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失明剣士の恋は盲目
2018年11月5日 8:00
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愛の落下編17話 枝垂林の背中を見る八意単衣

――謎の魔法陣によって東京タワーが消失してから今日で10年が経ちました。


 空中に浮かんだテレビ番組を単衣はぼんやりと見ていた。


「ああ、今日で10年ですか。私、あまりよく覚えていないんですよね」


 隣の席に座る林が音声を聞いていたようで、そんなことを話す。


「10年前って、林はまだ2才じゃないか。当たり前だよ」


 そう言って笑う単衣を、林はぺしんと叩いた。


「女性の年齢をぺらぺらと喋らないでください」


 と林は怒った。


「年齢を気にする歳じゃないでしょ」


 と単衣が言うと、林はむすっと頬を膨らませて、ふてくされるのだった。


――私達は現在、もうすぐ建設されて半年になる新しいタワー。東京スタースピアの入り口にいます。今日は全長1600メートルの建物の中と、最上階から見える景色をお届けします。


 東京スタースピアの特集に、単衣は興味深々だった。10年前、突如謎の魔法陣によって東京タワーが消失した。その後すぐに新たな電波塔、東京スタースピアの建設が開始され、半年前にようやく完成したのだった。


 東京タワーが消失した当時、様々な憶測が飛び交った。その中で最も有力だったのが、大掛かりな転送魔法。現在、転送や召喚といった魔法は研究段階である。いまだ不明な点が多く、転送や召喚を人で行うにはかなりの危険があった。


「そういえば、この前の学園襲来事件の時。あれも多分召喚か転送魔法だよね」


 単衣が言った。


「ええ。結果的にあの事件は召喚魔法の実験が真の目的だったと、AIが判定しています」


 と林。ノウンが機能停止してその後、林や奥寺、弟切のA部隊とB部隊の活躍によって、星葉学園は一切の被害を出さずに済んだ。その後、ノウンの証言をもとにAIが判定したのは、研究段階である召喚魔法の実験が目的の可能性が高いとのこと。実在するものを他の場所に移動させる転送と違って、召喚は少なくともこの世界にないものを顕現させる魔法のため、難易度が高い。


「星葉学園は対特殊部隊を目指す者たちが沢山集まるところですから、ついでに潰すことが出来れば万々歳といったところだったのでしょう」


 と、星葉学園が狙われた理由を林は説明した。


「あ、スタースピアだ」


 林の話を聞きながらバスの車窓を眺めていた単衣が呟く。


「へえ。どんな感じですか」


 林は目が見えないので、単衣に感想を求めた。


「凄い。大きい。まだ遠いはずなのに、近くにあるみたい」


 単衣は車窓からスタースピアを眺めながら言う。東京タワーが赤、スカイツリーが青なら、スタースピアは黄色が基調のデザインだった。金色に輝くその建物は、太陽の光をきらきらと反射させている。


「今日の課外学習の帰りに寄れないかな」


 単衣が言った。


「もし寄れなかったら」


 そう言った林を単衣は見た。少し頬が紅かった。


「今度二人で行きましょう」


 林は単衣の肩に顔を預けた。


「うん」


 穏やかな喜びを感じながら、単衣は言った。


 



 小坂友里は仲睦まじい二人を複雑な気持ちで見ていた。


「単衣、変わったよね」


 隣に座る涼に、呟くように言った。


「そうだな」


 ぶっきらぼうに涼は答える。


「まだ、単衣のことが嫌い?」


 友里がそう聞くと、涼は不機嫌な顔を浮かべる。


「嫌いなんだね」


 その様子で察した友里は、そう言って笑う。


「お前はどうなんだよ」


 そう言った涼はとても真剣な表情をしていた。


「私は、悔しいかな」

「だろうな」


 幼馴染である涼は、友里の気持ちが何となくわかっていた。なにせ林が現れる前は友里が単衣を支えていたのだ。それは涼も理解していた。


「私ね。実は単衣に告白されたんだ」

「は、マジ?」

「うん、マジ」


 友里の顔はとても切なそうだった。


「断っちゃった」


 友里の言葉に、涼は絶句した。しかし、それなら単衣と林が付き合っているのも辻褄が合うと涼は思考する。


「友里は単衣が好きなんだと思ってたよ」


 涼が吐き捨てるように言った。ひどくどうでもいいように。


「違うよ」


 友里は言った。


――私が好きなのは、涼だよ


 その言葉を友里は呑み込む。そして沈黙。


 自動操縦のバスは音もなく揺れもなく、緩やかに進行する。


「こっち側じゃスタースピア見れないね」


 友里はそう言って車窓から外を眺めた。すぐ近くに高速道路のガラス張りの防音壁。現代の技術によって車の騒音は一切なくなり、もはや仕切りとしか意味を成さない防音壁は、各企業の広告スペースとして利用されていた。


(涼の気持ち、確かめなくっちゃ)


 友里はいまだにイチャイチャしている二人を見ながら、そんな決意をしたのだった。

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