鳥に会えない物語 02
セカイがこうなったのは、随分と昔の話だ。
五年とか、十年とかじゃなくて、もっとたくさんの昔の話。
どうしてかと聞いても、いろんな答えが返ってきたので、私には分からなかった。
セーキマツがどうたら、スイセイがどうたら、ノストラダムがなんたら。
どの話もよく分からなかったけど、多分全部違うんだなってことだけは分かった。
このセカイは元々、モリがあって、ウミがあって、シゼンが豊かだったと言っていたのは多分、本当なんだと思う。
オトナの人たちに聞くと、決まって懐かしそうな、悲しそうな、そんな顔をしていた。
なんでこうなったか、本当のところは結局教えてくれなかったけど。
ジゴウジトクだとおじいさんは言っていた。テンバツなんだそうだ。
でも、そう思ってない人も多いみたいだから、それも違うらしい。
本当に違うのかな?なんて思ったけど、オトナの人たちがそう言ってるからそういうものなのかもしれない。
とりあえずただ一つ、確かなのは。今、セカイが広い荒野になっているということだけ。
オジサンが見せてくれたチズも、今となっては伸ばして食べるくらいしか出来ないと言っていた。
紙って食べれるんだろうか。
それを言っていたオジサンは、その後ミンナに怒られてた気がする。
「空、青いねー」
「そうだね。雲が無いから、どこまで行っても青色だ」
最後に雲を見たのは、どれくらい前だっただろうか。
一週間、もしかしたらイッカゲツ?くらい前?
「雲ってふわふわしてるのかな?」
「うーん、どうだろう。雲は水のつぶつぶだからね。柔らかくは無いんじゃないかな」
シューちゃんが当然のことのように言う。
「えーっ、本当?」
「本当だよ、スズナ。知らなかったのかい?」
疑ってみたけど、シューちゃんはやっぱり正しいと思う。
だけど、それを認めるのもちょっと悔しい。だってあの目はあほの子を見る目だ。
「水は空に浮かばないもん」
「普通は、ね。でも不思議な力が働いてるんだよ」
「不思議な力……もしかして魔法!?」
「さあ、どうだろうね」
魔法さんの力で水が浮いてるなら、私も浮けるのだろうか。
「私も空を飛べるのかなぁ」
「ウケるね」
一瞬肯定されたのかと思ったけど、今のは何か違わない?
水といえば、そろそろお水が欲しい。
手持ちのお水にはまだ余裕はあるけど、大分減ってきているのは確かだ。
アメちゃんが降ってきてくれたらいいんだけど。
「来い~アメちゃん来い~~」
空に向けてアメちゃんくださいとやってたら、シューちゃんが呆れた目でこっちを見ていた。
「何をやっているんだい?」
「お水が減ってきたなって思い出して」
「あぁ、雨乞いか。 MPを減らそうとしてるのかと思ったよ」
「エムピー?」
「ううん、なんでもない」
シューちゃんはたまによくわからないことを言う。
エムピーってなんだろう。カキピーの親せき?
「そうだね。明日……いや、明後日には降ってくれるんじゃないかな」
「明後日かー、それなら準備しなきゃだね」
アメちゃんに降ってほしいとは言ったけど、突然降られてもそれはそれで困る。
準備をしないといけないのだ。
よさそうな場所……といっても、基本は荒野なんだけど。
そういうのがあったらそれを利用するし、そうでないなら準備をして水を集めなきゃいけない。
それに、私も濡れるのはそんなに好きじゃない。
さておき。それから2回、オヒサマが沈んだ日。
丁度いい場所も見つからなかったので、シートを使ってお水を集める準備をしていた。
私とシューちゃんが座れる椅子を用意して、それに座る。
前に地べたに座っていたら、回りのアメちゃんでお尻が濡れてしまった。
あの時にシューちゃんに笑われたことは忘れて……あれ、笑われたのって前の時だっけ?その前だっけ?
とにかく、忘れていない。
オヒサマが上に来る頃、ぽつり、ぽつり、と音がし始めた。
アメちゃんだ!
「雨の日にーはー傘を差しー さあ歌いましょー雨の歌―♪
ざあざあ奏でる雨音でー リズムを取ってー歌いましょー♪」
「その歌は何だい?」
「んー、アメちゃんの歌?ところでカサって何?」
オカーさんに教えてもらった歌、だったと思う。
アメちゃんが降ると歌ってくれた歌なのでアメちゃんの歌だ。
「うーん、どう説明すればいいかな。
今こうやって、シートの下で雨に濡れないようにしているだろう?」
「うん」
「同じようにシートを頭の上に広げて、取り付けた持ち手で手に持って歩けるようにした道具かな」
シートを持ち手で持つ?
「要するに、雨で濡れずに済む道具かな」
「えーっ、そんなのがあるの!?」
びっくりだ、もしそんな道具があるならアメちゃんが降ってても歩くことが出来る。
サイハテに辿り着くのも早くなりそうだ。
「欲しい!」
「え?」
「その、カサ?が欲しい!」
私がそう言うと、シューちゃんは困ったような笑顔を浮かべた。
「うん、そうだね。道すがら、探してみようか」
「おー、次の目的だー」
サイハテを目指す旅は長い。
だからこうやって、小さな目標をいつも見つけてる。
さあ、カサを探しに行こう!
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