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異世界サイコロ旅行
2018年10月30日 15:05
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第一投 はじまりのサイコロ

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第一投 はじまりのサイコロ


 休日のバスターミナルの隅っこ。首からぶら下げたペンダント時計を見る。

「8時前か。早く着けて良かった♪」

 この時計、なんとお父さんの形見だよ。スケッチ旅始めた頃、お母さんがくれたの。時刻合わせいらないくらいすっごく精確だから、ちゃんとこれで時間を守りなさいって。
 結局守れてないから「ぶーちゃんに真珠あげちゃった」ってむくれてた。ぶーちゃんて⋯⋯こういうところが可愛いんだよ、お母さんは。

 サイコロを手の中でコロコロ転がしながら精神統一をする。本命は『2』、つまり茨城県大洗町。何度も候補地に入れてるギャルパン聖地に、私はまだ足を踏み入れたことがない。だってサイコロ任せだから!

「今日こそギャルパン! 行くよ! 『2』!!」

 空高くサイコロを放り投げる。私の投げ方は、回転をかけずに頭上高く投げたらあとは自然に任せるタイプ。サイコロが太陽と重なって眩しい、へ、へ、ヘックショイ!

 カツン! コロコロコロ⋯⋯

 のゎ! どこ!? どこになった!? 目は⋯⋯

「だーっ! 『6』かーっ! また外れた、大洗!」

 ガッッカリです。港町・大洗はギャルパンだけでなく、美味しい海鮮をお母さんにお土産にできるいいところなのに。

「ルールはルールだからね、従いますよ。えーっと 『6』ね?⋯⋯ん? 『6』?」

 スケッチブックを確認したときにはもう始まっちゃった! 足元に、辺り一面を照らす魔法陣! 目が、目がぁぁぁ、あああ~!

「う、うわあぁぁ! ちょっ! えぇぇ!?」

 飲み込まれる! そう思った瞬間、『6の目:お父さん』が書き変わった。

『異世界(アルカディア)』に。



『サイコロふったら異世界来ちゃった!?』
by せーじゅ



――コォーン、コォーン


 ぼんやりする⋯⋯、私は立ってるの? 倒れてるの? 昇ってるの? 落ちてるの⋯⋯? 上手く身動きできない。これきっと夢だ。夢の中っていつもこんな感じだもん。

 誰かこっち来る。少年⋯⋯

 ふがっ!

 なに!? 人の口の中にいきなり⋯⋯、ペロペロキャンディ!? 苦い! 不味い! 中途半端に甘い! やめて!
 はぁ、はぁ。ぎゃーっ、信じられない! 信じられない! 髪にキャンディ付けたぁ! うぅ、よだれとキャンディで私の自慢の髪型が⋯⋯ガビガビになっちゃうよぉ。

 ⋯⋯何がおかしいのさ。今の爆笑するとこ? 子供でも人にやって良いこと悪いことあるんだよ。いくら温厚な私でも君のいたずらは許せない! とりあえずお前のくわえてるペロペロキャンディ取って、謝らんかぁぁぁい!


――コォーン、コォーン


 心地いい不思議な音。教会の鐘の音みたい。霧雨かな? 水滴が肌に纏わりつく。
 ペロペロキャンディをむしり取ってやろうと伸ばした手は、少年へではなく空へ向かっていた。そう。私は今、草原に仰向けになって倒れてる。

 伸ばした手をそっと少し引っ込めたら、高い青空が見えた。
 髪がべとついてる。夢⋯⋯じゃなかったんだ? あの少年は誰だったんだろう。学校のいじわる男子みたいな⋯⋯でもあぁ、ほらもう顔忘れちゃった。とりあえずベタベタを利用してワックスみたいに髪を整えた。だって仕方ないじゃん?

 雲の流れがすごく速い。しかも手が届きそうなほど低い。あの白さにふわっと誘われて横に流されそうになる。ん? 太陽の近くを静かに飛んでるのは⋯⋯鷲、より大きいね。首がちょっと長い。ドラゴン? まさかね。


 ここ⋯⋯どこ? 私寝ちゃってたの? 起き上がらなくちゃ。ゆっくり⋯⋯あぁ、良かった。周りに誰もいなくて。
 サイコロ投げてから記憶がないなぁ。何の目を出したんだっけ。大洗は出なかった。

「えっと。たしか『6』。異世界⋯⋯、アルカディア」

 は? 異世界?

 立ち上がってみたら私の360°、Fantasficの謎のトップイラストレーター、”Arthur(アーサー)”が描いた絵画のような湿原だった。
 Fantasficのユーザーなら誰もが知っている不動の累計トップ。黎明期に数点の作品を残して忽然と消えた⋯⋯。そう、ほんとに、Arthurの作品を初めて見たときは衝撃を受けたの。だって本当にあの絵は誰にとっても異世界そのもので、人の想像力の向こう側の絵だったから。


 景色を見回す私の首が、油の切れたロボットみたい。完全にひよってる。向こうの崖の滝、え? 滝壺ないの? エ、エンジェルフォール? じゃぁ、その奥の山脈どんだけ高いの? エンジェルフォールを見下ろしてるじゃん。
 新緑の山々、シルクのごとく落ちる滝、水面に映える碧い空、春色の絵の具を撒いたような湿原、鼻をくすぐる草と花の甘い香り⋯⋯。全部全部、私が今まで感動してきた景色の美しさをはるかに超えてる。

 Arthur。まるであのイラストの中に飛び込んできたみたい⋯⋯。

 花が揺れ⋯⋯、うそ! ほんのり光る半透明のふわふわした⋯⋯、あれって妖精?
 ひ、瞳がついていかない。どこを見ればいい? こんな宝石箱をひっくり返したような世界のどこを!?

 “異世界”が現実味を帯びてくる。

 どどど、どうしよう。出口は? 帰り道は!?
 だいぶパニくって、近くに落ちていたリュックから、愛用のスケッチブックとペンを取り出した。

 落ち着こ、一回落ち着こ。

 しばらく我も忘れて、ここがどこかって事も考えずに、必死にペンを動かすしかなかった。


 

 どのくらいスケッチブックに向かっていたかな? 集中すると時間を忘れるのは悪い癖ねー。
 一息ついてスケッチブックから顔をあげると、あれだけいた妖精達の姿がない。なんでだろ。雨が降るのかな。

 ビチャ。

 雨? 違う、後ろ⋯⋯。

 「ひっ」

 目が合った。
 ⋯⋯オークさん? こんにちは。お、お、お邪魔してます。そこの沼を潜って来たの? 体中、泥に濡れた剛毛に覆われてるけど。

 こ、来ないで。

 背丈は優に私の倍以上。腕の太さは私の胴回りくらい。棍棒とか武器は持ってないけどそんなもの必要なさそうですね。体重は何トンかな。でも走って逃げ切れる気なんてこれっぽっちも湧いてこないよ。
 下顎から上に向かって生える鋭い牙が2本。私、多分あれに喰われて死ぬの。

 門限どころか命が⋯⋯。

 喰われてすぐに死ねるならまだマシなのかな? こんな考えができるうちは、まだ余裕があるのかな。 

 ビチャ。 

 一匹だけじゃない! 少し離れた沼からまた這い上がってきた。
 二匹のオークがゆっくりと、確実に、獲物を逃がさないように、二足歩行でジリジリと包囲網を狭めてくる。
 そんな⋯⋯、もう⋯⋯。
 お母さん⋯⋯、お母さん⋯⋯。


「ウオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!」


 息が止まる。

 もうダメ。助かる可能性なんて欠片もない咆哮だ。体が一瞬で硬直して、耳の奥には激痛が走る。平衡感覚も無くなり、世界が揺れる。目からは涙が溢れて、瞬きすらできない。けれども、目が離せない。
 結局オークさん的に私まであと一歩というところに来るまで、指一本動かせなかった。震える唇から、かろうじて魂が悲鳴を上げる。

 「あ、あぁぁ、た、た、たす⋯⋯」 

 タスケテ⋯⋯。



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Comment

ミルキークイーン 6年前
オークのお約束。くっ、殺せっ!
綾鷹 6年前
777 EXC
異世界お約束のオークすこ笑
vavavavava 6年前
3939 EXC
😱