『CROSS・HEART』Story.5 月下の賭け 5-4

「ただいま……って、あれ、なんだハール来てたんですか?」
「イズム!」
(あ、また「なんだ」って言われた……)
「イズムさまおかえりなさいー!」
 キヨは東の国の民族衣装、『キモノ』に似た服の袂をはためかせ、嬉しそうに彼に駆け寄る。ドアが開いたせいで、外の雨音がより大きく聞こえるようになった。
 よく見ると、彼の隣にはもう一人誰かいるようで。イズムはそちらに顔を向けると、小さく微笑んだ。
「……あ、入って構いませんよ」
 リセ達からは死角にいた人物に声をかけ、頷いたらしい気配がこちらにも伝わってくる。
 そして――――
「お邪魔しま――……ッて、リセ! ハール君!?」
 目の前に現れたのは、

「「フレイア――ッ!?」」

 見事にリセとハールの声が重なる。
「え!? えぇ!? フレイア!?」
「フレイア、何でお前イズムと――!?」
「そっちこそ何でイズム君の家に!?」
 互いに飲み込めない状況に、思わず叫んだ三人だった。
「あれ、知り合い……ですか?」
 その中で、のほほんとしているイズムとキヨ。
「んー……? そうみたいですねー……とにかくおかえりなさい、イズムさまっ!」
「はい。ただいま、キヨ」
 軽く微笑み合い、イズムはキヨの頭を何気無く撫でる。
「え!? じゃ、じゃあハール君の知り合いってのはもしかして!?」
「もしかしなくてもこの状況でそれ以外にないだろ!?」
「フレイア! よかったぁーっ!!」
「イズムさまー、お店まだ開いてたんですねー」
「ええ、まさか小麦粉が切れているのを忘れていたなんて……小麦粉、大切ですよね」
「はい! 小麦粉は大切です!」
 ……なかなか、マイペースな二人だった。


「……それで、イズムに拾われたってワケか」
「うんうん、いやー、ハール君ってばお優しいお友達をお持ちですねぇー」
 紅茶の入ったティーカップに角砂糖を一つ放り込むと、フレイアは言った。
「あ、ハール君砂糖いる?」
「いや、オレ甘いの苦手だからいい」
「え、ハール甘いもの駄目なの?」
「まぁ、モノによるけど甘いもの全般。子供のとき食べる機会が少なかったから、何か今でも慣れないんだよな」
 ――今までフレイアがしていた話を要約すると、二人を追いかけようとしたものの、不可抗力でそのまま人波に流されていってしまったそうだ。そして雨宿りをして途方に暮れていたところ、黒髪黒眼の少年――偶然にもハールの友人であるらしい、『イズム』と出会い、その好意に甘えることにしたら、この状況。という訳らしい。
 とりあえずハールは「それは大変だったな」とだけ言っておいた。雨の中お前を探し回った自分達も、わりと大変だったぞ、とも少々思いながら。現在三人は濡れて着るに耐えない状態となってしまった服から、リセとフレイアはキヨから、ハールはイズムから着るものを借り、そちらを着用していた。ちなみにそのイズムは、「何か食べるもの持ってきますね」、と一言残し厨房へ消えていった。
「とにかく、フレイアと会えてよかったよ……『始まり悪けりゃすべて良し』、だねっ」
「いや、それじゃ良くないでしょ……」
 すかさずツッコミをいれるフレイアだが、当のリセは自分の間違いに気付いていないようで、「ん?」と頭上に疑問符を浮かべただけだった。それも数秒程するとすぐに消え、ティーカップを手に取る。
 ところで、彼女がいたって普通に口を付けているこの紅茶。実は、とんでもないシロモノである。……単刀直入に言うと、砂糖の量が尋常ではない。スプーンでカップを掻き混ぜると、『じょーりじょーり』と音がする。……砂糖が、溶けきっていない。詰まるところ、彼女は『恐ろしく』甘党なのであった。
 ちなみに、フレイアが果敢にも『砂糖の飽和水溶液以上になった液体』に挑戦してみたところ、一口でテーブルに突っ伏し、イズムに水をコップになみなみ一杯頂く事とあいなった。
 今までも、こんな感じだったのだろうか。だとしたら、よく健康でいられたものである。
(……どういう生活してたんだか)
 とまあ、それはさて置き。
「ったく、心配かけんなっての……」
 深く溜め息をついて、ハールはフレイアに恨めしげな目を向ける。
「お? 心配してくれてたの?」
 小さく首を傾げ、正面に座るハールの顔を覗き込む。その仕草が何とも自然で愛らしい。
「……んな訳ねーだろ」
 ハールはそんな彼女から目を背けると、ぼそっと呟くように零した。
「あはっ、ご心配をおかけして申し訳ありませんっ」
 その様子に、自分の方が年下にも関わらず、思わず彼が「可愛い」などと感じてしまった。何か“慣れて”なくて初々しいと言うか……自分が慣れているという訳でもないが。何にせよ、本人に言ったら、きっと怒られるだろう。
 すると、ふいに彼女の後ろから声が掛かった。
「言ってるコトが矛盾してますよ、ハール。相変わらず素直じゃないですねぇ……」
「……イズム」
 イズムは手に持っていた皿を三人の前にそれぞれ置きながら話す。
「ハールもキヨぐらい素直になれば、少しは可愛げも出るんじゃないですか?」
 一瞬、窓から外を見ているキヨに視線を向け、すぐにハールへと微笑みかける。その言葉に、ハールは怪訝そうに言い返した。
「キヨぐらいって……限度があるだろ」
「そうですか? まぁ、ハールがあそこまで素直になったら、気持ち悪いですよね。あ、お二人とも、冷めない内にどうぞ。具が余りモノですみませんが……」
 ばっさりとハールとの会話を打ち切り、リセとフレイアに言う。どうやらこういったやりとりは、二人の間で日常茶飯事らしい。

コメント

ミルキークイーン 1ヶ月前
3156 EXC
砂糖の飽和水溶液・・・。ワイも甘党だけど流石にそれは無理やで(;´Д`)