里音書房
第八話 幼い王女とアリスの描く未来
 アリスは応接間に戻り、実際にネザーラビティアの復興に対して、案を講じ始めた。その際に、アリスはサティリスに屋敷にいるアリナたちを案内してくれることをお願いする。サティリスの行動は早く、モノの数十分で城へと連れてきたのだが…… 「なんでコイツがいるんだ! 城の衛兵でありながら、盗賊の護衛に落ちぶれたコイツが!!」  ラフィラスの姿を見たギリアスは、激怒していた。一人残ったギリアスと、ラフィラスはかつて同胞だったこともあり、激怒するのは当然だった。 「そ、それは……」 「いえないよなぁ。逃げ出したんだからなぁ!」 「ギリアス。そこまでにして!」 「ラフィリア様。むぅ。」  この場にミリアナのほかに、王都の王家のラフィリアがいたことで、矛を収めてくれたギリアスだったが、ラフィリアがいなければもっと悪化したことが想像できた。それほどに、ギリアスは頭に血が上っていた。  その様子に、ミリアナもおびえてしまっていたが、アリスが取り持つことで何とかなっていた。それに…… 「王女様。お初にお目にかかります。アリナです。」 「あなたが、あの伝説お方のご子息の……」 「は、はい。」  いくところどころで、親の名前が出るアリナは、複雑な表情をしていた。しかし、まんざらでもない表情にも感じられた、アリスだった。  そして、何よりも背格好が似ていたとこで、まるで姉妹のような感じになっていたことが大きかった。 「ほんと、ミリアナ様とアリナって、背格好が同じくらいだから、姉妹みたいね。ふふ。」 「ええっ。そうかな?」  アリスにいわれたことで、ちょっとだけ意識するアリナ。向かい合った椅子にミリアナとギリアス、アリナとラフィリアが向かい合って座る。そうして、ネザーラビティアの今後について話を始める。 「ギリアスさん。意外と地下資源多いですよね。そこを収益の要にしたらどうでしょう?」 「アリスさん。それは、ミリアナ様にも提案はしたのですが……」  ギリアスはしぶしぶといった表情で、ミリアナからの了承を得られなかったことを暗にアリスに伝えていた。 「どうしてです? ミリアナ様。」 「えぇ。だって、すすっぽいし、服が黒くなるし……」 「ま、まぁ。」  おしゃれに関しても、敏感なお年頃のミリアナ。当然汚れる環境はどうしてもつらい、それはアリスにもわかるほどだった。  そこで、アリスは考え方の転換をした。それは、アリスが身に着けていたものがきっかけだった。 『ミリアナ様も、これを見たら……』  それは、アリスがしていたネックレスだった。それは、ダイヤのネックレスだったが、そこまで目立つものではなかった。しかし、これが同じ地下資源だとすれば、ミリアナも気が変わるだろうと思った。その予想は、見事に的中。 「でも、ミリアナ様……これ……」 「なに? アリ……ス?! なにそれ!! 綺麗。」  先ほどの無関心はどこへやら、目を輝かせてアリスの身に着けたネックレスにくぎ付けになる姿は、まさに乙女のそれだった。 「ミリアナ様。コレ。地下資源から取れるんですよ?」 「えっ? ほんと?」 「えぇ。ダイヤというのですが、これのほかにも、地下資源は多くあります。」 「ほんとに?!」  地下資源が豊富なネザーラビティアだったが、昨今の貧富の差により取引が停滞したことで、ダイヤなどの宝石類の取引がなくなっていた。それは、王女とて例外ではなく、ギリアスが生活を維持するために多くを換金してしまったことで、ミリアナは“宝石”というものを知らずに育っていたのだった。  確かに、手っ取り早く資産を手に入れるのであれば、宝石は重要な取引材料になる。お金の数十倍の利益を伴うこともある。まして、ネザーラビティアの現状であれば、ダイヤの一粒でもあれば、貧困層の家族が一か月の間、楽して暮らせる価値があった。 「触ってみますか?」 「いいの?」 「はい。」  ネックレスを外すと、ミリアナに手渡す。それを光にかざして見せたり、掌に載せてな楽しむなど、目を輝かせていた。 『アリス様。いいんですか? 我が国には、採掘の手段が……』 『あぁ、それなら、もう解決してますよ?』 『えっ? もしかして……盗賊を改心させたのって……』 『えぇ。私ですよ?』  ギリアスはアリス本人からの衝撃の告白に…… 「えええっ!!!!」 「おおっ。」 「どうしたの、ギリアス……」 「い、いえ。何でもありません……」 『そ、そんな。まさか……あの盗賊を? 一人で?』 『まぁ、私一人じゃなかったですけどね。アリナやラフィリアがいましたし。』  アリスは努めて検挙にギリアスに伝えるが、ギリアスは輪を書いて過大に評価する。それは、アリスがクラリティア人だからかそれとも、その手案に期待してのことなのかアリスにはわからなかった。  それでも、アリスたちは、そのことを示すためにラフィラスにお願いをする。それは、この場の誰よりも地下資源を熟知した人を呼び寄せたかったアリス。 「ラフィラスさん。ちょっといい?」 「はい、なんでしょう? アリス様。」 「元盗賊の親方……えっと……」 「ガイアスですか?」 「そう、ガイアスね。そのガイアスを連れてきてくれる?」 「はい。」  盗賊から改心したガイアスは、親方として活躍し始めていた。炭鉱のことを熟知していたうえ、メンテナンス方法を教えたことで、炭坑内のことをすべて任されているという満足感に鼻高々になっていた。  炭鉱をアリスが離れるときも、盗賊のかけらはどこへやら、もう完全に炭鉱の監督のような風情になっていた。 「彼なら、地下資源に関しては、右に出るものはいないでしょうし……」 「ええ。彼なら、地下資源に対する知識も豊富でしょうし……」  ギリアスはアリスのその発言に、待ったをかける。元衛士であり、現在は参謀を務めるギリアスが止めるのは、当たり前だった。何しろ、改心したとはいえ、元盗賊。そんな輩を場内に入れるなんて、自殺行為だった。 「アリス様、それはさすがに認められません。何かあったらどうするんですか。」 「ギリアスさん。彼が城内で謀反を起こすんじゃないかと、危惧してるんですよね?」 「えぇ。改心したとはいえ、元盗賊ですよ? 信用できるんですか?」  ギリアスの言うことは、ごもっともだった。  しかし、アリスはそのマイナスを差し引きをしても、プラスに傾くことに自信があった。 「ギリアスさん。」 「なんですか。」 「最初こそ、彼の信用はないのは当たり前です。私もそうです。」 「アリス様は……」 「私は、クラリティア人という名分があるから、信用に足るかもしれません。しかし、これが一般のラビティア人なら? 信用も変わってきますよね?」 「そ、それは……」 「そういうことです。いくら悪人だったからといって、阻害していては、互いのためになりません。」  アリスは整然とギリアスに諭すように話す。それは、アリス自身が経験したことで、阻害の中での体験だった。 『お互いが寄り添わないと、何も解決しないよ。』  そんな思いがアリスを突き動かしていた。  そして、アリスの指示を受けたラフィラスは、ガイアスを迎えに城を後にしたのだった。そして、残ったアリスたちはミリアナたちと今後の話に移る。 「アリス様。大丈夫でしょうか。ラフィラスは……あいつ。一目散に逃げ出したからなぁ~」 「ふふっ。大丈夫ですよ。彼女なら。ねぇ。ラフィリア。」 「えぇ。彼女はもう。大丈夫ですよ。」 「それなら、いいですが……」  アリスの支持を受けたラフィラスは、ガイアスを連れに炭鉱へと向かったのだった。
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