鳥に会えない物語 03
「みーつーかーらーなーいー!」
カサを探し始めてから、四回くらいはオヒサマが沈んだ。
歩けども歩けども、ただただ荒野があるばかり。
途中で見つかったのは、使い道のない杖みたいな我楽多だけだった。
「まあまあ。そんなに上手くはいかないよ」
「むー、今度こそすぐに見つかると思ったのに」
ぶんぶんと我楽多を振り回せば、先端から伸びる針金ががしゃんがしゃんと音を鳴らす。
妙な形の杖だけど、何のための針金なんだろうか?
「けど、よくそんなものを見つけられたよね」
「うん?この我楽多?」
「うん、そのガラクタ。急に地面を掘り始めた時は、何事かと思ったよ」
「なんとなく、ここにありそうだ!って。思ったんだけどなあ」
角ばった白い石とか、人一人がすっぽりと収まりそうな大きな金属の格子とか、そういうのが転がっている場所でビビっと来た私は、その近くを頑張って掘った。
それはもう、赤色の空が夜の色になるまで頑張った。
結局、カサは見つからなかったけど。
とは、いっても。その代わりにこれを掘り出したときのシューちゃんの驚いた顔は忘れられない。
普段は余裕のあるシューちゃんの驚き顔、あれは永久保存が必要だ。心のアルバムに大事に保存だ。
この我楽多は、折角掘って見つけたものだからと持ち歩いてる。
杖を使うほどお婆ちゃんじゃないから、地面を叩いて遊んでるだけだけど。
がしゃんがしゃんと音が鳴るのは、聞いていて少し面白い。だけどそれも、ちょっと飽きてきた。
「それでも、その直感は大事にした方がいいかもしれないね」
「シューちゃんも直感で色々見つけるもんねー」
私と違って、シューちゃんの「なんとなく」はよく当たる。
やっぱり、運命力?とかが違うのかもしれない。
あるいは、サイノメがいいのか。
「僕の場合は……まあ、うん。そうだね。でもスズナの方が面白いものを見つけてるんじゃないかな?」
「えー、だっていつも欲しいものが見つからないんだもん」
ここだ!と思って歩いてみたり、掘ってみたりしても、見つかるのはいつも変なものばかり。
歩くのに疲れて、ジテンシャ?とかいうのを探したときも、見つかったのはひし形の鉄の棒。
オンセンという疲れがとれる場所を探してみれば、臭いお湯が出てびしょびしょになった。
旅の目当てのサイハテも、そこにいるはずのオオトリ様も、なんだかんだで見つかる気配もない。
あ、でも、方向はシューちゃんが選んでるから原因はシューちゃんにあるのかな?
「つまり全部シューちゃんが悪い!」
「急にどうしたんだい」
「んー、何もかもがシューちゃんのせい?」
「何の話かは分からないけど、酷い濡れ衣だと言っておくよ」
「ほんとにー?」
まあ、でも、こうして楽しく旅が続けられてるのはシューちゃんが居るからでもある。
一人だと、多分途中で疲れて寝てたと思う。
そもそもシューちゃんの示す方に行くと決めたのも、私だといえば確かにそうだ。
「ということは、七割くらいはシューちゃんのせい?」
「うーん、これは喜ぶべきなのか、怒るべきなのか。判断に迷うところだね」
困ったような笑顔でシューちゃんが言う。
むふふ、これも一つの復讐なのだ!
なんだか気恥ずかしくなったとか、そういうのじゃない。ほんとだよ?
うーん、それにしても。
やっぱり少し、物足りない。この旅にももう少し、シゲキが欲しいと思う。うん。
「でもやっぱり、そうだね。きっと濡れ衣に違いないよ。僕は悪くないはずだ。
原因はスズナ、君自身にあるんじゃないかな?」
シューちゃんが何か言ってるけど、何の話だろうか。よくわからない。
「そんなことより、そろそろ何かないかなぁ」
「そんなことって……スズナが言い出した話だよね?」
「そんなことは忘れた!」
じとっとした目線をシューちゃんが向けてくる。
わ、私の頭は都合のいいことしか覚えていない。
あーあー覚えてまーせーんー。
「ふふふ、まあ、スズナがそういうならそうしておこうか。ところで、何かって?」
「え?何かは、何か、かな?誰かでもいいと思う!」
別に進展でなくても、なんでもいい。ただ、なんだかこう、もう少し変化があっても良いはずだ。
「うーん、誰か、か」
「そろそろ他のヒトにも会いたいなーって思って」
シューちゃんと旅を始めて、オオトリ様を探し始めてからのオヒサマが昇った回数はもう数えていない。
そんな旅の中でも、ずっと、ずうっと、シューちゃん以外の誰かには会えていない。
別にシューちゃんが嫌なわけじゃないけど、これだけ二人きりだと他の人ともお話してみたくなる。
最後に会った他のヒトは、旅に出る前によくお話をしていたコーちゃんぐらいな気がする。
他には誰か……ダレが居たっけ?
「ふむ、難しいところだね」
「んー、やっぱり難しい?」
流石に誰かに会いたいだなんて、漠然としすぎてる。
それに、こんなことになったセカイだ。それが簡単に行かないことなんだろうなっていうのも分かってはいるつもりだ。
だけど。理解と納得は別の場所に住んでいる。
「でも今の場所は……うん、そうだね。多分、なんとかなると思うよ」
「ほんと!?流石シューちゃん!」
任せてよ、とシューちゃんが頷く。
流石はシューちゃんだ。ビバ、愛すべき親友。
シューちゃんがなんとかなると言ったら、それは本当になんとかなる。
「じゃあそうだな。方向はあっちでどうだい?」
シューちゃんがある一方向を指し示す。
といっても、周りにあるのは荒れた地面、どこへ行っても見た目は変わらない。
だけど示したのはシューちゃんだ。なら、きっとそっちに何かが、多分誰かが居るはずだ。
「おっけー!」
だからこそ、私は素直に従う。今のシューちゃんには、従うのが正しいと思うから。
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