或ル少女 二
二
私は広場で独りで遊ぶ少女へと声を掛けた。
「やあやあお嬢ちゃん、何をしているのかい?」
沈黙。
少女はゆっくりと振り返る。
「ただ……遊んでいるの。お兄さんこそ何をしているの?」
ふむ、何をしているかと問われれば難しい物だ。
「まあ、ただ目的も無く歩いているだけですよ」
ただふと目に付いた山へ行き、そして又好奇心の赴くまま歩き続けただけである。
「そうですか、……そうですか」
少女は繰り返した。森閑とした夕の中、少し沈んだ声で繰り返された。
私はその何とも言えぬ曇りがかった横顔を見ると、何も言えなくなるである。
……長い長い沈黙を私は突き破り、「少しばかり、お話しませんか?」と声を掛けた。
この森に惹かれただの、たまたま君を見かけだの、何て事の無い事から私は少しずつ語り掛ける。語り始めると先程までが嘘の様にどんどんと舌が回るもので、学生の私が今何をしているだとか、Sに連れられてこの町へ来たのであるとか、そうそのSという奴が如何に変人であるだとか懸命に語り掛けたのだ。
私は少女の雲を吹き飛ばさんと向きになっていたのかもしれない。将又、ただ単に話し相手に飢えていたのかもしれない。兎に角私は時間も忘れ、ただ語ったのだ。
少女も健気なもので、私のつまらない語りに一々相槌を打ち、巧く話を聞いてくれたのだった。曇り切った彼女に、少しだけ隙間風が吹いた様に感じた。しかしいざ彼女の話を聞こうと思うと、再び深い沼へと彼女は沈んでいくのだ。そして私は共に沈むことも無く、ただ眺めるしか出来なかった……。
僅かな月明かりが広場を照らし始めた頃、私の貧相な語りも終わりを迎えた。
漸く時の流れに乗り直した私は、ああSに心配を掛けたかもなぁと思いつつ、少女に別れを切り出すことにした。
「もうそろそろ私は行かなければならないよ、待つ人がいるのでね」
また少女は何とも言えぬ横顔を見せると、少しばかり息を吐いてから「そうですか……それじゃあお別れですね」と呟いた。私は軽く頷き、「お嬢ちゃんは?」と問うた。
「私はまだ帰らないわ、……まだ帰らないの」
彼女は声を震わして答える。
一体彼女に何があったのだろうかと考えるも、所詮私如きでは思い浮かばず黙る。
また、沈黙。
「……また来るよ、此処に」
耐え切れず呟く。そして「またね、お嬢ちゃん」と言ってサッと背を向け、森から抜けんと歩き始めた。
「あ、ありがとう、……またね、お兄さん」
決して見えない筈のだが、少しばかり少女が笑っている様を私は見たのだった。
コメント
こういう大学生くらいのお兄さんと少女の、恋と憧れと父性の狭間みたいな関係めっちゃ性癖・・・