里音書房
第四話 護衛とネザーラビティア
 盗賊を改心させ、無事に炭鉱夫として復活を果たした盗賊たち。地域との交流も深まり、最初こそわだかまりはあったものの、時間が解決してくれると思っていたアリスの予想通り、交易が盛んになり外貨を獲得できるようになっていた。  そのため、身の危険を冒してまで盗賊をする必要がなくなったこともあり、地域は平和になっていった。アリスたちは炭坑の近くにある街にしばらく滞在していた。そんな中、盗賊がアリスの助言で更生したことが町中に広まった。  そのため、アリスたちは地域の立役者となってしまい、一躍注目の的になっていた。 「宿代はいいからねぇ。あんたたちにはお世話になりっきりだよ。」 「いや、そんな……」 「それに、盗賊たちを改心させたのが一番大きいね。このあたりも平和になるよ。」 「そ、そうですか……」 「それにねぇ。平和になったことで、かえって観光客が増えてこっちの懐も潤っちゃって。」 「ほんと、アリス様々さ。」 「そうなんですか……」  盗賊に身をやつしていたラフィアの幼馴染のラフィラスは、アリスたちと行動を共にするようになった。ラフィアも幼馴染が盗賊に身をやつしていた時は激高していたが、無事に盗賊を脱することができたこともあり、会えなかった時間をうめるように話題が尽きなかった。 「盗賊になった理由は、あれだけど……。どうして、私を頼ってくれなかったのよ。私たち、そんな仲じゃないでしょ?」 「あの時は、そんなこと。頭に浮かばなかったんだ。それに、ラフィア様に迷惑をかけたくなかったの……」 「そんなの……。まぁ。昔から、ラフィラスは自分で抱え込みがちだったけど、そういう時こそ、私を頼ってほしかったよ……」 「ラフィア様……」 「それに、“様”はつけなくていいからね。」  改めて仲間になったラフィラスは、申し訳なさそうな表情をしながら、アリスたちに進言をする。それは、盗賊たちを改心させたことが、ラフィラスの決心させたのだった。 「あ、あの。アリス様。」 「ラフィラスちゃん。私も、様はいらないからね。」 「は、はい。アリス。私事で申し訳ないのですが……」 「いいよ。」 「これからは、ネザーラビティアに向かってみては、いかがですか。」 「ネザーラビティアって、確か……」 「はい、私の…祖国です……」  商業の国として知られていたネザーラビティア。しかし、クラリティア人への依存度が高く、そのシステムの多くがクラリティア人任せだったことが仇となり、貧困への道を歩んでいた……  文明の利器を謳歌していたネザーラビティアは、一気に文明水準が逆戻りし、数十年・数百年後退したといわれるほどの状況になってしまっていた。そのため、貧富の格差が拡大してしまっていた。 「私がいたころは、まだそこまで格差が拡大していませんでしたが、気になって……」 「そうよね。ラフィラスの祖国だし、私からしても、ほっておけないからなぁ~」 「それもそうだし、私も様子見てみたいし……」  そんな会話をしていると、店主がアリスたちの話を聞いていたようで、アリスたちに助言をする。 「あなたたち、城に行くのかい?」 「えぇ。それが……」 「城に行くのなら、正門<せいもん>からはいかない方がいいよ。」 「どうしてです?」 「正門からだとね、客引きがひどくてねぇ。行けたもんじゃないのさ。」 「そんなに……」  ネザーラビティアは街道の交点に築かれた城塞都市で、近くの炭坑も領地の一部だった。そのため、王都との関連も高く交易も盛んにおこなわれていたが、戦以来。国交すら断絶していると同じ状態になっていた。  そのため、正門から出入りするのは観光客だけで、それ以外の交易商人などは、裏側から入るようになっていた。 「だからね、裏手側から入るといいよ。」 「ありがとうございます。」 「なに、いいってことさ。」  それからアリスたちは、ネザーラビティアへと向け歩いていく、道中は終始平原で見通しが利き遠くには城壁が見えていた。  高くそびえたつ城壁は、遠目から見れば立派な城壁だったが、近づくにつれ手入れが行き届かず、ところどころにツタが絡み古代遺跡の様相を醸し出していた。その様子に、ラフィラスはショックを受けていた。 「あれほど立派だった城壁が……こんなにも……」 「交流が無くなって、こうも簡単にボロボロに……」  街道を歩いていくアリスたちは、手前の街で知った裏手から入ることにする。城壁をたどり、裏手に回ると確かにそこからは普通に入ることができたのだが…… 「なに……ここ……」  城壁の中に入ったはずのアリスたち、しかしそこは城壁の中の生活とは思えないほどのスラム街が続き、かえって治安が悪い光景が広がっていた。治安を守るはずの兵士すらいなく、ところどころ破けた麻布を服のようにしてきている住人すらいた。  ところどころに、街灯こそあるものの、街灯にはほこりがかぶり蜘蛛の巣だらけになっていた。 「これが、ネザーラビティア?」 「信じられないけど……一応。城壁の中みたいだ……」  アリスたちは散々たる状況に困惑しながらも、安い宿屋を見つけて当面の拠点にすることにした。相部屋に用意されたベッドに腰掛けながら、アリスたちは今後の相談をすることにする。 「アリス様、これからどうしますか? 一応、ネザーラビティアには入りましたが……」 「それなんだけど、城内を巡ってみようかと……」 「でも、治安。悪そうだよ。来るとき見たでしょ? 下手に歩いたら、なにされるか……」 「確かにそうだけど……まずは、ネザーラビティアを知らないと……」  ネザーラビティアに到着したアリスたちが目撃したのは、スラム街と化した市民たちの姿だった。そんな、荒廃した都市と化していたネザーラビティアで、アリスは活動を始めます。
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