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失明剣士の恋は盲目
2018年11月2日 13:00
投稿カテゴリ : 記事

学園襲来編14話 ドローンと召喚魔法陣

「うん?」


 星葉学園の廊下に立っていた林は、異変を感じて空を見上げた。曇り空。雨が降り出しそうなほど暗い空だった。


「気のせいですか」


 林は意識を切り替える。


――何の話でしたっけ。

――ちょっと、真面目に聞いてよ。


 通話の相手は、林の専属オペレータの神原 奈々だ。


――えっと、既婚者で子持ちというのが、ハゼスによって引き抜かれた隊員の共通点、でしたっけ。

――AIが分析した結果ね。もちろん、鷲田も奥寺もそうだったわ。


 あの二人が所帯持ちだったことに、林はとても驚いた。


――何度も言ってますが、私も狙われたんですよ。当然私は未婚ですし、子供もいません。


 林は夏休みすぐに自分が狙われ、単衣が人質として誘拐されたことを思い出す。


――だから、失敗したじゃない。

――そういう問題じゃないでしょう。


 林はため息を一つ。


――それと、星葉学園で何かありそうよ。AIがそんな結果を出してる。


 奈々が言った。監視社会となった現代。不審者、不審車両、その他不自然なことは全て各場所毎に点数化され、様々なことに利用される。例えば一般人が点数の高い、すなわち不審なことが多く検知されている場所に立ち入ろうとすると、その一般人に警告を出して回避を促したりする。


――星葉学園付近の点数が上がってしまっていると。

――ええ。念のため護衛として篠田をつけたわ。もうそっちに着く頃だと思う。

――ええ確かに。聞きなれた脈拍が聞こえてきます。


 林はそう言ってエレベーターの方を見た。長い黒髪を揺らした女性が歩いてきていた。その女性は口紅が塗られた口を横に引き伸ばして、にこりと微笑みかける。


――優と合流しました。切ります。


 林は通話を切った。


「林。調子はどう?」


 篠田が言った


「おかげさまで、とても良いです。優、先日は助かりました」


 林が言った。篠田は単衣が誘拐された際、単衣の拘束を解いて、林に直撃するはずだった弾丸を防いだ。その後片腕が吹き飛んで意識を失いかけていた林を病院まで運んだのも篠田だ。あの一件以来、林にとって篠田は恩人だった。


「いえいえ。仕事ですから」


 そう言ってにっこりと笑う。


「ねえ、林のボーイフレンドはいないの?」

「今彼はお手洗いに。あ、丁度来たようですよ」


 林がトイレの方を見た。単衣が手を拭きながら出てくる。単衣は林と篠田に気付いた。


「あ、篠田さん。先日はどうも」


 単衣は不器用に頭を下げた。ブサイクな単衣は基本的に女性が苦手だった。


「単衣。優は私の友人です。あなたの顔を見て失礼なことを考えるような人ではありませんよ」


 林が優しく言った。


「ええ。単衣君。林の恋人なんでしょ? 色々聞きたいし、これから仲良くしましょうね」


 篠田がにっこりと笑った。


「そうだ。私の子供見る?」


 篠田が単衣に近寄って、映像を展開させた。篠田の子供が写った写真が空中に並べられる。


「2才でね。もうすぐ誕生日なの」


 単衣はじっくりとその子供を見た。男の子で、髪の毛は短く切られていた。目はくりくりしていて、口元に黒子があって、どの写真もにっこりと笑っていた。子供なのに整った綺麗な顔をしていて、どこか篠田の面影があった。


「あれ、ちょっとここ赤くなってませんか」


 単衣が一枚の写真を見て言った。口元の黒子の近くが少し赤くなっていた。


「ええ。これは今朝撮った写真でね。ニキビが出来ちゃってたの」


 困った顔をして篠田は言った。この時期の子供は皮膚のトラブルが多い。


「でもね。そういうちょっと可哀そうなところとかもね。愛しいというか。可愛いというか」


 そう言った篠田は口元を歪ませて、だらしのない笑顔を浮かべていた。


「相変わらず、親馬鹿ですね。優は」


 そう言って林は笑った。親馬鹿な篠田を林は気に入っていた。




 筆記授業。教室の前方、空中に大きな映像が投影される。教官の秋田がその映像の内容を丁寧に解説していく。単衣や他の生徒たちはその解説を真剣に聞いていた。ただ一人、単衣の前方に座る林だけは空の方を見ていた。


(やはりおかしい)


 林は確かに星葉学園上空にて異常を感じ取っていた。


「単衣」


 林は単衣に話しかける。


「どうしたの」

「空をじっくり見てみてください。何か見えませんか」


 林の言われた通り、単衣はじっくりと空を見た。相変わらず曇天。特に何もないように見える。ふと、飛んでいる鳥を見た。


(うん?)


 単衣はその鳥をじっくりと見る。よく見るとその鳥は機械で出来ていることがわかる。


「林。すごい遠くの方で機械の鳥が飛んでる」

「やはり」


 林は通話を開始した。


――奈々、優。上空に鳥型のドローン。警戒してください。

――了解。

――了解です。


 それぞれ返事を確認すると、林は通話を切る。


「林、監視ドローンが警告してる」


 単衣の目には、星葉学園の監視ドローンが鳥型のドローンの周りを浮遊して警告を発していた。それに構わず鳥形のドローンが行動に移す。


「林、魔法陣を描き始めた!」

「それは、まずいですね」


 林は立ち上がった。その瞬間、星葉学園全体にけたたましくアラートが鳴り響く。


「秋田先生。授業は中止。今すぐ生徒達を非難させてください」

「わかった」


 秋田先生は即座に授業を取りやめ、他の教官に連絡した後、生徒たちの避難誘導を開始した。


「林、だめだ。魔法陣が完成する!」


 単衣は上空の様子を完全に把握していた。監視ドローンが鳥型ドローンと交戦。監視ドローンが劣勢で、着々と魔法陣が完成に近づいていた。


「おいおい、どうなってやがる」


 気になって空の様子を見た涼が言った。もはや涼の視力でも視認できるほど巨大な魔法陣が完成しようとしていた。


「誰かがドローンを操作して、星葉学園上空に魔法陣を描いたのです。さて、何がおこるのか」


 林が言った。やがて魔法陣は完成した。巨大な魔法陣から稲妻が迸る。そして強烈に光り輝いたかと思えば、大量の何かがその魔法陣から湧いた。単衣はそれを見て、ぞっとする。


「魔獣だ……」

「なんだって!?」


 単衣の言葉に、涼は言葉を荒げた。


「まずいですね」


 林が言った。


「優、攻撃が来ます。対処して下さい」

――了解です。


 すると魔法陣の方から光線が放射される。魔獣が光線を放ったのだ。それは真っ直ぐ単衣がいるクラスの方へ放射された。


 突如、巨大な魔法陣が展開される。その魔法陣と光線がぶつかった。びりびりと稲妻や火花があちこちに散る。やがて光線は消失し、魔法陣も消えた。


「林!」


 篠田が駆け足でやってきた。


「優。あなたは防御優先。生徒避難先を攻撃から守って下さい。弟切が増援としてきたみたいですので、彼と私で対処します」


 林は上空でA部隊隊員の弟切 順の脈拍を感じ取っていた。


「了解です」


 篠田が言った。


「単衣、荒木。あなたは優と一緒に避難しなさい」


 教室に残っている生徒は単衣と涼だけだった。