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失明剣士の恋は盲目
2018年11月5日 13:00
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愛の落下編18話 対魔獣部隊

 無機質な天井。無機質な床。2年Aクラスの生徒達の眼前にはガラス張りの壁があって、その先は吹き抜けとなっており下の階を見下ろせる構造だった。


 その部屋は会社のオフィスのように一人ひとりにデスクが用意されていて、隣が見えないように仕切りが設置してあった。


「ここがオペレーター室です」


 眼鏡を掛けた茶髪でスーツ姿の女性が言った。林の専属オペレーターの神原 奈々だ。


「対特殊部隊は、各オペレーターから情報や指示を仰ぎ行動します」


 そんな奈々の説明を聞きながら、2年A組の生徒たちは興味深そうに部屋を眺めていた。


「人数が多いB部隊は一チームに一人のオペレーター。A部隊は少数精鋭のためチームというものはなく、隊員一人につき一人のオペレーターがつきます。私はそこの枝垂林の専属オペレーターです」


 その説明に、生徒たちは林に注目した。少数精鋭であるA部隊の現役の隊員。生徒たちはこの前の実技試験でその実力の一端を見ているだけに、改めて林の凄さを実感した。


 ピコンとブザーが鳴った。


「エリアACB-255、一体」

「B-146、出動」


 オペレーター室が慌ただしくなる。


「魔獣一体が現れました。B部隊の146番のチームが出動します」


 奈々が丁寧に説明をする。


「一日に2、3回程魔獣が出現しています。つまり日常茶飯事ってことです」


 奈々がそう言って笑う。


 部屋の奥の方の壁に映像が投影された。映っているのはボロボロの市街地。瓦礫を避けながら進む四足歩行の獣が映し出されていた。腹部には黄色い玉のようなものが埋め込まれている。魔獣だ。


「このように部隊が到着するまでの間に、偵察ドローンで周囲と魔獣の様子を確認します」


 と奈々。


「タイプノーマル。フィールド市街地。天候晴れ。瓦礫により足場が不安定なので注意。魔獣以外に生体反応はありません」


 オペレーターが隊員に次々と情報を送る。


「部隊到着」


 映像がさらに二つほど投影される。片方には隊員達が映し出されていた。もう片方は隊員と魔獣が映った俯瞰視点の映像だ。


 と担当のオペレーター。五人の隊員は二手に分かれた。二人は壊れかけのビルの屋上に。残りの三人は魔獣の正面で待ち構える。


 ビルの屋上にいる隊員の一人は背中に背負っていた大きなスナイパーライフルを床に設置して構えた。


「攻撃開始」


 オペレーターが言った。するとズドンと破壊力のある銃声がスピーカーから響く。スナイパーが発砲したのだ。


 7.6ミリの弾丸がジャイロ回転をしながら魔獣に猛スピードで接近する。すると魔獣はなんと反応し、身体をそらして急所である腹部の核への直撃を防いだ。


「ヒット。しかし核にダメージなし」


 魔獣の反射神経に生徒たちは驚いた。


「クリムゾン・バースト!」


 魔獣の正面に相対していた隊員の一人が、予め準備していた魔法を放った。凄まじい破壊力を持った熱線。紅蓮に輝くそれが真っすぐ魔獣に向かっていく。熱線が通り過ぎた後は衝撃波で地面が抉りかえっていた。


 魔獣は対抗して口から魔法の矢を放った。それはかつて林が単衣の前で魔獣を倒した時、魔獣が林に対して放ったものと同じものだった。


 熱線と魔法の矢が衝突。瞬間、強烈な閃光。次に爆発音。そして最後に衝撃波。それによって瓦礫は吹き飛び、一部の建物が崩れる。砂煙で視界は不良。


「ヒット。核の一部が損傷。瀕死です」


 オペレーターが言った。オペレーターは特殊なカメラにより、たとえ視界不良であっても魔獣の状態を正確に把握できる。


「AIが逃亡の判定結果を出しています。狙撃班、準備してください」


 とオペレーター。砂煙が晴れると、魔獣はAIの判定通り逃げ出した。魔獣の身体はボロボロだった。腹部の核にはひびが入っていた。


 スナイパーライフルの銃口が光り輝く。実弾ではなく、魔法を発射する際に起こる現象だ。実弾よりはるかに威力が高いが、弾速が落ちる。つまり命中率が下がるので、腕の見せ所である。


 スナイパーが引き金を引いた。バシュンと実弾とはまた違う音が響き、青く光り輝く弾が、青い軌跡を残しながら高速で突き進む。そして魔獣の核の部分に直撃した。


 悲鳴のような咆哮。核が破壊され、そこから大量の光が溢れ出す。やがて魔獣は消滅した。


「うおぉぉおおおお!」


 歓声。そして拍手喝采。対特殊部隊を目指す者たちにとって、魔獣を討伐したところを特別な場所で見れたのはとても感動的なことだった。


「ふふ。さて」


 2年Aクラスの生徒たちが盛り上がっているのをよそに、林は部屋を出た。


「単衣を連れてこなくては」


 単衣の脈拍を感じ取っている林は、はぐれて慌てている単衣の様子が手に取るように把握していた。


「ふふ」


 林は単衣の様子がおかしくて、笑ったのだった。