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クロスクオリア
2020年2月7日 12:01
投稿カテゴリ : 記事

『CROSS・HEART』Story.6 星宿の地図 6-1


 ――――その一言に、一同は固まった。

「……えーと、今、何て仰いました?」
 フレイアはぎこちない笑みを張り付け、今晩泊まる予定である宿屋の老女にカウンター越しに訊き返した。
 それは勿論、その言葉が聞き取れなかったからではなく、それが聞き間違いであって欲しいと願った故の行動である。

 だが、

「だからね……」

 その願いは、

「此処から先は、通れないよ」

 ……あっさりと打ち砕かれた。
 そしてその一言に、一同は再度固まったのだった。




 話は数時間前まで遡る。
「……あ。分かれ道」
 道の途中、リセをはじめとし、四人は目の前に現れた分岐点に足を止めた。
「ハール君、コレどっちだっけー?」
 フレイアはそう言いながら道と道の間の地面に刺された路標に目をやり、書かれている文字を読み上げる。
「左は『アーディア街道』。右は……山みたいだね。あっ、けど……」
「どっちにしろ、『アリエタ』には着くな」
 地図を広げ、確認しながらハール。
「『アーディア街道』は舗装されているし、宿屋も所々にある」
 少しだけ背伸びをして、リセも地図を覗き込もうとする。それに気付いたハールは彼女にもよく見えるように手の位置を下げた。
「だけど此方を通ると山を迂回していくことになるから、アリエタまで結構かかるな……この距離だと――……六日ってとこだな」
「ふおっ、そんなにかかるんだ……!?」
「休憩も入れてな。あとまあ天候とか……何かあるかもしれないし、少し多めには見てる」
 彼女達が今まで通過してきた町々は田舎とはいえ長くても二日間歩けば着ける程度の位置関係にあった為、三倍の日数はかなり長く感じる。軽く目を見開くリセの隣からイズムが口を挟んだ。
「右側だと、どうなんです?」
「右はそのまま山を突っ切って行くから、大方……二、三日だろ。まぁ、舗装も何もねぇけど」
「速さを取るか、安全を取るかですね」
 図面上の距離を実単位に置き換え言うハール。それを聞き、イズムは「どうしましょうか?」と続けた。
 地図を囲み、暫し思案する四人。内三人は、この辺りに多く出没する魔物であれば難無く倒せる程度の実力の持ち主である。ゆえにそれらが多く生息する山に入ろうと別に躊躇する事柄でもない気がするのだが、全くの無傷で済むという保証もないし、賞金の出ない魔物は出来るだけ相手にしたくないというのが本音だ。しかし、日数の大幅な短縮が魅力であることは確かである。
「……ぃよおっし、右行こ右っ!」
 思案の沈黙を破る元気な声を上げたフレイアに、一同の視線が集まる。
「その心は?」
「そっちの方が楽しそうだからです!」
「日数は関係なしか」
 イズムの問いに手を挙げ答え、ハールのツッコミを華麗にスルーするフレイア。そして少し不満げな顔になると人差し指を立てて続けた。
「だってさー、前この街道通ったコトあるんだけど、同じような景色ばっかでつまんなかったんだもん」
 舗装をされている道といえば、延々と石畳やら煉瓦やらが続いていることだろう。地方のしがない一街道に楽しさを求めるのは、かなり酷だと思うのだが。一応彼女なりの解釈としては、周りの景色に変化があれば、退屈には分類されないらしい。
「フレイア、ここ通ったことあるんだ?」
 リセは微かに弾んだ声で訊く。初めて出逢った日より前の経緯は彼女からなに一つとして聞いていなかった為、些細なことだが、話してくれたということに嬉しさを覚えた。
「うん、まぁ、ちょっと前にね」
 だが当のフレイアはそれ以上話す気はない、もしくはその話題に興味が無いらしく、話を打ち切るように目を地図に落とした。リセはこれ以上深く追求することはできない雰囲気を感じとり、口を噤む。別に拒否された訳では無い。会話の流れだ。
(……と、思う)
「――で、異論は?」
 ハールが確認をとる。しかし特に反対する理由も無いので、そのまま一行の足は右の道へと運ばれた。
 青々とした草原を抜けて山に近づくにつれ、樹木が増えてくる。まばらだったそれらの密度は高くなってゆき、やがて視界は生い茂った深緑が多くを占めるようになった。 
「ね、フレイア……」
 歩き出して暫くの後、隣で歩を進めるフレイアにのみ聞こえる程度の声。ぼんやりとしていたら聞き逃していたかもしれない。少しだけ首を動かし、リセと視線を合わせる。
「ん?」
「山ってさ……魔物、いるかな」
 一瞬、何を言っているのだろうか、と眉を顰めそうになったが、すぐに合点がいった。これは質問ではない。有り得ないと解りつつも、『もしかしたら』の微かな希望を求める言葉。この場合、彼女の望む答えは、『否定』だろう。
(何となく思ってたけど、無邪気に見えてかなり気負う性格……かな)
 彼女の望む返答をするには事実が邪魔するので、とりあえずは平凡な答えを返した。
「そりゃいるでしょー。町から一歩出たら、もう出くわしてもおかしくはないし……森とか、ましてや山なんて、遭って当然かな。……町中だって、ちょっとはいるんだからさ」
「そう……だよね」
「魔物、心配?」
「うん、少し……」
「大丈夫だよー! また正義の美少女・フレイアちゃんが守ってあげる!」
「あっ、違うの、フレイア達が強いのは分かってるよ、そういう心配じゃ……なくて……」
 段々と声が弱々しくなっていき、最後の言葉は誰の耳にも届くことはなかった。
「んー? 大丈夫大丈夫! ねっ」

 続きは、『みんなだけ魔物と戦わせるのが申し訳ない』――かな?

「あ、うん……ありがと」
 彼女の寂しげな微笑でそれは確信に変わり、心中で唇が弧を描く。これで隠しているつもりなのだから可愛らしいものだ。その努力は意味をなしていないが。
 しかし、隠そうという気持ちがあるのは事実である。
 誰にだって、隠し事はあるものだ。

 そう、誰にでも。


コメント

杏仁 華澄 5ヶ月前
クッキーありがとうございます🍪✨
自分でネタバレしちゃうんですか!?うっかりですね!?
本編内容にはあまり触れない内容でいきたいです……!
Uribou 5ヶ月前
gift-item FP
たまにホントにネタバレしてるのあるんだよねぇ(; ・`д・´)
杏仁 華澄 5ヶ月前
某マンガアプリで更新分の最後に作者が作品に関係ないようなあるようなやっぱりないような一言コメントを付けるのを見てなんかいいなと思ったので真似してみようと思います。

金夜なので温泉と岩盤浴に行ってきます。