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Real;Users
2018年11月12日 12:00
投稿カテゴリ : 記事

プロローグ4

客観的な面で見ればあまりにも馬鹿すぎる……と思われても無理はないだろう。でも彼は選択し、もう決めたのだ。

蔑まれようが、気味悪がれようが、どのような形であれ、ただ一度の戦いの機会を、九死に一生を得たのであれば、他者を蔑ろにしようが、例えそれが自分の親であろうが、後悔もへったくれも存在しない。


そう……ーーー誰の物語でもない以上は。


「君ならそう言うと思ったよー!」

実際に見えている訳ではないが、目を輝かせてるであろう音程の上がった声が聞こえる。


「後の手続きはこっちで準備するから楽しみに待っててねー!わからないことは大体端末に書いてるから~!じゃあねー!期待してるよ~!」

此方の「ちょっと待て」の第一声を打ち切るように、一方的に僕の視界は真っ黒の世界から瞬時に、まるでチャンネルが変わるように現実の世界へと切り替わった。


無かった事のようにシャットアウトしたが、僕はちゃんと覚えている。さっき何があったか、何を決心したか。……そうだ、端末は…今は何時だ?


ピザ状の壁時計の方角へ目を動かせば針は双方3/4の方向に重なりかけている。つまり、もうすぐ21時だ。


僕の母親は今帰ってきたばかりで、すぐに料理の支度をする。今、彼女は台所にいる。

決心した。心中はしないが、お母さんは殺す。

僕は僕自身をもう殺したのだから、もう母親が愛するものは帰りはしない。全身が火の中に至る前に痛み無くして。


全部捨てれば、何かしら変わると思っていた。

実際そうだった。

結果的に僕に関わるものは全て死を選んだ。

やはり、僕は罪人。

でも、そこに悪意も後悔も生まれなかった。


僕自身は変わってはいない。『力』が僕の本性をさらけ出しただけ。

『力』は一種の麻薬であり、慣れれば慣れるほど、楽しくなっていく。やがて、楽しみの意味すら理解らず戦いに明け暮れる。


今になって言うが、全くもって傍迷惑な人間だな、と。


時間が過ぎるのは異様に長かった気がする。


端末はまだかと待っている間に後ろからグツグツと、煮えたぎる音とデミグラスソースの独特の香りが漂ってくる。

…ハッシュドビーフか。僕の大好物だ。


お母さんは食事ができても、僕に対して何も言おうとせずにただ無言で運んでくるし、彼女自身何も喋ろうとはしない。

そうなったのは…三ヶ月前だろうか。お母さんはそこまで抱え込む様な人間だっただろうか、急に、何も言わず死んだ様な目で家事をし、死んだ様に眠りにつく。生活そのものに変化は無かったが、無音の昼夜が幾度となく繰り返された。


でも、大体は自分の所為なんだとは自覚していた。


コトン


机の上に、硬いものが落ちる音が聴こえた。

机と平行に視線を合わせると目の前には真っ黒な正方形の端末。

よく見れば折り畳み式で、縦幅は3cm。横幅は8cmぐらい。

開けばスマートフォンと同じような感じだが、持ちやすいように収納式の取っ手が付いていたり便利だ。


早速開いてみれば、目に映ったものは

【端末情報 虎龍王 様】と右上に表示され、固定される。

その下に僕の【Real;Users】、【虎龍王】の全体図が描かれている。その右隣にメニューボタンが設置されている。

ちゃんといつも通りのゲームの装備であると同時に、よく見れば主力武器であるストーブレードも装備されていた。


どうやら、スマートフォンと同じく、指で反応するらしい。

メニューボタンを押せば、6種類のページ

【能力】【参加者一覧】【変身】【地図】【設定】【利用規約】が表示されていた。


…能力?能力なんて言っていたか…?僕は【能力】のページを開いた。


【固有能力】【点火】

自分自身が視認できる範囲の物質に点火を起こす事が可能。また、自分自身に火への完全耐性を取得する。

ただし、火力を上げる度に自分自身への体力の消費は激しくなる。


【個人戦闘能力】

目安:

E…一般人レベルまたはそれ以下

D…プロレベル

C…人類最高レベル

B…生物最高レベル

A…全てを超越したレベル

【筋力】A【瞬発力】D【一般知識】D

【動体視力】B【判断力】D【精神】C

【戦闘技能】A【防御力】B【容貌】E


……点火……本当に【虎龍王】を再現したかの様な能力だ。

個人戦闘能力…は他の参加者とでは異なるのだろうか、次は一覧を……見てみるか。


次に僕はそれに意識を奪われるかの如く黙々と端末を見続け、次に【参加者一覧】を押した…が、【虎龍王】のタグしか映っていない。


「……どういうことだ……?あっそういえば……」


代表取締役が「他の事は端末が教えてくれるよ」と言っていたのを思い出す。


その記憶を頼りに、【利用規約】を開き、細かい部分は斜め読みし、【参加者の情報について】のページに目を通す。


【参加者の情報について】

参加者同士が、半径3m以内の範囲で遭遇すると、端末がお互いの情報を自動的に共有し合います。情報はお互いが遭遇した参加者の情報全てを交換し合います。


すれ違い通信…みたいな感じか。……恐らくだが情報屋とか出てきそうだな……


そう、呑気に構えていた瞬間、あまりにも早すぎる宣告が出された。

【端末情報 ブランギャズ 様が登録されました】

「……え?」

その4秒後、デスゲームの幕が降ろされた。

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      自筆小説、『Real;Users』を書いています。デスゲームが苦手な方はお引き取りを
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