里音書房
第七話 幼い王女とネザーラビティア
「あ、あの……ミリアナ様?」  初めて見たクラリティア人のアリスに興味津々のミリアナは、ペタペタとアリスの耳に触れたり髪に触れてみたりと、アリスのあちらこちらを触っていた。  一方のアリスも、相手が王女なこともあり、無下に拒むわけにもいかず困てしまっていた。 「姫様!」 「あぁ。ぎ、ギリアス。あ、ごめんなさい。アリス様。つい……」 「い、いえ。大丈夫です。」 「姫様は、本当に始めてみるものには目がないんですから……」 「ギリアス。だって、初めてなのよ? クラリティア人を見るのって……」  父で国王だったラティオスの第一子女で、自動的に引き継ぐことになったミリアナは、父の急逝を悲しむ間もなく、王女としてより良いものをと悪戦苦闘していた。ギリアスもサポートになっていたが、多くの大臣が離反しネザーラビティアを離れていた。  そのことで、ミリアナの周りにはギリアスしかいなくなっていた。そんなギリアスに、ネザーラビティアをどう発展させたいのか、どんな都市にしたいと幼いながらに、夢事のように語っていた。それを一生懸命に、ギリアスは叶えようと努力をしていた。 「その結果、頭でっかちになったんだよな? ギリアス?」 「むっ。なんだよ、頭でっかちって……」 「あ、サリティス~~」 「姫様、お久しぶりです。」  後からやってきたサリティスは、親し気に王女と話す。まるで旧友のように話す姿は、かなりの親密さだった。 「サリティスさん。ミリアナ王女と……」 「あぁ、かなり小さいころからの仲だからなぁ。確か、姫様の初恋の相手、ギリアスだったよな?」 「ちょっ。サリティス?! それ、言わないでよぉ。」 「おや、ダメだったか?」 「あ、あの時は、まだ子供だったし……」  まさかの初恋の相手を言われてしまい、一気に真っ赤な表情になる。幼いころとはいえ、数年前。さすがにアリスの手前、王女の立つ手がなあった。使者でもあるアリスの手前、王女らしいところを見せたかったミリアナだったが、興味の方が上回り王女らしく振舞えていなかったのだった。  しょんぼりとするミリアナだったが、変にかしこまられても困てしまうため、年相応の対応をされたことで、ミリアナらしい子供らしさが見えていた。 「ミリアナ様は、かわいらしい方なんですね。」 「アリス様まで……。私、王女なのに……」 「ありのままでいいんですよ。ミリアナ様は。」 「ギリアス~~」  ギリアスがサポートに入るることで、たじたじだったミリアナも、肩ひじを張らずにすんでいた。アリスはミリアナの初恋の相手がギリアスなのが納得で、そばで献身的にサポートしてくれる騎士がいれば、惚れないのがおかしい。  現に、こうして親し気に話している姿は、いまだ想いを寄せているようにすら見える。この場で聞くこともできたが、それでは芸がない。 『このことは、あとよね……』  アリスとミリアナは、ネザーラビティアの未来について話始める。それは、ミリアナの夢であり念願でもある。堰を切ったように話し始めるミリアナは、饒舌に話し始める。そのどれもが、絵空事のように聞こえるギリアスは、何とか現実にしようと苦戦した様子だった。 「あのね。それでね。アリス様!!」 「落ち着いて。ミリアナ様。」 「あっ、私ったら、また……」 「いいんですよ。そのくらい、ネザーラビティアのために、いろいろと考えいていたという証拠ですよ。」 「アリス様……」  応接間で対面したままの熱のこもった饒舌なミリアナロマンは、幼いなりの発想の自由さがあったがロマンの部類が多くなっていて、見方によっては独りよがりや悪く言えば独裁のように感じられなくもなかった……  ベランダに移動したミリアナとアリスは、視界に広がる城下の光景を眺める。周囲を見回すと、収入の低いその日暮らしをしている貧民街と、悠々自適な生活を謳歌している富裕街と格差が色分けされている状態だった。 「アリス様。このネザーラビティアには、ごらんのとおりに貧富の格差が広がりつつあります。」 「そこに、私は、市民がのびのびと生きる国にしたいのです。貧富の差もなく、だれもが自由で、日々飢えずに済む国に……」  ミリアナの理想は確かに心地よく、住人にとっては幸せな住環境を提供するという、王女として完璧に近い発想だった。しかし、その理想はあくまでも“理想”であることに……  そのことを理解していたアリスは、ミリアナの意見を生かしつつも、貧富の差を解消しつつ、それでいて“隷属”にならない範囲で、助言をすることにした。 「ミリアナ様。私に方法があります。任せてくれますか?」 「ホントに!? いいの?」 「えぇ。そのために、私が来ましたから。ミリアナ様。」 「ありがとう。アリス~。無事成功したら、何でもいいから、褒美をあげるわ」 「姫様!!」 「な、何でも?!」  アリスの中で、ミリアナの“なんでも”ということが頭をよぎった。  クラリティアで、忙しくなってしまい、もふることから縁遠くなっていたアリスにとって、嬉しすぎる発言だった。それも、王女自身から“なんでも”という言葉をもらったのだから、必然的にそのことしか頭の中に浮かばなかった…… 「姫様!! おいそれと、何でもといってはいけません!!」 「えぇっ、なんでよ~ギリアス……」 「これは、交渉術のひとつでして……」 「そんなのいいのよ。私がアリス様に褒美を上げたいのだから。」 「姫様……」  クリンとしたかわいらしい容姿と、アリナより一回り小さい王女は、ところどころムニムニしていて抱き心地がよさそうだった。 『ほ、報酬は、あ、アレよね。えへへ』  思わず怪しい笑いが漏れてしまうアリスの姿に、いささか不安を覚えたギリアスだった……
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