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まきのさん
2018年10月31日 12:50
Posted category : Article

治療魔法でも癒やせない君の心07

「それで、保健室から出て行った平井先輩を見送って僕は恋塚に……」

 後日、僕はいつものように病院の裏手にある喫煙所にいた。診察終わりの綾瀬も一緒だ。

 しかし、一緒なのがまずかった。あの日、恋塚と共に午後の授業を抜け出して、転生ゲーム……については話せなかったが、都市伝説の一つとして悪魔の話をしていた僕は、綾瀬に無事を伝えるのをすっかり忘れていたのだ。

 それに気付いた時にはもう手遅れで、メールを送っても電話をかけても彼女からの返事は一切なかった。

 ようやく今日、綾瀬を直接捕まえることに成功したのだった。それからしたことと言えば、報告という形の言い訳大会だ。

 綾瀬には、なんとなく転生ゲームのことは話したくなかった。もしそうしたら、きっと飛びついてくるだろうから。僕は彼女の、そんな姿を、死に急ぐような様を見たくなかった。

 だから、例の悪魔の影のことは伏せて、ただ沈黙を嫌って話し続けていたのだが。綾瀬は一度も返事することがなかった。それでもまだこの場にいてくれているということは、情状酌量の余地有り、といった所だろうか。

「なあ、悪かったって」
「二回目」

 そう短く、突き放すように言う綾瀬の目はどこか虚空を漂っていた。

「やっと口を利く」
「大島さん、暴力とか嫌いだって言ってた」
「そりゃ、大嫌いさ。だからほとんどそれには頼ってないぞ」

 それも恋塚の助けがなければ危ない所だったけど。まあ、僕の誓いなんてその程度のもの、という話だ。漫画の主人公のように絶対に人を殴らないと決めているわけではない。

「根性なし、甲斐性無し」
「いや、まあ。悪かったって」
「三回目。……私、ずっと心配してたんだから。あんな形でほっぽり出されて、あのチャラい人に助けを求めて。周りではケンカだなんだって騒ぎになってたし。二人からは何の連絡もないし……!」
「いや、ごめん。忘れてたワケじゃ……」
「大島さん、嘘も嫌いだったよね」

 もう、言い逃れはできそうにない。僕は観念して両手を挙げた。

「ごめん、忘れてた。それ所じゃない緊急の用事があったんだ」
「ふーん。それってどんな?」
「……人の生死に関わる問題だった。助けなくちゃいけなかったんだ」

 しばし、綾瀬は僕の瞳を覗き込むように顔を近づけてきた。しかし、その美貌はこの距離では少し眩しすぎて、つい目を逸らしてしまった。

「……ぷっ、大島さん。本当にウソが下手だね」
「い、いや。嘘じゃないんだぞ?」
「はいはい。そうだよね。そうなんだろうね」

 綾瀬はようやく見せた笑顔を空に向ける。

「もしそんな、物語の主役みたいな人だったら。きっと私のことも救ってくれたもんね」

 えっ?

 頭の中に空っぽのハンマーが振り下ろされたような。衝撃とも呼べない、しかし足元はまるで宙に浮いているようで。綾瀬は今、なんと言った?

 しかし、それ以上綾瀬は語ることはなかった。代わりに、流し目で意地悪な笑みを浮かべる。

「それで、その後は男二人で仲良くやってたわけですか。私は好奇心からおっかなびっくり近づいてくる人の対処に追われて。授業中も囁き声が止まらなくて先生出てっちゃったほどなのに。この不良生徒め」

「そ、そんな大事になってるのか?」

 まるで地元の村のような噂の広がり方に僅かな戦慄をおぼえる。入学早々不良認定なんて冗談じゃないぞ。

「あはは、ウソウソ。騒ぎになってたのは本当だけど、暴行を止めるためのものだったって、みんな言ってたよ。大島さんの名前は……出てこなかったんじゃないかな?」

 言われて、ほっと胸を撫で下ろした。

「相変わらず肝が小さいねえ、大島さんは」
「これ以上変な目立ち方をしたくないんだよ。楽しい青春だろ? 僕らが求めているのは」
「そうだねー……。そういう意味じゃ、大島さんは楽しそう。こんな事件の中心にいるって、そうそうないよ?」

 それもいいことなのか悪いことなのか。そう呟きながら僕はタバコを取り出した。綾瀬に睨まれている中、一服する余裕は流石になかったのだ。

「クサ……タバコも、バレたらまずいよ?」
「大丈夫だって。なるべくガマンするようにしてるんだから」
「でも、今回人前で吸っちゃったんでしょ? びびらせるためだかなんだか知らないけど」
「学生服でタバコ吸ってる奴って怖くないか? 大事な演出だと思ったんだけど」
「別に。ただかっこ悪いだけだよ」

 そうか……。もうそういう考え方が古いというか、僕の小心を表しているのかもしれない。

「本当に大島さんはダメダメなんだから」
「うるさいな……。それが一番いいと思ったんだよ」
「もし退学にでもなったらどうするつもりなの?」
「それならそれでいいと思ってるよ」

 僕の言葉に、びくんと綾瀬の体が跳ねた。しまった、失言だったか?

「どういうこと? 大島さん」

 短い台詞の中にも、確かな怒気を感じる。そこにあるのは、さっきの比じゃない熱量だ。

「いや、言葉のあやだよ。別に行きたくないと思ってるわけじゃない」
「そうだよね。私たち、同じ願いを持った戦友のはずだもんね」
「ああそうだ。だからちょっと、その、離れろ。綾瀬」
「私に学校に行けって言ったのは大島さんなのに。なんでそう言うこと言うの? 一緒に通ってくれるって、そう言ったじゃん」
「あれ、学校に行くことになったのは綾瀬のせいじゃ……」
「今せいって言った?」

 ダメだ。言葉を重ねれば重ねるほど悪い方向へ向かっていく。徐々に綾瀬の顔も近づいてくる。こうなってくると、なまじ顔立ちが綺麗なだけに怖すぎる。

「ほんとに……忘れちゃってるの?」

 何より、その寂しそうな表情が心に刺さる。

「いや、待て。あの話をしたのは……二年くらい前だろ? 夏ごろの……そうだ、夏休みの終わり頃だ」

 自分で言って思い出してきた。忘れようとしていたわけではないが、決して思い出したい話でもなかった。僕のトラウマたる、悲劇そのものだったから。

 あの時はとにかく何もかもが目まぐるしくて仕方なかった。素人でただの子供だった僕が、曲がりなりにも医者のお手伝いをやっとできるようになった頃の話だ。

 意識が徐々に過去へ向かっていく。あれはそうだ、いつか綾瀬に天使の話を聞いた場所だ。別にそうと決めたわけじゃないが、二人でゆっくり話す時はあの場所でしようということになっていた。

 あの、遠くに走る電車しか見えない、僕らだけの場所。




『大島さん、私もう生きていく自信がないよ……』

 あの時はそうだ。綾瀬はそんなことを言っていた。長年の投薬生活の果てに、もう試す薬がなくなったのだ。主治医に、もう痛みに耐えて生きるしかないかもしれないと告げられ、彼女は絶望していた。

 彼女の抱える病、線維筋痛症は命に関わる病ではなかった。だからこそ彼女は立ち上がれなくなったのだ。それは真綿で首を絞められるように日々を病に食い散らかされながら、病に死ぬことも許されず、重い病であることも理解されず、生き地獄を過ごすことに他ならなかったから。

 綾瀬は強い子だ。長い闘病生活の間も悲観したような風はあまり見て取れなかった。きっと気丈にふるまっていたのだろう。

 心配している家族のために。懸命に治療しようとしている医者や僕らのために。何より、きっと自分が希望を保つためだった。そう、いつかは、と。いつか治るその時だけを希望に綾瀬は生きてきた。その希望が、なくなってしまったのだ。

『こんなに痛いのに、一生続くなんて……耐えられないよ。私には。ねえ、大島さん……』

 僕と年齢が近いこともあって、僕は彼女を熱心に看護をしていた。そんな彼女の口から、最も聞きたくなかった言葉を初めて聞いた。

 僕はその日、初めて彼女の涙を見た。強い子だった。決してそれまで、涙を見せることなんてなかった。

『大島さんは、みんなを助けてくれるんでしょ。辛い人の味方なんでしょ。じゃあ、私を……』

 僕はその時、どう思っていただろう。同情を覚えただろうか。どうにかしてやろうと思っただろうか。いや、正直に言おう。僕は泣いている彼女を見て、本当に綺麗だと見とれていた。まるで映画でも見ているかのように、ただ呆然と彼女を見つめていた。

 そんな僕と、治療を諦めた主治医とどんな差があるというのか。こんな風に彼女に助けを求められる資格すら、ないような気がした。

 だが、彼女が求めてくれるのなら、何にでも応えようと思っていた。

『私を、殺して。この苦しみから、助け出して……』

 分かった、と。言ったと思う。僕はその最低な望みを叶えると約束した。だって、そうするしかなかった。現代の医療では彼女の痛みを取り除くことはできなかった。

 超常の力を持つ僕でさえ、それは叶わなかった。なら、他にどんな手があるというのか。

『だけどその前に、僕の願いも聞いて欲しい』
『……なに?』
『君に死なれると困るんだ。僕を困らせるわけだから、一つくらい願い事を聞いてくれたっていいだろ?』

 それは咄嗟の思いつきだったが、以前から心の底でくすぶっていたものでもあった。

『……私が死んだって、何も変わらないよ』
『綾瀬が死んだって、確かに世界は何も変わらない。でも僕の人生が変わるんだ』

 あの時の綾瀬の呆気に取られた顔は、可愛かったな。

『僕がお願いしたいのはね、それに値するだけの代償さ』
『代償って……?』
『……君と同じ病気で苦しんでる人がどれだけいるか知ってる?』
『約、二百万人でしょ。でもそんなの関係ない。症状だってバラバラなんだから。大島さんまでそんなことを言うの? 同じように苦しんでる人がいるんだから生きろだなんて!私はそんなのとはワケが違うの! 痛みのレベルが違うんだよ!? ねえ今、こうしてる今だって、立っていられないくらいなのに……!』
『違うよ。そんな残酷なことを、僕は言わない。君も言ったように、その二百万人の内訳は様々だ。中には自分が病気だと気付いていない人もいる』

 だからね、と僕は続けた。とにかくその時は、言葉を続けるのに必死だった記憶がある。どうにかして彼女の目を死から逸らそうとしていた。

『一人でもいい。できる限りでいいから、綾瀬が苦しんでるってことを多くの人に伝えてからにして欲しいんだ』

 まだ顔立ちに幼さもあった綾瀬。それを見て、やっぱりこの子は何も知らないんだ、と思ったのを覚えている。

『辛いと正直に言うのは案外難しいことだ。でも綾瀬がその一歩を踏み出せば、そこの地形に変化が生まれるかもしれない。その変化は、同じように苦しんでる人達に光をもたらすかもしれない。どうせ死ぬなら、何かを遺して死にたいだろう?』

 あの時も僕は、タバコを吸っていたっけ。まだ始めたての頃だったかもしれない。叔父の吸う姿に影響されて、いや、ストレスから逃げようとも吸っていたかな。もう覚えてはいないけれど。

『同じ病気の人達からすれば、死にたくなるほどこの病気と向き合ってる綾瀬は、希望なんじゃないかな』

 僕はそんな気がするよ、と締めくくったような気がする。

『私が……希望?』
『日本の人口の約一・六%。僅かな人数かもしれないけど、無視していい数字でもない。知ってるだろ。この病気の患者は、泣き寝入りをすることが多いことを。そんな人たちに、助けを求めてもいいんだ、逃げてもいいんだって教えてあげることは、綾瀬にしかできないことだと思うんだ。それができたなら、僕が君を殺してあげるよ』

 綾瀬はしばらく乱れた呼吸を押さえるように深く深呼吸し、涙に濡れた瞳で僕を見返した。僕はあくまで平静を保って、なんてことはないんだよ、と言外に告げた。

『だからさ、まずは学校に行こうよ。最期くらい、楽しもうぜ』
『……無理だよ。こんな体じゃ』
『でも、いつかは、と思って勉強を続けてきたんだろ。それで、いい学校に入って少しでも良い思いをしてから死ねばいいんじゃないかな?』

 沈黙の時間は妙に長く感じた。後から思い返してもそう思うのだから、実際はもっと長かったことだろう。

『私、自信ないよ……これ以上、生きていける自信がない。学校なんかじゃ、私の希望にはなれないよ』
『大丈夫さ。なんなら僕も一緒に行ってもいい』
『大島さんが……? でも、もう高校生なんて年じゃないじゃん』
『それで少しでも綾瀬が楽になるなら、そのくらいなんでもないさ。事情が分かってるんだから、ちょっとした手助けくらいはできるよ』

 綾瀬の目が悲しげに伏せられる。その拍子にまた涙が頬を伝った。 

『あ、今僕には何もできないだろ、と思ったろ』
『……うん。大島さんの他の誰も、私の痛みなんて分かってくれなかった。ましてや、和らげることもできやしなかった』
『それじゃあ、僕が取っておきのおまじないをしてやるよ。いつでもできることじゃない、特別だぜ?』

 そう言って、僕は綾瀬の涙を素手でぬぐう。瞬間、僕の能力が発動した。頭が割れるような痛み、まるで関節が砕け散ったかのような衝撃、鼓動にあわせて上下する痛み、呼吸のたびに突き刺すような痛み。ガラス片が血管を切り裂くような痛み。痛み。痛み。

 これだけ長く、強く触れるのは、実は初めてだった。できるだけ能力の行使を避けてきた僕だが、この時ばかりはそういうわけにもいかなかったのだ。

 なるほど、これは死を考えても不思議じゃない。そんな拷問のようなひと時だった。こんな思いをしても……彼女に触れている間しか、痛みを忘れさせることができないなんて。まったく、不便な超能力である。

 どれほどか、ひどく長い時間そうしていた気がする。その時、綾瀬はハッと目を見開いた。

『……不思議。ちょっとだけ、ううん、すごく楽になった。あれ、なんで? どうして?』
『っ……。は、はは。すごいだろ? 良く効くんだ。これが。泣いてる子にしか使えないんだけどな』
『大島さんは……魔法でも使えるの?』
『そんな大層なもんじゃないけどな。でもどうだい、これなら、そうだな……一年目の冬くらいまで、頑張れないか? 一年間、思い切り楽しんで、そこで終わりにしよう。目標は、それまでにたくさんの人に痛いと伝えること。それでも誰も、何も助けが来なかったら、もう仕方ないよな。僕がお前を殺してやるよ。なるべく楽に、笑顔のままに』

 もちろん、その時の僕にそんなつもりはなかった。だが、道も目標も見失って暗闇にいる彼女には、例え死という形であってもゴールが必要だと思ったのだ。

 綾瀬はその時、未だ自分の身に起こったことが信じられないのか、全身を見渡してまた涙に潤んだ瞳で僕を見返した。それはまるで紫陽花のような。雨に打たれて咲き誇る、かの小さな美しい花を思わせた。

『冬まで……か。長いね』

 綾瀬はそうぽつりと呟いた。

『それができたなら、僕は何だって願いを聞いてやるよ』
『それじゃあ……どうにもならなかったら、本当に誰も助けてくれなかったら、一緒に死んでくれる?』

 きっとそれは、綾瀬の宣戦布告だった。お前にそれだけの覚悟があるのか、という脅し文句だった。

『ああ……いいよ。君一人も救えない人生になんて、価値はない』

 僕はその時、本当にそう思っていた。僕は他に取り柄のない、『触れた者の痛みを吸い取る』という超能力だけの男だった。その超能力でさえ失敗するようなら、僕の未来に意味はないとそう思っていた。……そして、今でもそう思っている。

『でも約束だぜ。それまで、精一杯頑張ってみよう。一緒にさ。この生き地獄を、二人で乗り切って終わりにしよう。僕らの青春は、それまでさ。これまで頑張れた綾瀬なんだ。あと少しだけ、頑張ってみないか』

 そっと綾瀬が自分の頬を触っていた僕の手を軽く握った。ああ、こんな痛みの中にあっても、彼女の手は温かかった。

『……うん。それじゃあ、一緒だよ。離れてっちゃ、嫌だよ? それなら、頑張れるから……。もし、また私が泣いちゃった時は、おまじないかけてね』

 そんな言葉で、会話は終わっていたように思う。




 脳内で急速に時間は巡り、現在の世界に帰ってきた。思い返せば、確かになぜ忘れたと詰め寄られてもおかしくない出来事だった。まあ別に忘れていたわけではない。思い出したくなかった、という方が正しい。だってそこにあるのは敗北の記憶だ。病に苦しむ彼女についに死を許してしまった、寂しい瞬間だったからだ。

 今にして思えば、ミネルカの話を蹴ったのは、あの瞬間の約束のせいかもしれないな。生き損なった人に来世という希望を見せる神と、絶望し死を選ぼうとする綾瀬に延長戦を申し込んだ僕。そこに同族嫌悪めいたものを感じたのかもしれない。

「そうだなあ、だから綾瀬が一緒に学校行こうって言ってくれた時は、僕は嬉しかったな。あの時の可愛い笑顔が忘れらんないよ」

「っ、大島さん。ごまかそうとしてる?」
「いや、別に。合ってるだろ? ちゃんと思い出したってば」

 綾瀬の目はまだうろんげに細められていたが、つい、とようやく僕から視線を逸らした。蛇に睨まれたカエルのように縮こまっていた僕も、ようやく一息だ。

 そして、思い出話をしている間ずっとほぼ密着していたことに気付き、顔に血が昇るのを感じた。

「わ、っと。ごめんな。なんか夢中になってた」
「ふ、ふふーん。それって、私の体に?」

 きめ細かい絹のような肌に化粧っ気のない清楚な顔立ち。ツンと上を向いた鼻がチャーミングだ。いや、綺麗だとは思っていた。顔立ちが整っているのは確かに分かっていた。

 だが、わずかに紅潮したその表情は、なんというか、ずるかった。

「そうだよ。大事な体なんだから、もっと気を遣えよな」
「……そう正直に言われると、なんか、もにょる……」

 ふん、と小さく鼻息を漏らすと、綾瀬は少しずつ姿勢を元に戻した。それに僅かながら残念な気持ちになる。

「私を生かしたのは大島さんの責任。本当なら、あの時私は死んでいたんだもの。今まで耐えてきたのだって、大島さんが与えてくれた目標と期限のおかげなの」

 だから、と綾瀬は目を伏せた。もういつも通りの距離感なのに、随分彼女を遠く感じる。

「退学になってもいいなんて、言わないで。大島さんが約束を破るなら、私にだって考えがあるんだからね」

 そんな警告を受けた、とある日のことだった。僕の脳裏に、いつまでも眼前に迫った綾瀬の顔が焼きついて離れなくなった。

 僕はその時、何か決定的なことを間違えた気がした。だけど、その正体は全く分からなくて、思考がまとまることはなかった。

 だから訊けなかった。綾瀬、今お前は学校にいて辛くはないのか、なんて。


 次→疑惑の行く末

Comment

vavavavava 6年前
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