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失明剣士の恋は盲目
2018年11月6日 13:00
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愛の落下編22話 オッドアイ

「枝垂流・柊」


 単衣は高速でシリエルに近づき、抜刀。そして高速で斬りつけ、そして納刀する。しかし単衣の攻撃はやはり防御魔法陣で防がれていた。


「ははっ! 良い攻撃だね、単衣」


 シリエルはとても楽しそうに笑う。


(シリエルの目、奇妙だ)


 単衣はずっとシリエルを観察していた。そして気付いた。シリエルは単衣を目で追えていない。しかし、単衣が斬りかかる直前に、その緑色の左目がちかちかと輝き、途端に魔法陣が発動されるのだ。


(あの目を、もっと見るんだ)


 単衣はシリエルの目を凝視する。


「やだ……そんなに見つめられちゃ……はうぅ」


 シリエルは顔を真っ赤にさせて、もじもじと悶えるように身体をくねらせる。


「えっ? あっ、その……」


 女性にそんな反応をされたことがない単衣は、どう反応すれば良いのかに困った。


「やっぱり単衣、格好良い」


 そう言ったシリエルの唇からハートが飛んできたような気がした。そのハートは単衣の心臓に直撃して、どくんと強く脈打つ。


「単衣、全部聞こえてますよ。本当に許しませんからねっ!」


 魔法で転送される林の声。とても怒っていることは単衣でもわかった。しかし胸の高鳴りは抑えることは出来ず、単衣はどうしたら良いか判断に困った。


(うん?)


 単衣はシリエルの背後に、違和感を感じた。何だか空間が歪んでいる様な、そんな違和感。


 単衣はそれを凝視する。よく見ると人型に空間が揺らめいていることに気付く。


(そうか、光学迷彩だ)


 対特殊部隊マニアの単衣は、対特殊部隊の装備で光学迷彩というものがあることを思い出す。特殊なスーツを着用すると、いつでも透明人間になれるという代物だ。これは魔獣にも対人間にも効果的だが、数が少なく実践に利用される例は少ないと単衣は知っていた。


(つまり、あれは味方。防御魔法陣のからくりが判明し次第攻撃するつもりなんだ。あの人なら、もしかしたら持っているかも知れない……)


 単衣は、先ほどシリエルを凝視した際に、防御魔法陣のからくりに気付いていた。そしてその弱点も。


「ねえ、シリエル。君のその左目、機械で出来ているよね」


 単衣のその言葉に、先程まで余裕だったシリエルの笑顔が消えた。先程凝視した時に単衣は気付いたのだ。その緑色の目。その瞳の虹彩部分は機械仕掛けになっていた。


「君はずっと僕の動きを捉えていなかった。なのに僕の攻撃を何度も完璧に防いだ。それは、その目が僕の攻撃に反応して、自動的に防御魔法陣を展開していたから、だよね」


 単衣の言葉に、シリエルは深く息を吐いた。


「せーいかいっ!」


 そしてにっこりと花笑み。


「私が対特殊部隊のセキュリティにハッキング出来るのも、単衣や枝垂林の攻撃を防げるのも、全部この目のおかげ」

「つまりその目を潰せば、林を襲っている無人ヘリも止められるし、君にも攻撃が出来る訳だ」


 単衣が言った。


「ははっ! あはははは!」


 シリエルは腹を抱えて高笑いした。その美しい声は空に消えていく。


「出来ないでしょう? 私に攻撃が届く前に、この目が自動的に防ぐもの」

「出来るよ」


 単衣は言い放った。


「EMPグレネードというものが、対特殊部隊の装備であるんだ」


 単衣が言いきると、からんと何かが転がる音が響いた。単衣とシリエルはそれを見た。手榴弾のように黒くて丸い球体が転がっていた。そして……。


 バシュン!


 それが爆発する。単衣が装着していたイヤホン型スマートフォンが火花を散らした。単衣は驚いて思わずそれを取り、投げ捨てた。


「うあぁぁぁあああああ!」


 絶叫。シリエルの悲痛な叫びが上空1600メートルに響き渡る。


 単衣はシリエルを見た。彼女の左目がばちばちと電流が迸っていた。


「EMP。君たちも使っていたよね。君たちのは通信を遮断するためのものだったけど、このEMPグレネードは違う。特定の範囲の電子デバイスを全て破壊するものなんだ」


 単衣がEMPについて説明をした。


「林、ヘリの様子はどう?」

「ええ、攻撃されなくなりました」


 ふう、と息を吐いて単衣は安堵した。


「ははっ! さっすが単衣。やるぅー!」


 単衣はシリエルを見た。バチバチと電流が迸っている左目を押さえて、苦しそうに息を切らしていた。冷や汗をかきながら不気味に笑っているのは、シリエルなりの強がりかもしれなかった。


「ちょっと予定、早めちゃおうかなー」


 そう言うと、辺り一帯が突然輝き出す。


「な、なんだ!?」


 単衣は周りを見渡した。東京スタースピアの一帯が強烈に輝きだしている。


「ここだけじゃないよ。ほら、あっち」


 シリエルが指した方向を単衣は見た。そこには東京スカイツリーが建っていて、ここと同じく光り輝いている。そしてその上空には巨大な魔法陣が描かれていた。


「ま、まさか」


 単衣は頭上を見た。東京スカイツリーと同じ状況。東京スタースピアの上空には巨大な魔法陣が展開されていた。


「単衣、今日で10年なんだって」


 シリエルのその言葉で、単衣は彼女がしようとしていることを察した。


「あのときは私じゃない人がやったんだけどね。今回は私。なんと二つの電波塔を転送しちゃいます!」


 シリエルはそう言うと両手を広げ、天を仰いだ。すると目が眩むほど輝きが増して、そして地響きが起こる。


 単衣は目を疑った。東京スタースピアを含め、魔法陣の範囲にあるもの全てが地上から離れ、浮上していく。車や木々が、まるで重力が逆になってしまったかのように、落下するように浮上していく。そして、東京スタースピアも根こそぎ地面から離れて浮上し、単衣が立っている場所が傾いて途端に不安定になる。この世の終わりのような光景。


 やがて傾きが増して、単衣はスタースピアから落下した。否、浮上していく。


「うわぁぁああああ」


 単衣の断末魔が響く。


「大丈夫よ、単衣。すぐに転送が始まる。そしたら、私がしっかりと受け止めてあげるからね」


 シリエルはそう言うとにっこりと笑った。