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失明剣士の恋は盲目
2018年11月2日 3:00
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学園襲来編12話 強くなった八意単衣

「次、八意 単衣と東郷 東」


 秋田が言った。単衣と東郷が客席を降りてグラウンドに出た。単衣はちらりと東郷を見た。単衣は彼に寡黙な印象があった。単衣を馬鹿にしない、数少ないクラスメイトだった。


「東郷、単衣が相手だ。銃は使うな」


 秋田が言った。単衣は防御魔法が使えないので、銃を使用すると為す術がないまま試合が終わってしまう。そのため単衣と相手をする時は銃の使用を制限するハンデを課すのがこのクラスにおける決まりだった。


「秋田先生、もう必要ありません」


 単衣が言い放った。このハンデは惨めな気分になるので、ようやく気持ち良く断ることが出来た。


「ほう、よろしい。ではお互い準備」


 秋田が合図をする。単衣は夏休み中に出来たある目標を思い出していた。


「林と僕じゃあまりにも実力がかけ離れていて、追いつけるかどうかもあやしいけど」


 それは当然だった。夏休み前まで、身体強化の魔法すらおぼつかない状態だったのだ。夏休みの期間中に埋まるような差ではなかった。


「それでも、いつか君の隣に立つ為に」


 単衣は腰に携えた刀に手を掛ける。単衣の新しい刀、椿は林から譲り受けたものだ。桜と同じく鞘は白く鍔は黒い。刀身は乱れ刃。柄が紅く染められているのが桜と違うところだ。この刀を林が差し出した意味。単衣はこの刀に触れるたび、林が抱く自分への期待を自覚する。


「僕は今を全力で勝つ!」


 それは単衣のささやかな勝利宣言。そして未来のための決意表明でもあった。


「はじめ!」


 瞬時に単衣が動いた。林にはるかに及ばないが、学生とは思えないほどの速度で間合いを詰める。単衣が唯一使用できた身体強化。夏休み中に鍛え上げた成果である。


(剣先が届く間合い!)


 単衣は抜刀した。その勢いで東郷を斬りつけ、そして納刀した。


「枝垂流・柊」


 ばりんとガラスが割れるような音が響いた。東郷のまわりに魔方陣の破片が飛び散った。


 単衣はかなりの速度だったが、林のように視認出来ないほどではなかった。そのため東郷に咄嗟に防御する猶予を与えてしまったようだ。


 驚いていた東郷だったがすぐに切り替えて、腰にしまっていたハンドガンを取り出して発泡した。


 その瞬間、全てが遅く単衣は感じた。これは単衣の速度域の世界。単衣の目には空気中の塵すらも見えている。単衣はゆっくり、ゆっくりと飛んでくる弾丸を凝視する。全長40ミリの金色の弾丸は、ジャイロ回転をしながら真っ直ぐ飛んできていた。


 単衣は林が銃弾を弾く際の動きを思い出す。林は刀の切っ先の腹部分を銃弾の側面に密着させ、少しずつ力を加えることによってそらしていた。


 ゆっくり飛んでくる銃弾が間合いに入った。単衣は同じように抜刀し、切っ先の腹をそっと銃弾の側面につけた。そして力を込める。ぐぐぐと銃弾の軌道がそれていく。単衣は自分に当たらないことを確認すると、納刀した。


「枝垂流・柳」


 スロー再生の世界が通常の再生に戻ったかのように、単衣は意識を切り替えた。するともの凄い勢いの銃弾が単衣の脇を過ぎていった。


 東郷や他の生徒たちはかろうじて単衣の動きが見えていた。だからこそ信じられないといった目で単衣を見る。林に遠く及ばずとも、充分な芸当だった。


「強くなったな」


 寡黙な東郷が珍しく口を開いた。単衣は林以外からようやく認められて、とても嬉しい気持ちになった。


「ここからは本気だ」


 東郷は自身のまわりに防御用の魔法を発生させる。身を固めた後に東郷は次の魔法に移った。


「させない!」


 魔法は発動させないに越したことはない。単衣はすかさず接近して真正面の魔方陣を斬ろうとした。


(なんだ?)


 目の良い単衣は、いつもの防御魔方陣とは違うことに気付き、慌てて刀を引っ込めた。


「罠か!」

「何故気付いた」


 東郷は衝撃で破裂する魔方陣を展開していた。そしてその間に東郷の次の魔法の準備が整う。


「アクアスネーク」


 東郷のまわりに蛇の姿をした巨大な水流がいくつも発生した。それはまさに蛇のように意思を持ち、蛇のようにうねうねと蠢いていた。


 単衣はアクアスネークをじっくりと見た。何匹もいるように見えるが、その長い身体は最終的に一本の胴体に終着していることがわかる。そこに沢山の魔力が集まっていることもわかった。単衣の目はあまりにも良く魔力の流れが見える。見えているのは魔力そのものではなく、魔力が通り抜けることによって生じる歪みが見えているのだ。


(全部避けて、防御魔法陣のないところまで侵入して、斬る。出来るか)


 それを完璧にこなす自身が単衣には無かった。


(さっきの攻撃、失敗したのが痛かったなあ)


 罠に気付いたのは良かった。それで攻撃を切り上げてしまったのがまずかったと、単衣は反省した。あの時に強引に突破するべきだったのだ。


(自分の目を活かすんだ。よく見ろ)


 単衣はアクアスネークをじっくりと見た。何匹もいるように見えるが、その長い身体は最終的に一本の胴体に終着していることがわかる。そこに沢山の魔力が集まっていることもわかった。


(あそこを斬れば全部消えるか)


 やるしかないと、単衣は覚悟を決めた。刀に手を添え、身体強化の魔法を発動し、思い切り地面を蹴った。


 高速で移動する単衣。しかし東郷は即座に反応してアクアスネークで攻撃した。


(あと少し!)


 アクアスネークはとても素早く動き、単衣に差し迫る。一方で単衣もアクアスネークの胴体を間合いに入れた。


 アクアスネークの数匹が大きく口を開き、単衣を呑み込む寸前。その前に単衣はアクアスネークの胴体を斬ることに成功した。


(頼む、消えてくれ!)


 単衣の願いは届いた。東郷の魔力コントロールが完全に乱れ、アクアスネークは全て消失した。


(よし、そのまま!)


 単衣は勢いに乗ったまま、今度は東郷に肉薄する。浮いているだけの防御魔法陣なんて意味を成さない。単衣からしてみれば、別のところを斬れば良いだけだ。


「まだまだ!」


 東郷は自分の近くの魔法陣の一つを単衣に飛ばした。そこそこの速さで飛んできたが、単衣にとって避けるのは容易かった。


 魔法陣の横を通り過ぎる単衣。しかし突如、魔法陣が破裂した。東郷が魔法陣に仕込んだ罠を自らの意思で起動したのだった。しかし単衣の速さにタイミングが合わなかったらしい。単衣は衝撃で軽くバランスを崩したがすぐに立て直して、再度東郷に差し迫る。


 それに単衣は今のでわかったことがあった。破裂が思いのほか小規模だったのである。単衣は切っ先で魔法陣に衝撃を与えてすぐに退けば難なく避けることが出来ることを知った。


 東郷との間合いが縮まる。東郷は慌てて自身と単衣との間に魔法陣を一枚移動させた。単衣はそれを切っ先で斬って退く。するとやはり小規模の破裂が起きて、単衣の計算通り無傷でやり過ごすことが出来た。


 そして、東郷との距離はもう一歩踏み込めば斬れる距離まで来た。東郷の防御魔法陣は両サイドに一枚ずつあるのみ。単衣の全力の速さなら、きっと対処できないはずだ。


(いける!)


 単衣は全力で地面を蹴って東郷に肉薄した。


(!?)


 東郷はハンドガンを構えていた。しかし銃口は青く輝いている。魔力が込められている証だった。おそらくアクアスネークによって時間を稼がれている間に、魔力を込められてしまったのだろう。


「スプレッドアクア!」


 間合いに入る前に、拡散された無数の水の弾丸が発射された。もはや避けることは不可能だった。


(全力で、全て弾く!)


 かつて林がアサルトライフルの乱射を全て弾ききったように、単衣は全神経を集中させ出来る限り最速で刀を振った。弾丸ではなく魔法を発射させているので、弾丸よりもはるかにスピードは遅い。


(だ、駄目だ。間に合わない)


 弾ききることが出来ず、直撃することを単衣は直感した。何とか身を捩っても、右腕に直撃して攻撃は失敗する。


(もう、やるしかない)


 水の弾が単衣の刀を通り過ぎた。単衣は咄嗟に身を捩る。しかしそれでも単衣の右手に直撃するのは必至だった。単衣は咄嗟に刀を宙に投げた。そして水の弾丸は単衣に直撃した。


(いったあ!)


 激痛。しかし単衣は勢いを止めなかった。宙に投げた刀、椿は計算通り単衣の左手に収まる。


「な!?」


 とんでもない芸当を目の当たりにした東郷は、大変驚いた様子で声を挙げた。


「枝垂流・楓」


 刀の切っ先は東郷の首元に突き付けられていた。


「バッチを渡せ」


 単衣は言った。右腕の激痛によって余裕はなく、鬼気迫るものがあった。


 東郷は諦めて自身に下げたバッチを取ってそれを渡し、試合は終了した。


 すると、結構な衝撃によって単衣は地面に倒れた。


「やりましたね、単衣!」


 林が客席から全力で駆け寄って抱き着いたのだった。


「よく、よくやりました。単衣!」


 林は泣いていた。それに釣られて単衣も泣いた。


「でも、無茶しないでください。心配しましたよ」


 林は泣きながら言った。枝垂流・楓は使用を禁止されていた。


「本能なんだ」


 単衣は言う。


「またそんなことを言う」


 林はむすっと怒った表情を向けた。


「好きな人の前でカッコつけたがるのも、人間の本能なんだ」


 単衣は笑いながら言うのだった。

コメント

ミルキークイーン 6年前
1000 EXC
Fantasfic!