「ごめんなさい!!」
歌劇団の楽屋で他の演者が注目する中、ルナティアはいなくなったことを精いっぱい謝った。それは、もう。見事に腰が直角になるほどの謝り方だった……
「それにしても……ねぇ。」
「えぇ。」
「ねぇ! わかるでしょ? あたしが間違った理由……」
頭を上げたルナティアと、ばっちりメイクをしたアリス。若干の化粧の違いはあるが、瓜二つだった。
ルナティアがアリスの隣に移動すると、身長から目の形。鼻の高さから手足の長さまで、リリアがアリスをルナティアと見間違う理由が他のスタッフにもわかるほどだった……
一方、アリナは複雑な思いになっていた。何しろ、アリナの目には、アリスが二人いるのだから、いろいろと困惑していた。
『アリスが二人……いる。』
アリスを真っすぐ見ようとして、見れずにいるアリナを、ラフィアはニヤニヤしながら見ていた。頬を染め、どうしていいのかわからないアリナの姿は、まさに恋をするメスのような表情になっていた。
そんな様子を目撃したラフィアは、二人の元に行くと話し始めた。ラフィアの個人的な興味だったが……
『本当にやるんですか?』
『いや、わかるでしょ?』
『わからないわよ……それに……』
「楽しそう……」
ニヤッとしたラフィアの表情は、悪い想像をしているのがわかるほどだった。
二人は、仕方なく協力することにするが、少しシャッフルしてみることにした。普段着に着替えたアリスと、ルナティア。
さすがに好みまでは違っていた二人だったが、それでも鑑写しのような自分たちに困惑しつつも、アリナの前に並んで見せた……
「さぁ、アリナ。」
「何よ……なっ。」
「どっちがアリス? でしょうか?」
「ええっ?!」
ニヤニヤしながらラフィアは、二人のアリスを並べ、どっちがほんとのアリスなのかをアリナに当てさせようという根端だった。実際、初対面に近いリリアに試したところ……
「こっちがルナ?」
「私、アリス……」
「えっ?!」
「なんでよ!! リリア! こっちだから。わざとやってる?」
「ええっ?! こっちなの?」
「はぁ。あなた、それで、良くマネージャーしてるわね。」
「いや、これは間違えるって……」
控室は、リリアの間違いに花が咲いていた。そして、一応の左右を入れ替えた後、アリナの前に立ちなおした。
「アリナ。」
と二人がアリナを呼ぶと、いつにもまして赤面したアリナだったが、考えは決まっていたようだった……
「こっち……」
「あ、あたり……」
ゆっくりと進んだアリナはしっかりと、アリスを言い当てていた。その姿に、スタッフが集まっていた。
「おお~~」
「すごいなぁ!!」
「い、いや。それほどでも……ない。アリスとはずっと一緒だったから……」
アリスは自分がしっかりと見分けられたことで、胸をなでおろしたものの、アリナの顔はいつも以上に真っ赤になっていた。
「アリナ? 大丈夫? 真っ赤だけど……」
「ん。大丈夫だから……」
「えぇっ? なんで離れるの? アリナ……」
アリスがアリナに一歩近づくと一歩離れるという、なんとも言えない状況に、複雑な感情になったアリスに、ルナティアが声をかけた。
「ねぇ。アリス。」
「えっ? 何ですか? ルナティアさん……」
「あのさ、たまに交代しない?」
「ええっ?!」
ルナティアの代わりとはいえ、貴重な経験をしたアリスだったが……
「ルナティアさん……」
「えっ。じゃ、じゃぁ……」
「無理です。」
「ええっ。そんなぁ~」
ルナティアがさぼろうとしているのがバレたのか、ルナティアの後ろでリリアが顔を真っ赤にして。
「こら! ルナ!!」
「ひえっ、リリア。こ、これは、ね。ノリでね」
「ノリでさぼられても困るわ!」
なんだかんだで、仲良くなったルナティアとアリスだった。
「あ、そうそう……これ、知ってる?」
「えっ? あっ、これはね……」
「あぁ、そういうことだったのね……」
アリスに見せた薄い本のことを、ルナティアが知り、自分のことじゃなかったことに、胸をなでおろしたのだった……