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ベルサウンドの物置
2018年11月6日 11:46
投稿カテゴリ : 記事

或ル少女 二

 二

 

 私は広場で独りで遊ぶ少女へと声を掛けた。

 「やあやあお嬢ちゃん、何をしているのかい?」

 沈黙。

 少女はゆっくりと振り返る。

 「ただ……遊んでいるの。お兄さんこそ何をしているの?」

 ふむ、何をしているかと問われれば難しい物だ。

 「まあ、ただ目的も無く歩いているだけですよ」

 ただふと目に付いた山へ行き、そして又好奇心の赴くまま歩き続けただけである。

 「そうですか、……そうですか」

 少女は繰り返した。森閑とした夕の中、少し沈んだ声で繰り返された。

 私はその何とも言えぬ曇りがかった横顔を見ると、何も言えなくなるである。

 ……長い長い沈黙を私は突き破り、「少しばかり、お話しませんか?」と声を掛けた。

 

 この森に惹かれただの、たまたま君を見かけだの、何て事の無い事から私は少しずつ語り掛ける。語り始めると先程までが嘘の様にどんどんと舌が回るもので、学生の私が今何をしているだとか、Sに連れられてこの町へ来たのであるとか、そうそのSという奴が如何に変人であるだとか懸命に語り掛けたのだ。

 私は少女の雲を吹き飛ばさんと向きになっていたのかもしれない。将又、ただ単に話し相手に飢えていたのかもしれない。兎に角私は時間も忘れ、ただ語ったのだ。

 少女も健気なもので、私のつまらない語りに一々相槌を打ち、巧く話を聞いてくれたのだった。曇り切った彼女に、少しだけ隙間風が吹いた様に感じた。しかしいざ彼女の話を聞こうと思うと、再び深い沼へと彼女は沈んでいくのだ。そして私は共に沈むことも無く、ただ眺めるしか出来なかった……。

 

 僅かな月明かりが広場を照らし始めた頃、私の貧相な語りも終わりを迎えた。

 漸く時の流れに乗り直した私は、ああSに心配を掛けたかもなぁと思いつつ、少女に別れを切り出すことにした。

 「もうそろそろ私は行かなければならないよ、待つ人がいるのでね」

 また少女は何とも言えぬ横顔を見せると、少しばかり息を吐いてから「そうですか……それじゃあお別れですね」と呟いた。私は軽く頷き、「お嬢ちゃんは?」と問うた。

 「私はまだ帰らないわ、……まだ帰らないの」

 彼女は声を震わして答える。

 一体彼女に何があったのだろうかと考えるも、所詮私如きでは思い浮かばず黙る。

 また、沈黙。

 

 「……また来るよ、此処に」

 耐え切れず呟く。そして「またね、お嬢ちゃん」と言ってサッと背を向け、森から抜けんと歩き始めた。

 「あ、ありがとう、……またね、お兄さん」

 決して見えない筈のだが、少しばかり少女が笑っている様を私は見たのだった。

コメント

juri 5年前
888 EXC
語りが落ち着いた大学生って、雰囲気がいいですね~。携帯いじらないし。良い!
5年前
2000 EXC
💲
RYO 5年前
完全に掴まれてます。気になる、続き。
こういう大学生くらいのお兄さんと少女の、恋と憧れと父性の狭間みたいな関係めっちゃ性癖・・・
vavavavava 5年前
3939 EXC
続きが気になる〜😸
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