愛の落下編21話 対シリエル・ロロー
無数のドローンを前に、林は駆けだした。東京スタースピアの金色の外壁を猛スピードで駆け上がっていく。
ドローンが発砲した。アサルトライフルのように乱射された無数の弾丸が林に襲い掛かる。しかし、林に当たることなく通り過ぎていく。
「枝垂流・柳」
納刀した林はそのままスピードが落ちることなく突き進む。やがて無数のドローンの群れに突っ込んだ。
林がドローンを通り過ぎていく度に、そのドローンが火花を散らして墜落していく。
「枝垂流・杉」
枝垂流・杉は抜刀後に敵を斬った後、そのまま連続で他の敵を斬りつけ、最後に納刀する技である。林は視認できぬほどの速さで無数のドローンを全て斬り、そして納刀したのだ。
「さて、ドローンは片付きましたよ」
「ふん、まだまだこれからよ」
シリエルは再度召喚の魔法陣を展開。そこから現れたのは6機の戦車のようなロボット。たこのように足が八足に分かれていて、中心部には砲塔があった。
「行け!」
戦車ロボットがさながら蜘蛛のように素早く東京スタースピアの外壁を駆け下りていく。そしてそのまま林に向けて砲弾を発射した。
林に迫りくる無数の砲弾。
「枝垂流・欅」
瞬間。全ての砲弾は二つに裂かれて林を通り過ぎて行った。枝垂流・欅は抜刀後に実弾を斬りつけて、破壊する技である。枝垂流の速度によって切り裂かれるその技は、たとえ切っ先であっても強力な威力を有する。
「砲弾を避けてしまえば、地上が危険ですからね」
やがて林と戦車ロボット6機が相対した。
「ふふ。こんなものでは私を止めることなんて」
林はさらに速度を上げてその戦車ロボットの群れを通り過ぎた。途端に戦車ロボットが次々と落下していく。
「できませんよ」
全滅した戦車ロボットを後に、林は東京スタースピアを駆け上がっていく。
――林、増援が着いたわ。
対特殊部隊の無人ヘリが林を追い越して浮上していく。
「良いオモチャみーっけ!」
シリエルは3機のヘリを見るとニヤリと笑った。そして緑色の左目がちかちかと輝く。
――制御システムがハックされた!?
すると浮上していた3機のヘリは下降し、林の背後を囲む形で停滞した。
――林、逃げて!
奈々が叫ぶと、3機のヘリに搭載されたガトリングガンの一斉射撃。林は咄嗟に落下するように移動して避ける。重力に逆らって移動するよりも、重力に従って移動した方が早い。
林が猛スピードで駆け下りる。林が通り過ぎた直後に、金色の外壁が弾丸で弾け飛んだ。
(攻撃に転じるためにも、登らなくては!)
直線的に駆け下りていた林が、カーブを描くように方向転換をし始める。やがて再度駆け上る形となった。
林がどのヘリよりも高い位置に到達した。すると林は思い切り壁を蹴って近くのヘリに飛び移った。
「枝垂流・柊」
林はヘリの回転翼を斬った。視認できぬほどの速度で振られた林の愛刀、桜は鉄をも斬る。
*
「うへー。枝垂林、すごーい。もっと召喚しちゃおーっと」
次々とヘリを墜落させていく林を見ながら、再度魔法陣を展開。先程の対特殊部隊のヘリとは別の機体のヘリが無数に召喚され、林の方へ向かっていった。
「ロローさん」
単衣が立ち上がってシリエルの方へ向いた。
「シリエルと呼んで」
シリエルは顔を紅くして言う。
「シリエルさん。気持ちはとても嬉しい。でも、僕にはもう林がいる」
単衣の目は真剣だった。高所特有の強い風が吹き抜ける。
「林の邪魔はさせない」
「単衣。あなたは私に勝てないわ」
シリエルは子供をあやすように言った。シリエルは林の攻撃を防いでいる。林の攻撃が通じなかったシリエルに、勝てる見込みなんてなかった。
「わかってる。僕じゃ君に勝てない」
「なら」
「でもここで逃げたら、林の隣には永遠に立てない」
――それってすごく格好悪い
単衣は鞘に手をそえて構えた。
「いつか林の隣に立つ為に、僕は今を全力で勝つ!」
それは単衣の償い。恋人である単衣が他の女とキスした。林が傷ついていないはずがなかった。
「はは。あはははは!」
単衣の言葉を聞いたシリエルは高らかに笑った。
「いいよ。今ここにいるのは私とあなたのみ。二人で愛しあいましょう!」
単衣はありったけの魔力で自身に身体強化を施す。そして思い切り地面を蹴った。切っ先の間合いに入ると、抜刀してそのまま斬り、そして納刀する。
「枝垂流・柊」
バチンと電気が走ったような強烈な音。しかし、シリエルは倒れなかった。それどころか笑みを浮かべている。単衣の攻撃は防御魔法陣によって完全に防がれていた。
「落ちこぼれだったのに、強くなったね。単衣」
シリエルが言った。単衣を監視していたシリエルは単衣の事情を全て知っている。
「でも枝垂林の攻撃を防いだ私に、単衣の攻撃が通じるかしら」
シリエルはけらけらと笑った。