或ル少女 一
一
私がその少女と知り合ったのはもう十年も前のことである。
その時の私はまだ初々しい学生であった。
夏季休暇の半ば、私は当時の数少ない友人だった男(Sとしよう)に京都に行こうじゃないか、と半ば強引に誘われたので、僅かな蓄えを手にて旅路へ着いたのである。
もっともSの実家は京都であり、この旅はSの帰省の意味も含まれていた。なので私は殆ど自分の金を使うことなく旅をすることが出来たのだ。
ともあれ私は出発の日無事東京を去り、京都へと向かったのである。
相変わらず静かな新幹線の車内で私とSは下らない事を語らい合った。例えばであるが、当時Sが付き合っていた彼女の夜はこうであるとか、同じ大学の誰是はどうこうであるとか、そのような本当に品の無い話だ。
とはいえ男二人である、そのような話こそ会話が弾むのだ。
そうして移動時間を潰した私とSは、京都駅へと着くと山陰線に乗り換え、数駅行ったところで降りた。まだ少しばかり田の残るそこに、Sの実家はあった。
彼の家族は幸いな事に私を歓迎してくれた。それどころかあんな変わり者の友人になってくれてありがとう、と言われたほどである。少しばかりSの高校生活に興味を抱きつつ、彼は良い奴であると訂正しておいた。
そうして挨拶を済ませた後、夕食までの暇を潰そうと軽く歩こうと私は思い立った。ふと見た所北の方に小さな山が見えたので、先ずはその麓まで行くことにしたのである。
東京では味わえない長閑さを少し感じながら私は歩き続けた。青々とした田であるとか、少し広場になっている所で遊ぶ子供とかを横目に、黙々と歩いたのだ。
見るだけでは直ぐ近くに思えたのだが、実際にさて行こうとするとかなりの距離であった。私が麓に着いた頃には既に日が暮れかけ、赤々しい日がこの街を照らしていた。
目の前に広がる森を見つつ、さてどうしたものかと考えたその時、偶然一つの小道を目にしたのである。好奇心を擽られた私は、少しばかりなら帰りが遅くなっても良いだろう、とその道へと入っていった。
深い緑が覆い、赤いはずである空も見えないその道を、私はやはり黙々と歩いた。行けば行くほど緑は濃く、陽の光は届かなくなっていく。少しの恐怖を感じたのではあるが、私の好奇心はその感情をいとも簡単に打ち砕いたのだ。
そうして五分程歩いたところで、小さな広場、そしてそこで遊ぶ少女へと辿り着いたのである。
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