認めた方が良いわ。せめて、謝ってほしかった……」 「はぁっ!!!!」  ラヴィリオの中で悲しそうに横を向くアリスの姿を見て、自分がいいところを見せようとしていたのが、すべて空回りしていたのがこの時ようやくわかったのだった…… 「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「うん。」  アリスにとっては、当たり前の教える行為だった。しかし、近所の住人からすれば、騎士団長に口だけで頭を下げさせているその光景は、よほどの器量を証明していた…… 『あの方……騎士団長様に頭を下げさせてますよ……』 『よほど、すごい方なのね……』  そんな噂が、近所の住人たちの噂になり始めていることとはつゆとも知らないアリスは、アリナに飛ばされたラヴィリナを腕で受け止めていた。 『んん~~。何だったの? あの子……』 『えぇっ!!!! どういう状況?! これ……』  ラヴィリナが意識を取り戻すと、アリスの腕の中だった。その状態に戸惑いつつも、必死に状況を理解しようとしていた…… 『えっと、確か……ラヴィリオがあの子と喧嘩してて、それを止めに入ったのよね……』  ラヴィリオとペアで行動することの多いラヴィリナは、突っ込むラヴィリオと、頭を使って策略を練るラヴィリナの二人でちょうどいい状態になっていた。  そのため、けんかっ早いラヴィリオを先に行かせたことで、こんなことになってしまったのだと、勝手に解釈を始めていた…… 『あぁ。アリスといったからしら……本当にきれいな肌……』  ふらふらとまだ意識がはっきりしていないラヴィリナは、うっすらとアリスの横顔を見ながら、昔のことを思い出していた……  ラヴィリナたち姉弟は、生まれながらにして騎士の家系。そんなこともあり、幼いころから剣術に明け暮れていた。幸いか、体の柔らかさと、身軽さが剣士として向いていた。  姉弟同士で鍛えあうこともあった。特にラヴィリナは、剣士一筋だった。恋愛のれの字すら、夢のまた夢だった……  そんなこともあり、アリスに抱かれたラヴィリナは夢見心地になっていた。 「あっ、気が付いたんですね。ラヴィリナさん……」 「あっ、は、はい。」  アリスは、ゆっくりとラヴィリナを立たせると、まだ体が安定しないのか、ふらふらとしてしまうラヴィリナ。 「おっと、大丈夫?」 「あっ、う、うん。」  ラヴィリナの手を取り、体を支えると自然とラヴィリナと顔が近づく……  アリスの方が少し身長が大きいことも幸いしてか、騎士として恋愛を二の次にしていたラヴィリナの乙女の部分が、少しずつ目覚め始めていた…… 「ん?」  首をかしげるアリスをうっとりとした表情で見つめるラヴィリナ。その様子を、歓声を上げる野次馬たちの中からにやにやしながら眺めているフードを被った住人が、しげしげと眺めていた…… 『ラヴィリナ様にも、ようやく春が……』 『これは、記事にしないと……』  そんな話が、陰で動いているとは、この時のラヴィリナは全く知らなかった……
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