学園襲来編15話 21世紀の使者は希薄な愛を唄う
教室の窓ガラスが割れた。一機のアンドロイドと、剣を携えた男がクラスに侵入してきた。
「おいおい、逃げ遅れちまったよ」
涼が冷や汗をかきながら言った。
「希薄な愛によって育てられた者共。ごきげんよう」
アンドロイドが言った。人型のアンドロイドは男性の容姿をしているものの、顔の右目まわりや、口周り、さらに右腕全体や左足全体に肌がなく、機械がむき出しになっていた。アンドロイドというよりは、人間をやめた者といった方が正しかった。
「我は21世紀の使者、ノウン」
アンドロイドが名乗った。
「私はその護衛。ハオ・ユーだ」
剣を持った男が続いた。単衣はハオを見る。頬に大きなキズがあって、とても筋肉質な体型で、背も高い。真っ黒なの鎧は現代の技術が施された、対魔法の鎧。
「はっ! 剣とは、また時代遅れな武器を使いやがって」
涼が言った。彼の言う通り、銃や魔法がある現代において剣や刀、槍などの近接武器はもはや時代遅れだった。だからこそ単衣は負けてばかりだったし、林は異質だった。
「ふむ。銃や魔法でそこの枝垂を止められるなら、それも良かろう」
ハオが枝垂を指さして言った。
「ふふ。その口ぶり。まるで私を止められるかのようですね」
林がにこりと笑って言った。
「ああ、止められるとも」
ハオはそう言うと腰に掛けていた剣を抜いた。
「じゃあ、ちょっと試してみますか」
そう言った時には既に林はその場にいなかった。林は一瞬でハオに近づいて斬りつけ、納刀していた。単衣以外の誰もが林を捉えていないはずだった。
「これでわかっただろう」
ハオが言った。彼は無傷だった。単衣は全て見えていた。たしかにハオは林の刀をその剣で受け止めていたのだ。
「ふふ、やりますね」
攻撃を防がれてもなお、林は余裕だった。
「充分だろう。者共、聞け」
ノウンが言った。林はひとまずハオから距離を取る。
「現在、我々ハゼスが行ったEMPによって一部ID以外の通信は全て遮断されている」
林はその言葉を聞いてすぐに奈々へ通信を試みる。ノウンの言う通り、反応が無かった。
「そして、これを見よ」
空間に映像が投影される。およそ2才前後の男の子が無機質な部屋に放置されている映像だった。
「そんな、まさか……」
篠田が狼狽えた。篠田だけではない。単衣も衝撃が走った。その子供は目はくりくりしていて、口元に黒子がある。綺麗な顔をしていて、とある人物の面影があった。紛れもなく、先程嬉しげに単衣
に見せた篠田の子供だ。
「何が映っているのです? まさか、優の子供が?」
目の見えない林は映像の内容が把握出来ない。しかし優の尋常じゃない反応に、大方の予想がたっていた。
「この映像に映る子供は、一瞬で殺せる状態にある」
ノウンはその機械がむき出しの口を不気味に歪めた。
「さあ、篠田優。これはハゼスの勧誘である。貴様がこちらの仲間に加わるのであれば、この子供の安全は保証する。当然、我々に歯向かうのであれば、この子供に命はない」
篠田の表情が絶望に変わった。
「いや……そんな……」
篠田は膝を崩し、絶望に泣いた。
「さあ、篠田優。選択せよ」
ノウンが言った。篠田は立ち上がると、ゆっくりとノウンの元に歩み寄る。
「そうやって、隊員たちをそそのかして来たのですね」
林が怒気を含んで言った。林はようやく合点がいった。ハゼスによって引き抜かれた隊員の共通点である、既婚者で子持ち。それはつまりその隊員にとって大切な存在を人質に取ることによって、脅迫していたのだ。そのために子供というのは比較的簡単に人質に取れるため、都合が良かった。そして林の場合は、単衣が大切な存在。だから夏休みに単衣が人質に取られたのだ。
篠田がノウンのもとについた。するとノウンは篠田にその機械がむき出しになった手のひらをあてた。
「うあぁああああ!」
篠田に強烈な電撃が走る。身体をびくびくと振るわせ、篠田は絶叫した後、気絶した。
「さて、次は枝垂林。貴様がこちらに来ない限り、篠田優とその子供の安全は保証しない」
ノウンはそう言って気絶した篠田に銃を突き付けた。林は為す術もなく辛い表情を浮かべた。
(このままじゃ林が……)
単衣は思考する。
(このまま立っているだけじゃ駄目だ。僕に出来ること。何かないのか)
そして、浮かんだのは視力。単衣は自分の視力の良さを自覚していた。
(何かないのか。この状況を打開する、何か)
単衣は辺りを見渡した。
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